H13. 9.27 前橋地裁 平成12(ワ)104 群馬県埋蔵文化財調査事業団損害賠償事件
H13. 9.27 前橋地裁 平成12(ワ)104 群馬県埋蔵文化財調査事業団損害賠償事件
平成13年9月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成12年(ワ)第104号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成13年7月11日
判 決
原 告 B,C,D
被 告 財団法人群馬県埋蔵文化事業団
主文
1 被告は,原告Bに対し金1009万4749円,原告Cに対し金789万4749円,原告Dに対し金789万4749円及び上記各金員に対する平成8年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,2分し,その1を原告ら,その余を被告の各負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することが出来る。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告Bに対し金2375万6246円,原告Cに対し金1825万6246円,原告Dに対し金1825万6246円及び上記各金員に対する平成8年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
(平成13年1月10日付「請求の拡張の申立」に基づく。)
第2 事案の概要
本件は,Aの被告に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権につき,Aの相続人である原告らが承継人としてその支払を求めた(原告Bは固有の慰謝料を併せて請求した)のに対し,被告がAに対する損害賠償支払義務の不存在等を主張し,また,原告Bの請求を争った事案である。
1 争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実
(1) 事故の発生 (甲2ないし3)
ア 発生年月日 平成8年10月2日午前9時10分頃
イ 事故発生場所 群馬県吾妻郡a町b発掘調査現場周りの護岸北側斜面
ウ 事故の状況 Aが,縄文時代の配石遺構の調査に関し,石の運搬方法を復元するために,「もっこ」を製作するについて,この材料となる「藤つる」を採取するため,遺跡周地の北側斜面を7,8メートル降り,幅1メートル程の比較的平坦な場所で,鎌,鉈を使用して,「藤つる」を採集する作業中,崖から転落した。
エ 負傷内容 Aは,頭部打撲,右肩,右膝骨折,全身打撲の傷害を負い,平成8年12月10日意識障害と四肢マヒの症状固定と認定され,脳挫傷による体幹機能傷害1級と認定されている(甲5ないし8)。
Aは,平成12年4月20日,本件事故の脳挫傷に起因する遷延性意識障害にて死亡した(甲13)。
Aの相続人は,妻の原告B,長男の原告C,二男の原告Dであり,Aに生じた損害は,原告B,原告C,原告Dが各3分の1宛相続した(甲14)。
(2) 被告の責任 被告は,使用者として,その雇用する労働者に対し,作業をさせるについては,十分な設備,器具及び安全教育を施し,転落などの危険を防止して労働者の生命,健康を守るべき労働契約上の安全配慮義務を負うものである。
(3) 損害
ア 入院雑費
Aは,前記事故直後,甲病院に出血対策のために搬入され,同処置後,c市d町の乙病院に事故日から平成8年12月26日まで入院し,ついでe市d町の丙病院に前記平成8年12月26日から平成9年3月31日まで入院し,さらにf市g町の丁病院に平成9年4月1日から同年8月31日まで入院していたが,同日以降は,原告Bが自宅に引き取り看病していた。
Aは,上記各病院に入院していた際,特別室しか空きが無かったため,入院費用の他室料等を請求され,108万9120円の費用の支出を余儀なくされたが,同額は被告により支払済みである。なお,治療費は,労災補償で賄われている。
イ 付添費用
Aは,前記のとおり,平成9年8月31日自宅に戻ったが,同日以降は,原告Bが付添看護をし,結局,前記のとおり,Aは死亡したものである。ところで,原告Bの付添看護費用は,Aが死亡しなければ,1日当たり6000円とすると総額は2150万8209円となるが,A死亡により,原告は付添費用の請求額を減縮した(後記)。
6000円×365日×9.8211=2150万8209円
ウ 家屋改造費用
Aは,前記のとおり障害を負ったが,寝たきりの同人の介護をするには,家屋の改造が必要であるとして,原告らは,158万9752円を請求し(甲11),後に増額した(後記)。
エ Aの後遺障害慰謝料
原告らは,Aが本件事故により前記のとおりの後遺障害を被り,これを慰謝するには2000万円が相当であると主張している(後記)。
オ 原告Bの慰謝料
原告Bは,Aを事故当日元気に送り出した。しかるに,Aは,同日,本件事故に遭遇し,同日の事故後は全く意思能力を喪失した状態になり,その後死亡したが,同原告の悲しみは深く,これを慰謝することが相当であるところ,同原告は慰謝料500万円を請求している(後記)。
カ 喪失利益
Aは,本件事故時満68歳であったが,丈夫であり,健康に稼働していた。Aは,家具製造職人であり,同職の技術があったが,事故当時,被告の営む埋蔵文化財発掘作業に携わっていたものである。
原告らは,Aの年齢に対応する平均収入が,365万6800円(平成9年賃金センサス産業計全労働者65歳以上)であり,A死亡前,労働喪失年数を平均余命20年の半分の10年,対応する新ホフマン係数7.9449により計算すると,2905万2910円となるが,A死亡に伴い,生前と死亡後に分けて逸失利益を請求している(後記)。
365万6800円×7.9449=2905万2910円
キ 弁護士費用
原告らは,被告が任意に賠償に応じないため,やむなく本件提訴に至ったが,このため,当初,A分として損害額の1割に該当する730万円,原告B分として,同じく1割の50万円の出捐を余儀なくされたと主張していた。
ク 原告らは,A死亡前,Aは8053万2046円,原告Bは550万円と各金員に対する事故時から民法所定の遅延損害金の支払を求めていたが,Aが前記日時に死亡したため,後記のとおり,請求額を減縮した。
2 原告らの主張
(1) 事故原因
被告は,使用者として,その雇用する労働者に対し,作業をさせるについては,十分な設備,器具及び安全教育を施し,転落などの危険を防止して労働者の生命,健康を守るべき労働契約上の安全配慮義務を負うものであるところ,被告は,「藤つる」を採取させるについて,同植物が傾斜地に自生する植物であり,前日の雨のため滑り易い状況であるから,同日の作業を中止させることは勿論,やむなく作業をさせざるを得ないとすれば,作業させるについて転落防止のために安全装備の腰紐を使用して作業をさせるか,最低限安全ヘルメットを着用させて作業に従事させるべき義務があるのに,上記義務を懈怠して,A他2名(E,F)の作業員に漫然前記作業をさせた過失により,Aは前記事故により前記傷害を負い,死亡したものであるから,被
告はこれによりAらに生じた損害の賠償責任を免れない(甲9,10)。
(2) 損害(平成13年7月11日付準備書面に基づく。)
(A分)
ア 付添費用 577万8000円
近親付添の標準は,1日6000円であり,963日間で,577万8000円となる。
イ 家屋改装費用 506万9752円
療養介護のため浴室改装
① 施行済分 348万円
② 未施行分 158万9752円
ウ 慰謝料(本人分) 2000万0000円
エ 逸失利益
① 生前喪失分 1299万4163円
365万6800円(平成9年度賃金センサス産業計全労働者65歳以上)×(3年+202/365)=1299万4163円
② 死亡後喪失分 1206万4295円
365万6800円×0.65(生活費控除)×5.0756(平均余命の半分6年間のライプニッツ係数)=1206万4295円
オ 葬儀費用 120万0000円
カ 弁護士費用 497万9000円
キ 計 6208万5210円
(原告B分)
ア 慰謝料 500万0000円
イ 弁護士費用 50万0000円
ウ 計 550万0000円
(控除分)
ア 労災保険金から
① 休業補償給付金 112万3992円
② 後遺障害補償給付金 358万0720円
③ 付添費用給付金 184万1600円
④ 計 654万6312円
イ 沼田市から住宅改造費補助金 75万0000円
ウ ア,イ合計 729万6312円
(請求額)
ア 原告B 2619万5070円
イ 原告C 2069万5070円
ウ 原告D 2069万5070円
エ 合計 6758万5210円
オ 控除後合計 6028万8898円
6758万5210円ー729万6312円=6028万8898円
3 被告の主張
(1) 原告らの主張は争う。
(2) 損害
ア 付添費用 481万5000円
5000円×963日=481万5000円
イ 家屋改装費用 0円
施行済みの348万円は,労働福祉事業法による給付金で賄われているため,損害ではない。
未施行部分は,A死亡により相当因果関係を欠くに至った。
ウ 逸失利益
① 生前喪失分 289万1617円
事故前平均賃金収入81万3755円×(3年+202日)=289万1617円
② 死亡後喪失分 144万4537円
81万3755円×0.65×2.371円(A死亡時72歳から75歳まで3年間の新ホフマン係数)=144万4537円
エ 慰謝料(原告トキヨ分を含む) 2000万0000円
オ 葬儀費用 100万0000円
カ 弁護士費用 0円
キ 合計 3015万1154円
ク 過失相殺控除分(6割) 1809万0692円
ケ 既払額 470万4712円
<労災保険金>
休業補償給付金112万3992円+後遺障害補償給付金358万0720円=470万4712円
コ 控除後損害額 735万5750円
4 争点
(1) 被告の安全配慮義務違反の有無
(2) Aの過失の有無と割合
(3) 損害額
第3 当裁判所の判断
1 証拠(証人G,同E,同,甲4の1~3,甲19,乙2ないし3,8,12の1~3等),前記認定の事実及び弁論の全趣旨を総合して,以下のとおり認定,判断し,証人G邦男の供述中これに反する部分は採用せず,他に同認定を覆すに足りる証拠はない。なお,本件事故現場及び付近は,別紙(乙4)のとおりである。
(1) 被告の債務不履行(安全配慮義務違反)
ア 被告は,hの崖の存在を認識しておきながら,安全教育を徹底していなかった。
即ち,被告は,発掘現場の回りにビニールテープを巡らせ,作業員にテープから外に出ないように指示していたものの,その理由につき,住民とのトラブル防止に重きを置き,危険性につき十分な説明をしていなかった。被告は,Fが周辺を散策していたことについても,特段の注意を与えていなかった。
イ Gは,被告の調査員として,本件遺跡発掘の責任者であり,Aら作業員(50人位)の上司ないし統括者的立場に立っていた(先生と呼ばれていた)ものであるところ,Fに対し,かねてより,平成8年11月頃に予定されていた現地(本件遺跡)説明会に備えて,「もっこ」作成用の藤蔓採取の相談をしており,本件事故当日の数日前頃にも,そのFから「藤蔓はあそこにあるよ。」と話し掛けられ,「そうか」と答えている。Gは,かかるFの発言からFが本件事故現場で藤蔓を採取する意思を有していることを察知し,危険防止のため当該場所での採取を禁ずるか,転落等防止のための原告主張のような具体的措置を講ずべきべきであったのに,それをしないまま時日を徒過した。
ウ 本件当日,Gは,Fから藤蔓採りの話を持ちかけられ,朝露で滑り易く危険であることを認識したうえ,10時のお茶の後にしたい旨意思表示しているが,上記F等の言動からFの藤蔓採取に行きたいとの意思を察知し,Fの動静に気を払うべきであったのに,これを怠った。
エ 本件事故発生の主因は,Fの暴走(藤蔓採取の場所,時期,装備等を勝手に判断)にあるところ,かかるFに対する藤蔓採取等についての教育不足があったことは否定出来ない。
(2) 原告側(故A)の過失
ア Aは,Gの「10時のお茶の後にしよう」との言葉を無視し,出発し,F,Eに引っ張られたとはいえ,彼らに指揮権があった訳でもなく,Gの意思を確認すべきであった。
イ Aは,外に出ないように張ってあるロープから,敢えて外に出ている。
ウ 本件事故現場(iダム予定地)の危険性は,専門的知識を有せずとも一見して明白であり,自らの判断で事故は避けられた可能性は否定出来ない。
エ 転落した場所は,藤蔓のあった場所からさらに2.3メートル下側である。藤蔓を採るためなら,そこまで降りる必要はなかった筈で,不用意に必要以上に踏み出した。
2 損害
証拠(原告B,甲18等),これまで認定の事実及び弁論の全趣旨に基づき,次のとおり認定,判断する。
(A分)
(1) 付添費用 577万8000円
Aは,自発性が全くなく,日常生活全介助の症状に照らし,1日6000円を認めるのが相当である。
(2) 家屋改装費 348万0000円
施行分については相当因果関係があり,未施行分は相当因果関係がない。
(3) 逸失利益
ア 生前喪失分 289万1617円
Aは,前職場を定年退職後8年間被告方で勤務していたものであり,他の職場への就労の蓋然性は認められず,事故前平均賃金81万3755円で計算するのが相当である。この点は被告主張のとおり。
イ 死亡後喪失分 268万4691円
前記81万3755円×0.65(生活費控除)×5.0756(死亡時75歳の平均余命の半分である6年間のライプニッツ係数)=268万4691円
(4) 慰謝料 2000万0000円
Aは,一家の支柱であり,2000万円が相当である。
(5) 葬儀費用 120万0000円
基準どおり。
(6) 計 3603万4308円
(7) 過失相殺分(2割) 720万6861円
(8) (7)控除後 2882万7446円
(9) 既払額 729万6312円
なお,労働福祉事業法による給付金342万円は,損害の補填でないので,控除しない。
(10) (9)控除後 2153万1134円
(11) 弁護士費用 215万3113円
(12) 合計 2368万4247円
(原告B分)
(1) 慰謝料 200万0000円
(2) 弁護士費用 20万0000円
(3) 合計 220万0000円
(総合計) 2588万4247円
(原告らの各損害額)
(1) 原告B 1009万4749円
2368万4247円÷3=789万4749円
789万4749円+220万円=1009万4749円
(2) 原告C 789万4749円
(3) 原告D 789万4749円
3 まとめ
以上によれば,本件事故により被った損害として,被告は,原告Bに対し金1009万4749円,原告Cに対し金789万4749円,原告Dに対し金789万4749円及び上記各金員に対する本件事故発生(不法行為)の日である平成8年10月2日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。
第4 結論
よって,原告の本訴請求を上記限度で理由があるので認容し,その余は失当として棄却することとし,主文のとおり判決する。
前橋地方裁判所民事第2部
裁 判 官 東 條 宏

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