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H13.12.10 新潟地裁 平成10(ワ)146 三昌堂退職金請求事件 主文:1 被告は,原告A7に対し,金50万3078円及びこれに対する平成7年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 その余の原告らの請求をいずれも棄却する。3 訴訟費用は,原告A7に生じた費用と被告に生じた費用の9分の1を被告の負担とし,その余の費用を原告A7を除く原告らの負担とする。4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

H13.12.10 新潟地裁 平成10(ワ)146 三昌堂退職金請求事件


H13.12.10 新潟地裁 平成10(ワ)146 三昌堂退職金請求事件


平成13年12月10日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成10年(ワ)第146号 退職金請求事件
口頭弁論終結日 平成13年9月7日
判決
 主文
1 被告は,原告A7に対し,金50万3078円及びこれに対する平成7年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 その余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告A7に生じた費用と被告に生じた費用の9分の1を被告の負担とし,その余の費用を原告A7を除く原告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
 事実及び理由
第1 請 求
1 被告は,原告A1に対し,金52万円及びこれに対する平成7年9月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告A2に対し,金206万0100円及びこれに対する平成7年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告A3に対し,金96万0800円及びこれに対する平成7年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告A4に対し,金51万6379円及びこれに対する平成7年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告A5に対し,金213万4700円及びこれに対する平成7年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告は,原告A6に対し,金12万円及びこれに対する平成7年9月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告は,原告A7に対し,金50万3078円及びこれに対する平成7年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被告は,原告A8に対し,金81万2052円及びこれに対する平成7年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9 被告は,原告A9に対し,金126万7800円及びこれに対する平成7年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告の従業員であった原告らが,被告が退職金規程による退職金の一部を支払わないとして,未払退職金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。被告は,原告らには退職金規程に定める減額事由があるとしてその支払義務を争う。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠〔甲1〕により容易に認められる事実)
(1) 当事者
 被告は,諸印刷,商業宣伝用品の販売等を目的とする株式会社であり,原告らは,いずれも被告の元従業員である。
(2) 被告における退職金規程
 被告における退職金規程には次の内容の定めがある。
ア 退職金の額は,別紙「退職金支給額一覧表」記載のとおりとする(第3条)。
イ 在職中功績があった者は,別途加算することがあり,その金額はその都度定める(第4条)。
ウ 会社に重大な損害を与え,その名誉もしくは信用を損じ,あるいは職場規律を著しく乱し,またはこれに準ずる行為により退職した者は退職金を減額して支給する(第6条)。
エ 計算根拠となる勤続年数の算出は,入社の日から退職の日までとし,勤続期間に1年未満の端数がある時は,月割で計算し1か月未満は切り上げる(第8条)。
オ 退職金の支給は,退職後1か月以内にその3分の1を,他の3分の2を6か月以内に支払う(第9条)。
(3) 原告らの勤続年数及び受給退職金額
 原告らの入社日,退職日,勤続年数,被告から現実に支給された退職金額,退職金規程第6条による減額がなければ支給されるはずの金額と現実の支給額の差額(本訴請求額)は次のとおりである。原告らは,全員,自己都合で被告を退職した。なお,以下では,各原告はその氏のみで表す。
ア 原告A1
入 社 日  昭和48年10月17日
退 職 日  平成7年3月17日
勤続年数  21年6か月
支 給 額  126万5523円
請 求 額  52万円
イ 原告A2
入 社 日  昭和29年11月1日
退 職 日  平成7年3月25日
勤続年数  40年5か月
支 給 額  324万2566円
請 求 額  206万0100円
ウ 原告A3
入 社 日  昭和40年9月2日
退 職 日  平成7年3月25日
勤続年数  29年7か月
支 給 額  212万4027円
請 求 額  96万0800円
エ 原告A4
入 社 日  昭和48年9月10日
退 職 日  平成7年3月3日
勤続年数  21年6か月
支 給 額  126万9144円
請 求 額  51万6379円
オ 原告A5
入 社 日  昭和29年4月1日
退 職 日  平成7年2月15日
勤続年数  40年11か月
支 給 額  323万3566円
請 求 額  213万4700円
カ 原告A6
入 社 日  昭和62年4月1日
退 職 日  平成7年3月17日
勤続年数  8年0か月
支 給 額  14万6250円
請 求 額  12万円
キ 原告A7
入 社 日  昭和49年1月30日
退 職 日  平成7年3月18日
勤続年数  21年2か月
支 給 額  125万4762円
請 求 額  50万3078円
ク 原告A8
入 社 日  昭和42年8月26日
退 職 日  平成7年2月15日
勤続年数  27年6か月
支 給 額  190万9428円
請 求 額  81万2052円
ケ 原告A9
入 社 日  昭和36年8月1日
退 職 日  平成7年2月15日
勤続年数  33年7か月
支 給 額  252万6098円
請 求 額  126万7800円
2 争 点
 原告らに退職金規程第6条の減額事由が認められるか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 総 論
ア 被告の主張
 被告は,平成7年1月31日当時,役員及び従業員116名を有していたが,平成7年1月に入ってから,被告の当時の代表取締役社長B1(以下「B1」という。),代表取締役会長B2(以下「B2」という。),取締役営業部長B3(以下「B3」という。)以下,原告らを含む当時の幹部従業員のほとんどすべて及び一部の幹部以外の従業員が共謀の上,被告と全く同種の印刷業を営む競合会社である株式会社ジョーメイ(以下「ジョーメイ」という。)を平成7年2月17日に設立した上,以下のような行為を行った。
(ア) 平成7年1月より3月にかけて,勤務時間内外を問わず,被告従業員
 の大半に対してジョーメイへの移籍を上司ないしその他の社内での序列が上の者から働きかけた。その結果,同年2月から3月にかけて被告からジョーメイに移籍した役員及び従業員は,55名に上った。ジョーメイは,被告から移籍した役員及び従業員のみにより,同年4月に営業を開始した。
(イ) 平成7年3月当時,B及びB3他と協議の上,主にC(以下「C」という。)及びD(以下「D」という。)が被告の営業部従業員に指示し,被告の顧客の大半に対して被告と取引きをやめ,ジョーメイと取引をするよう交渉を行わせ,実際に多くの顧客は,被告との取引をやめてジョーメイとの取引を開始した。
(ウ) 原告らの一部は,作業指示書を現物のまま持ち出し,あるいは持ち出しのためにコピーを作成した。また,原告らの一部は,在版フィルム(色分解されたフィルム)多数を,ジョーメイで使用するために被告から持ち出した。
(エ) Bらの上記(ア)の従業員引き抜き行為及び上記(イ)の顧客の収奪行為に
 より,被告の売上は著しく減少し,平成5年2月以降,毎年1月を除き月別の売上が1億8000万円を下回ったことがなかったにもかかわらず,平成7年4月の売上は8239万円余り,同年5月の売上は5044万円余りとなり,平成7年2月から5月までの売上は前年比で3億3740万8759円減少した。その結果,被告はこれに利益率18.9パーセントを掛けた6377万0255円の損害を被った。
(オ) ジョーメイ設立についての各原告の関与は後述のとおりである。被告は原告らのこれらの行為が退職金規程6条に定める「会社に重大な損失を与え,その信用を損じ,職場規律を著しく乱し,またはこれに準じる行為」に該当すると判断し,原告らの退職金を減額した。原告らのそれぞれの行為は,本件全体の流れの中で評価すれば,被告を倒産寸前の状態に追い込んでジョーメイの利を図る行為を行い,この情を知りつつその一部の行為に荷担したといえるのであり,退職金を減額する事情として適当である。原告らの退職金の支払請求には理由がない。
イ 原告らの主張
 ジョーメイはE(以下「E」という。)が設立し,代表取締役となった会社であり,Bが設立した会社ではなく,その設立準備を行った事実はない。
(ア) 原告らが被告の従業員に対し,ジョーメイに移籍するよう働きかけた
 り,取引先に対しジョーメイとの取引を行なうように要請した事実はなく,まして被告を倒産寸前の状態に追い込んでジョーメイの利を図る行為を行った事実は全くない。原告らを含む従業員が被告を退職してジョーメイに入社することは従業員の自由意思に基づく判断であり,顧客がどこの印刷会社と取引するかは各社の自由である。被告の売上高が減少したとすればそれは被告の経営体質,営業努力不足の結果である。また,在版フィルムの所有権は各顧客にあり,どこの印刷会社に印刷を依頼するかは顧客らの自由であって,印刷会社が在版フィルムを独占的に使用できるものではない。
(イ) 本件紛争は,原告らが従前勤務していた被告における株主と取締役との間の経営をめぐる紛争の渦中に従業員が巻き込まれる形で,従業員内部においても混乱が生じた状況下での従業員の被告退職及び新会社入社という事件であり,平成7年2月から3月にかけて,被告の主要仕入れ先で,昭和31年の増資の際に株式を一部引き受けていた株式会社山忠プロパティ(以下「山忠」という。)の被告従業員に対する同年2月8日付文書の発送に端を発して,従業員間において不安と動揺が蔓延し,従業員は各々に今後の被告の行く末を案じ,自らの身の処し方を模索する日々が続いた。本件は,そのような状況下において,他の従業員の進路について相談にのり,助言をし,また自らの進むべき道について模索し,被告からの退職を選択した原告らによる退職金請求であって,何ら退職金減額事由に該当するような事情は存しない。
(ウ) よって,原告らは,被告に対し,未払の退職金及びこれに対する各弁済期の翌日から,各支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 各原告ごとの減額事由について
ア 原告A1
(ア) 被告の主張
a 平成7年3月に,当時被告の版下・写植課長であった原告A1は,その部下であったF1,F2,F3及びF4に対し,自らが移籍することとしていたジョーメイヘの移籍を勧誘した。
b 原告A1は,被告を退職した平成7年3月17日ころ,被告で受注し,作業中であった北興化学,大口顧客であるコロナ等のための仕事を中止し,ジョーメイにおいてこれらの仕事を継続した。
c 原告A1は,平成7年3月20日ころ,F1に対し,被告はつぶれるのでジョーメイヘ移籍するよう強く勧誘した。
d 原告A1は,被告を退社するに当たり,被告の資産であるコロナ,ブルボン,一正蒲鉾,北興化学のための仕事に用いる被告所有の版下をジョーメイのために持ち出し,かつ移籍する版下写植課従業員にこれを持ち出させた。原告A1は,その部下であった版下・写植課の従業員に対し,これらの従業員が原告A1のところに持ってきた版下・ロゴ清刷のそれぞれについてジョーメイにおいて必要か否かを判断し,持ち出された版下・清刷を選択した。
(イ) 原告A1の主張
 原告A1がその部下に移籍を勧誘したり,版下をジョーメイのために持ち出したり部下に持ち出すよう指示した事実はない。金223万1904円に自己都合による減額率20%を減額して金178万5523円が受給すべき退職金額となる。
a 原告A1は,部下が今後の方向性を決めるにあたり,上司として知る範囲での被告の実情を説明し,相談相手となっていただけである。
b 原告A1は,コロナの仕事には関与しておらず,コロナとは無関係である。また,北興化学の仕事を中止した事実はなく,むしろ,被告退職後も,被告のために責任をもって残務処理をし,被告に利益をもたらしていた。
c Gは自らの意思と判断で被告を退職し,ジョーメイに入社した。
イ 原告A2
(ア) 被告の主張
a 平成7年3月,当時業務部次長であり,印刷工場の責任者であった原告A2は,被告を退社するに当たり,当時担当していた職務を何らの引継をもせずに放置したまま,ジョーメイヘ移籍した。
b 原告A2は,平成7年3月14日,原告A5と共に被告の断裁担当従業員全員を集め,ジョーメイに移籍するか,被告に残るか,どちらにも行かずに退職するか,3つの中から選択し,当日中に返事をするよう求めた。原告A2は,断裁担当の従業員に対し,被告に残れば倒産する旨述べ,被告従業員が被告に残らないように画策した。
(イ) 原告A2の主張
 原告A2が退職するにあたり,被告主張のような行為を行なった事実は存在しない。金662万8333円から自己都合による減額率20%を減額して金530万2666円が受給すべき退職金額となる。
a 原告A2は,当時業務部次長にすぎず,印刷工場の責任者ではなかったもので,主な仕事は日報の集計等であり,被告を退職するにあたっての引継は全く不要な職務であった。
b 原告A2が断裁担当従業員約8名の間で,被告の状況について情報が混在し,動揺が見られたので,次長の立場で右の者に対し知る限りでの現状を説明し,今後の方向性については各自の判断で決めてほしい旨の話をしたことはあるが,各従業員らに対し,選択を迫り,当日中に返事を求めるよう要求した事実はない。
ウ 原告A3
(ア) 被告の主張
a 原告A3は平成7年3月当時,被告の製版・刷版課長として,被告が所有する在版フィルムを直接管理する立場にあった。被告の営業用資産のうち容易に運び出せる動産で,もっとも営業のために価値があったのは,既に顧客のために作成した在版フィルムであった。この在版フィルムを管理していた原告A3は,主に当時の被告の営業担当でジョーメイヘ移籍した者が在版フィルムを選択し,運び出しやすいようにこれを整理し,その一部については被告の東京営業所に送付し,フィルムの運び出しにおいて,中心的な役割を果たした。
b 原告A3は,平成7年2月下旬,被告の製版担当従業員H1,同H2,同H3,同H4及び同H5に対し,勤務時間中及び残業時間中に,ジョーメイへ運び出すフィルムを作成させるために,被告の在版フィルムの複製を作成させた。なお,印刷会社が通常の業務の過程でフィルムを複版するということはなく,特別の目的がない限りはフィルムの複版は行われない。
c 原告A3は平成7年2月末から3月初旬にかけて,その部下であったI1及びI2に対して,ジョーメイヘの移籍を働きかけた。
d 原告A3は平成7年3月25日の退職日以前に,ジョーメイヘ出向き,原告A3が被告を退社し,ジョーメイヘ入社した後に使用することとなる刷版部門の機械の導入に関与した。原告A3は被告において,製版・刷版課長であり,またジョーメイヘ移籍後は製版・刷版を担当したまま工場長になっている。ジョーメイにおいては,印刷関係の機械をすべて新たに調達しており,被告において工場長かつ製版・刷版担当の管理職になることが予定されていた原告A3の関与なくしては,刷版の機械の導入を決定できないことは明らかである。
(イ) 原告A3の主張
 原告A3は在版フィルムの整理をしたことはあるが,被告の業務として行っていたことであり,また,部下に対しジョーメイヘの移籍を働きかけた事実はない。385万6034円から自己都合による減額率20%を減額して金308万4827円が受給すべき退職金額となる。
a 原告A3は,大日本印刷株式会杜の依頼で在版フィルムを返却すべく梱包作業を行ったことはあるが,それ以外,在版フィルムの整理には関与していない。
b 被告において,在版フィルムを外注先に発注する場合,不慮の事故に備えてフィルムの複製を作成する。原告A3が従業員に指示して,被告の通常の業務として複製の作成を行っていたことはあるが,「ジョーメイに運び出す」フィルムを作成するために作業を指示した事実は全くない。
c 原告A3が未だ進路について迷っていた部下に対し,相談に乗り,知る範囲での状況を説明して判断の手助けをしたことはあるが,移籍を働きかけた事実はない。
d 原告A3は,被告退職日以前にジョーメイヘ出向いたことは一切なく,また,刷版機械の導入に関与したこともない。
エ 原告A4
(ア) 被告の主張
a 平成7年2月27日夕方,当時被告の印刷課長であった原告A4は,印刷課の従業員の中からジョーメイヘ移籍する従業員を選別の上,移籍させようと考え,勤務中のJ1,J2,J3,J4,J5,J6を自宅に呼び集め,ジョーメイヘの移籍を勧誘した。
b 原告A4は,平成7年2月後半,Cと共に,被告の印刷担当従業員であるJ7に対してジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
c 原告A4は,平成7年2月末に,被告の印刷担当従業員J8に対し,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
(イ) 原告A4の主張
 原告A4が被告の従業員に対し,ジョーメイヘの移籍を勧誘した事実はない。金223万1904円から自己都合による減額率20%を減額して金178万5523円が受給すべき退職金額となる。
a 原告A4は,未だ進路について決めかねている従業員に対し上司の立場で相談に乗り,自己の意思で判断してもらう手助となるように,時間の都合のつく従業員数名を自宅に呼んだことはあるが,移籍を勧誘したことはない。
b 原告A4は,J7に対し,本件に関して話しをしたことはない。
c 原告A4はJ8に対し,1回だけ上司の立場で今後どうするのかという意思確認をしたことはあるが,移籍を勧誘したことはない。
オ 原告A5
(ア) 被告の主張
a 原告A5は,被告の軽印部部長であったが,平成7年2月15日に被告を退職し,同月17日にジョーメイで取締段となった。その後も3月25日まであたかも被告の社員であるかのごとく被告に出勤し,被告の従業員のジョーメイヘの移籍の勧誘に当たっていた。
b 原告A5は被告において官公庁関係の仕事を担当していた。平成7年2月当時,新潟市の入札資格の更新の時期に当たっていたのに,原告A5は,被告の名でこれを更新することなく,逆にジョーメイの名で申請を行った。さらに,原告A5に対して新潟市の担当者から複数回申請をするよう連絡があったにもかかわらずこれを怠った結果,被告は新潟市の入札に応じる資格を失った。
c 平成7年2月19日,原告A5は原告A8,D,C,B,当時被告取締役業務部長であったKらと共に,あらかじめ被告営業担当従業員に指示を出した上で休日に出勤させ,ジョーメイにおいて使用することを目的として被告の作業指示書のコピーを作成させた。
d 原告A5は,被告軽印部で保管していた新潟県社会保険協会,新潟西社会保険事務所,新潟東社会保険事務所,株式会社里仙,財団法人社会保険健康事業団,米納津屋菓子舗等のフィルムをジョーメイヘ持ち出した。これらの会社はすべて現在ジョーメイと取引中である。また,版下もジョーメイへ持ち出した。
e 原告A5は,平成7年2月下旬,軽印部L1及び同L2に対し,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
f 原告A5は,平成7年3月6日以降,ジョーメイヘ移籍することを拒否した被告の印刷担当従業員であるJ1に対し,原告A9,D及び原告A8と共に,再三にわたりジョーメイヘの移籍を勧誘した。
g 原告A5は,平成7年3月10日ころ,被告の断裁担当従業員L3に対し,被告は倒産するので,ジョーメイに移るか退職するか選択するよう要求した。
h 原告A5は,平成7年3月13日,配送,倉庫を除く被告の断裁担当全員を集めて,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘し,2,3日中に返事をするよう求めた。
i 原告A5は,平成7年3月14日,原告A2と共に被告の断裁担当従業員全員を集め,ジョーメイに移籍するか,被告に残るか,どちらにも行かずに退職するか,3つの中から選択し,当日中に返事をするよう求めた。
j 原告A5は,平成7年3月15日ころ,被告の配送担当従業員L4に対し,倉庫の品物は5月いっぱいでなくなると思うから,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
(イ) 原告A5の主張
 原告A5が,被告主張の行為を行った事実はなく,被告の従業員に対し,ジョーメイヘの移籍を勧誘した事実はない。金671万0333円から自己都合による減額率20%を減額して金536万8266円が受給すべき退職金額となる。
a 原告A5は,被告において入札資格の更新をすべき立場にあったわけではない。入札の更新の申請は,各社の希望により行うべきことで,新潟市の担当者が複数回申請するよう連絡をしてくることはあり得ず,入札に応じる資格はいつでも申請可能であって,被告が入札に応じる資格を失ったということはない。また,ジョーメイの名での申請は,被告の申請とは無関係に行い得ることで,一般の印刷会社と同じようにジョーメイも申請を行ったにすぎない。
b 原告A5が被告主張のフィルムをジョーメイヘ持ち出した事実はない。株式会社里仙と米納津屋菓子舗のフィルムは,顧客の希望により,それぞれに返却している。なお,それ以外の社会保険協会等のフィルムは毎年新しく作り直すものであって,旧フィルムは全く価値がないものである。
c 原告A5はL1とL2の進路選択にあたり,相談に乗ったことはあるが,移籍を勧誘した事実はない。原告A5は,J1とはほとんど面識がなく,本件に関し,同人と話をしたことはない。原告A5はL3に対し,被告が倒産するようなことを言ったことはなく,進路が明確でなかった同人に対し,意思確認をしたところ,被告に残るという回答を得たことはある。
d 原告A5が断裁担当従業員全員を集めて移籍を勧誘したり,進路の選択を迫った事実はない。
e 原告A5は進路が明確でなかったL4に対し,意思確認をしたことはあるが,「倉庫の品物は5月いっぱいでなくなると思うから」と言って勧誘したという事実はない。
カ 原告A6
(ア) 被告の主張
a 原告A6は,被告の営業部員であったが,平成7年2月10日,被告従業員の山忠に対する対抗心をあおるために,被告従業員に対する文書を作成すべく,B2,B,K,B3,D,C及びMと共に協議を行い,この文書を配布した。
b 原告A6は,被告を退社した平成7年3月17日当時,笹神村役場,ヨコヤマ,ワタモリ,テレビ新潟放送網,コバヨウ,岩村スレート等の営業を担当していたが,被告を退職しジョーメイに入社する際に,これらの会社の仕事のための在版フィルムをジョーメイヘ持ち出し,移籍後これらの会社の仕事を担当した。さらに,被告を退社した後に被告社内に立ち入り,過去に被告で作成したフィルムを使用してテレビ新潟放送網の仕事を行った。
c 原告A6は,平成7年2月から3月にかけて,被告の営業担当従業員であったNに対し,ジョーメイヘ移籍するよう働きかけた。
(イ) 原告A6の主張
 原告A6が,被告主張の行為を行った事実はなく,被告の従業員に対し,ジョーメイヘの移籍を勧誘した事実もない。金35万5000円から自己都合による減額率25%を減額して金26万6250円が受給すべき退職金額となる。
a 被告の主張する文書がいかなる文書を意味するのか不明であるが,原告A6が何らかの文書作成についてB2らと協議をしたことはない。
b 原告A6が在版フィルムをジョーメイに持ち出した事実は一切ない。また,被告退職後に社内に立ち入ったことはなく,被告で作成したフィルムを使用したこともない。テレビ新潟放送網の仕事は,新しく作ったフィルムを使用しており,何ら被告とは関係ない。
c 原告A6は知る範囲の情報をNに提供し,相談に乗っていたにすぎず,何ら移籍を働きかけたことはない。
キ 原告A7
(ア) 被告の主張
 原告A7は,平成7年1月31日当時,被告の配送担当であったが,被告従業員のジョーメイヘの移籍の勧誘行為を行った他,被告所有品をジョーメイヘ持ち出した。
a 原告A7は,被告の配送担当であったが,平成7年3月18日に被告を退職する以前に,被告の断裁担当従業員であったO1及びO2に対してジョーメイへ移籍するよう勧誘を行った。
b 原告A7は,平成7年3月18日に退職する直前に,深夜に被告の倉庫から印刷物,備品などを持ち出した。
c 原告A7は,平成7年5月初めから被告の断裁担当従業員であるO1に対し,ジョーメイへの移籍を勧誘すべく連絡を取り,同月7日以降,ジョーメイへ被告の断裁担当従業員であるO2と共に移籍するよう勧誘した。
(イ) 原告A7の主張
 原告A7が,被告主張の行為を行った事実はない。金219万7301円から自己都合による減額率20%を減額して金175万7840円が受給すべき退職金額となる。
a 原告A7は被告退職後に,O1と会った際に,現在の状況について話をしたことはあるが,退社以前に本件について話をしたことはなく,移籍を勧誘した事実もない。また,O2とは,本件について話をしたことはない。
b 原告A7は深夜に出勤したことも,印刷物等を持ち出したこともない。
c 原告A7はO1とは,友人として話をしたことはあるが,強いて移籍を勧誘するために連絡を取ったり,移籍を勧誘したりした事実はない。
ク 原告A8
(ア) 被告の主張
a 原告A8は,被告の営業部課長であったが,平成7年2月初め,被告の生産管理部従業員であるPに対し,ジョーメイへ移籍するよう勧誘した。
b 平成7年2月19日,原告A8はD,原告A5,C,B,Kらと共に,あらかじめ被告営業担当従業員に指示を出した上で休日に出勤させ,ジョーメイにおいて使用することを目的として被告の作業指示書のコピーを作成させた。
c 原告A8は,平成7年3月6日以降,ジョーメイヘ移籍することを拒否した被告の印刷担当従業員であるJ1に対し,原告A5,原告A9及びDと共に,再三にわたりジョーメイヘの移籍を勧誘した。
d 原告A8は,平成7年3月下旬,被告の断裁担当従業員Q1に対し,被告に残っていてもすぐにつぶれるし,ブルボンの仕事もジョーメイヘ移るので,被告の断裁担当従業員であるQ2と共にジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
e 原告A8は,平成7年3月25日以降月末までに,被告の断裁担当従業員Q2に対し,電話でジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
(イ) 原告A8の主張
 原告A8が,被告主張の行為を行った事実はない。金340万1851円から自己都合による減額率20%を減額して金272万1480円が受給すべき退職金額となる。
a 原告A8はPとは親戚付き合いをしているので,意思確認をしたことはあるが,移籍を勧誘したことはない。
b 原告A8は作業指示書のコピーに関しては一切関与していない。
c 原告A8は進路について迷っていたJ1に対し,1度だけ意思確認をしたことはあるが,移籍を勧誘したことはない。
d 原告A8はQ1に対し,知る範囲での状況を説明し,意思確認をしたことはあるが,移籍を勧誘したことはない。
e 原告A8はQ2に対し,電話で意思確認をしたことはあるが,移籍を勧誘したことはない。
ケ 原告A9
(ア) 被告の主張
a 原告A9は,営業課長であったが,平成7年2月15日付で被告を退職したにもかかわらず,その後も被告に出勤し続け,被告の業務をジョーメイヘ移す準備行為を行った。
b 原告A9は,平成7年2月中旬,被告の印刷担当従業員R1に対し,また同年2月,被告の印刷担当従業員R2に対し,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘を行った。
c 原告A9は,既に被告を退職した後であったにもかかわらず,平成7年2月後半からその直属の部下であるR3(以下「R3」という。)に対し,みんな行くといっているからとにかく一緒に行動して欲しいと述べ,さらに3月20日ころから同月23日ころにかけ,R3に対して再三ジョーメイヘの移籍を働きかけた。
d 原告A9は,平成7年2月中に,他の被告幹部従業員と共に,ジョーメイへ移籍させる被告従業員の選別を行った。
e 原告A9は,平成7年2月末に,被告の印刷担当従業員J8に対し,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
f 原告A9は,平成7年3月6日以降,ジョーメイヘ移籍することを拒否した被告の印刷担当従業員であるJ1に対し,原告A5,D及び原告A8と共に,再三にわたりジョーメイヘの移籍を勧誘した。
g 原告A9は,平成7年3月9日に,被告の断裁担当従業員O1に対し,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
(イ) 原告A9の主張
 原告A9が,被告主張の行為を行った事実はない。金474万2373円から自己都合による減額率20%を減額して金379万3898円が受給すべき退職金額となる。
a 原告A9は残務整理のために退職後も被告に出勤していたが,これは被告の利益のためであり,ジョーメイヘ移す準備行為のためではない。
b 原告A9は,被告に入社して間もないR1とR2の相談に乗ったことはあるが,移籍を勧誘したことはない。
c R3は原告A9に対し,ローンの返済等で相談を持ちかけ,被告にも残らず,ジョーメイにも行かず新しい仕事を探しているという話をしており,原告A9はR3と2回程このような話をしたのみで,移籍を働きかけたことはない。
d 原告A9が従業員の選別を行った事実はない。
e 原告A9はJ8,J1及びO1に対し,意思確認をしたことはあるが,移籍を勧誘したことはない。
第3 争点に対する判断
1 被告の概要
  前提事実に証拠(甲56,乙44,56,57,60ないし65,68,70,81,証人W1,同W2,同W3)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
(1) 被告は諸印刷,商業宣伝用品の販売等を目的とする株式会社であり,平成7年1月当時,営業部,業務部,生産管理部,総務部及び軽印部といった部署が設けられていた。当時,被告には,代表取締役2名(会長B2及び社長B)の他,取締役を兼務していたB3営業部長,K業務部長,S総務経理部長等を含めた従業員が110名以上在籍していた。
  当時の被告の主要な顧客としては,株式会社コロナ,株式会社ブルボン,一正蒲鉾株式会社等があった。被告は印刷業務の中でもカタログ等のオフセット印刷をその主要な商品とし,全く同一の印刷物の,または多少の修正を加えた上での増刷の注文が多い。
(2) 被告における印刷業務は,次のように進められる。
ア 営業担当による受注のための活動及び受注
イ 印刷物の具体的な企画
ウ 印刷物のレイアウトの決定及び版下の作成
エ 色分解されたフィルム(在版フィルム)の作成
オ 実際に印刷機にかけるアルミ製の版(刷版)の作成
カ 印刷作業及び断裁作業
キ 配送
 顧客から受注した業務の内容の概要は,被告において作業指示書と呼ばれる書類に記入される。作業指示書には,顧客からの注文の内容,仕様,価格等の情報が記載され,当該業務における作業の進行上重要である。また,将来の再版の注文があった場合の請求額及び作業内容の決定及び新しい注文の場合における請求額の決定等のためにも利用される。
 版下や在版フィルムは,顧客からの再版の注文に応えるために必要である。一般に,版下や在版フィルムの所有権(独占的な利用権)は,顧客ではなく,それを作成した印刷会社が有すると解されている。
2 被告と山忠との関係
  証拠(甲2ないし8,23,24,32ないし35,55,乙1,40,69,72,74,75,証人W4,同W5,同W6)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
(1) 平成7年3月に至るまでの約30年間,新潟市内で紙の卸売業を営む株式会社山忠を経営していたZないし株式会社山忠の関連会社である山忠は,被告の発行済株式の3分の2以上を保有しており,山忠は,被告に継続的に印刷用紙を販売し続けてきた。
(2) 山忠は,B2を社長として被告の経営を任せていたところ,平成6年2月に開催された被告の株主総会の際,B2の要請を受け,B2を会長に,B2の長男であるBを社長にすることに同意した。その際,山忠は,被告の役員に対し,商法並びに定款を遵守した公明正大な経営,将来へ向けて,店頭上場を目標とした経営(公認会計士による監査体制の確立,特色ある企業づくりへの戦略),株主を尊重し,共存共栄をはかる経営という要請を行った。
  これに対し,B2,B及び被告取締役は,同年3月15日,山忠に対して,前記要請に反発をするかのような回答をした。また,Bは,被告の印刷用紙の仕入原価を下げるため,山忠からの用紙の購入を一部停止した。これに対し,山忠は,被告に対し,業務部長であったK取締役の退任を求め,さらに,平成7年1月には,同年2月に開催予定の株主総会において株主提案権を行使し,当時7名であった取締役を9名とし,そのうち5名を山忠側の者とすることを提案する旨を被告に通知するなど,Bらと山忠との経営をめぐる対立が深まった。
(3) 山忠は,平成7年2月10日ころ,被告の従業員及び役員の自宅宛に文書(同月8日付)を送付した。その文書の内容の概略は次のとおりであった。
① 山忠は被告の68.5%の株式を所有する主要株主として被告を支援してきた。
② 平成6年に社長に就任したBの経営に高い関心を寄せていたが,その適格性に疑問を抱いており,被告の先行きに不安を感じている。
③ いくつかBに要望してきたが,逆に反発を強めるので,先月中旬,Bに対し,役員を補充し,被告の近代化経営を図るために経営陣を強化する旨の提案をした。
④ B2会長とB社長は排除するつもりはない。
⑤ B社長は山忠の提案に憤慨し,新会社をつくる画策をしていると聞く。
⑥ 株主としての山忠の立場は,金融機関,主要取引先も理解しているし,経営の中心には平成6年2月まで被告常務取締役であったT(以下「T」という。)が就任し,経営は従来どおり継続される。
(4) 山忠からの文書送付によって,被告の社内は混乱し,同月13日,原告A5,A9,A2,A8,W1,C(営業部課長),D(営業部課長)及びMらは,従業員代表として山忠に質問状を発し,Zに会見を申し込むと同時に,Bにも質問状を提出した。それぞれから回答を得た従業員らは,同月14日及び15日の両日,会合を開き,従業員有志一同(原告ら9名,C,D及びMら)により山忠へ申し入れをすることとなった。その要旨は以下のとおりであった。
① 山忠が推薦する新経営陣は支持できない。
② 次回株主総会で山忠の提案が可決された場合は社内の混乱は必至である。
③ 被告はB2会社とB社長の経営手腕で発展を遂げてきた会社であり,我々はB社長を中心とした経営を望む。
④ 山忠の持株比率を下げることを前提にB社長と話し合うことを要望する。
⑤ 私たちの申し入れが一切取り上げられない場合は,私たち自身の進退を含め,それ相応の対抗処置を講ずる。
(5) 山忠の常務であったU1及びU2は,同月ころ,被告の従業員を食堂に集め,Tが次期社長になるとの説明をした。
(6) 被告における平成7年の株主総会は,当初予定に1か月遅れた同年3月25日に開催されることとなった。山忠は,平成7年3月16日付内容証明郵便をもって,被告に対し,取締役選任につき,山忠側のU2,T,U3,U1,U5の5名を提案し,同月25日の株主総会において同提案のとおり可決され,同日,同人らはU5を除いて被告の取締役に就任することを同意した。
3 ジョーメイの設立等
  証拠(甲9,55,乙1,9ないし12,18,20,40ないし55,66ないし68,70,71,75,82ないし84,証人W4,同W6,同W5,同W7,同W2,同W3,同W8)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
(1) 山忠との対立が深まる中,Bは,山忠からの支配を逃れるため,被告の他の取締役や主要な従業員らと共に被告と同業の新会社を設立することを考え,平成7年1月10日から同月20日ころまでの間に,営業部の課長以上の従業員を会議室に集め,新会社を設立するので,営業の者は全員移籍するよう求めた。Bは,さらに,同月20日には,課長以上の者を集めて同様の要請をしたほか,同日ころの被告の朝礼において,従業員に対し,新会社を設立するので移籍して欲しいと求めた。
  既に移籍を決めた従業員らは,その他の従業員の移籍を勧誘した。Bは,被告からジョーメイへ移籍する従業員については,被告における勤続年数をジョーメイでの勤続年数に通算すると約束し,実際に,後にジョーメイを退職した従業員には被告での勤続年数を通算して退職金を支給した。また,被告においては,移籍を決めた従業員らによって,新会社での営業の準備として,CやDの指示による在版フィルムの持ち出しや版下の持ち出し,作業指示書のコピー,顧客をジョーメイへ移すための営業活動等が行われた。在版フィルムの持ち出しは,被告による権利放棄及び顧客への返却という形をとったり,一度被告の東京営業所へ送付の上,ジョーメイへ送付されたりした。被告の社内では,平成7年2月から3月ころにかけて,被告が倒産するとの噂が流れた。
  山忠は,同年2月23日付文書により,被告従業員に対し,Bの被告に対する背任行為(従業員の引き抜き,顧客名簿及び作業指示書等のコピー等)に荷担しないよう求めた。また,被告の監査役は,Bに対し,同月24日付の内容証明郵便により,前記各行為が取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する違法行為であるので,直ちに中止するよう求めた。Bは,従業員らに指示し,作業指示書のコピーを止めさせ,既にコピーしたものを廃棄させた。
(2) 平成7年2月17日,Bの叔父であり,平成5年に被告取締役を退任していたEを代表取締役とするジョーメイが設立された。ジョーメイは,被告と同様,印刷業を目的とする株式会社である。設立当時のジョーメイの役員は,原告A8及び原告A5が取締役,原告A9が監査役であった。さらに,同年10月26日,Bが代表取締役に就任し,原告A9が取締役に就任した。
  ジョーメイの従業員は,後に約60名となったが,そのうちの50名以上が被告から移籍した者である。中でも,営業は24名中18名,印刷は経験が長い機長クラスのほとんどがジョーメイへ移籍した。平成7年3月に入ると,被告に顧客から注文があっても,断ったり,ジョーメイの仕事として受注するようになったものもある。ジョーメイの主要な顧客は,コロナ,ブルボン,一正蒲鉾等,大半が被告の元顧客であった。
(3) ジョーメイは,平成7年4月に営業を開始し,それ以降,被告の営業担当従業員は新規の仕事を受注できず,また被告の印刷担当従業員はやっと機械が動かせる程度であった。被告の売上は著しく減少し,平成5年2月以降,毎年1月を除いた月別の売上が1億8000万円を下ることがなかったが,平成7年4月の売上は8239万6746円,同年5月の売上は5044万2436円,同年6月の売上は2900万6872円,同年7月の売上は2879万4971円,同年8月の売上は3335万0413円であった。平成7年2月から5月までの売上は前年比で3億3740万8759円減少した。他方,ジョーメイの同年4月の売上は約6000万円,平成7年4月から8月まででは約5億円であった。
4 被告における退職金制度
  前提事実に証拠(甲56及び証人W1)を総合すると,次の事実が認められる。
(1) 被告の退職金制度は,勤続年数による金額を基本に,役職による加算や,退職が自己都合の場合における減額が行われる(退職金規程第3条)他,在職中の功績による加算(同第4条),非違行為による減額(同第6条)が行われて最終的な支給金額が定まる。非違行為による減額の率は,一般的な基準について定められておらず,個別の事案に応じて被告の裁量により決定されていた。
(2) 被告から従業員に支給される退職金の一部は,従業員を被保険者とする被告と生命保険会社との間の契約によるいわゆる適格退職年金であるが,従業員が生命保険会社に対する請求権を直接取得するものではない。原告らの退職金の支給に際しては,この退職年金の部分についての支給がなされていない。
5 各原告の退職金減額事由の有無
(1) 原告A1
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲10,乙10,18,70,証人W3,原告A1本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A1は,平成7年3月当時,被告の生産部版下・写植課長であっ
 たところ,Bらと山忠との対立によって被告の社内が混乱していた同年2月から3月にかけ,上司であるK業務部長の指示を受け,当時の部下9名に対し,個別に呼び出した上で被告の実情を説明し,自分は新会社に移籍する意向であると説明した上,部下から移籍についての意向を確認した。原告A1は,同年3月初め,F1,F2,F3らを呼び出し,外注先の倉地スタジオがW4と共同で新会社を設立し,幹部従業員は移籍すること,被告は潰れるだろうと説明したところ,3人とも,その場で移籍すると原告A1に回答したが,F1は,原告A1に,後で1週間位考えさせて欲しいと言った。F1は,同月20日ころ,B3,K及び原告A1らから強く移籍を説得され,結局,移籍することとした。
  また,同年3月初め,B3営業部長が,版下・写植課及び企画製作室従業員に,新会社に移籍した場合,被告での勤続年数が通算されると説明したが,その場には,B及び原告A1も説明する側にいた。
  F1は,一旦はジョーメイに移籍したものの,同年4月3日,被告に戻った。
(イ) 被告において,版下は,版下・写植課で管理していた。原告A1は,被告を退職してジョーメイに移籍した平成7年3月17日ころ,被告で受注し,作業中であった北興化学の版下をジョーメイに持ち出し,ジョーメイにおいてその仕事を継続した(ただし,売上は被告のものとなっている。)。また,ジョーメイに移る際,原告A1や版下・写植担当従業員らで主要な顧客(コロナ,ブルボン等)の版下又はそのコピーを持ち出した。どの版下を持ち出すかは,F1,F2,F3,原告A1とで判断し,被告の全版下の半分位を持ち出した。
  F1は,被告に戻った後,北興化学の版下が被告になかったため,ジョーメイに移籍した原告A1に返却を求め,ジョーメイに赴いて返却を受けた。
イ 原告A1は,勧誘の事実を否認し,本人尋問においても同旨の供述をするが,新会社が設立され,自らも移籍する予定であること,被告がいずれ倒産することを部下に告げた上,移籍するかどうかの意向を確認したのであるから,その趣旨はまさに勧誘というべきである。また,部下が移籍するか残留するかを自らの意思で決定したというのは当然のことであるから,このことをもって原告A1が部下に対してジョーメイへの移籍を勧誘していないと評価することはできない。
  また,原告A1は,版下持ち出しの事実を否認するが,原告A1が被告において担当していた北興化学を初め,被告で作成された版下が現実にジョーメイに移動していることは明らかであり,前記認定に反する原告A1本人の供述は信用できない。
(2) 原告A2
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲11,乙13,14,25,28,69,73,証人W11,同W12,原告A2本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A2は,平成7年3月当時,被告の業務部次長であり,日報の集計
 を担当していた。業務部は,営業部から出た伝票及び原稿をチェックし,工場へ下ろす等,営業と印刷の現場をつなぐ調整をするのが主たる業務であり,K部長,原告A2の外,X等の部員がいた。原告A2は,平成5年ころまで,被告の工場長を務めていた。同人は,被告を退社してジョーメイに移籍するに当たり,当時担当していた職務を何らの引継をもせず,日報の集計を担当する者を決めなかった。
(イ) 原告A2は,平成7年3月14日,同内藤と共に被告の断裁担当従業員約8名(O1等)を被告本社2階の会議室に集め,ジョーメイに移籍するか,被告に残るか,どちらにも行かずに退職するか,3つの中から選択し,当日中に返事をするよう求めた。原告A2は,断裁担当の従業員に対し,被告は倒産する旨述べた。
イ 原告A2は,引継ぎが不要であった旨主張するが,日報の集計が引継ぎの不要な業務とはおよそ考えられず,担当者も未定のまま退職したのであるから,必要な引継ぎをしなかったと評価されてもやむを得ない。
  また,原告A2は,勧誘の事実を否認し,本人尋問においても同旨の供述をするが,新会社が設立されること,被告がいずれ倒産することを部下に告げた上,移籍するかどうかの選択を求めたのであるから,その趣旨はまさに勧誘というべきである。また,部下が移籍するか残留するかを自らの意思で決定したというのは当然のことであるから,このことをもって原告A2が部下に対してジョーメイへの移籍を勧誘していないと評価することはできない。
(3) 原告A3
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲13,乙32ないし36,43,67,68,証人W7,同W2,原告A3本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A3は平成7年3月当時,被告の製版・刷版課長であった。被告
 においては,在版フィルムは,印刷業務に使用された後,刷版室に保管され,その後に訂正や増刷等の必要から営業担当者が刷版室から持ち出す場合には,原告A3の机の上に備え付けられた持ち出し伝票の用紙に持ち出した旨を記載することとされていた。
(イ) 原告A3は,同年3月20日ころまでに,被告東京営業所のW7と電話で連絡を取り合い,被告東京営業所の顧客のための在版フィルムのを被告本社から被告東京営業所に送付する作業を行った。その後,その在版フィルムのうち,ジョーメイへ移った顧客のものは,ジョーメイ東京営業所へ運ばれた。原告A3は,同月25日,被告を退職してジョーメイに移籍した。
(ウ) 原告A3は,同年2月下旬ころから,被告の製版担当従業員H1,同H2,同H3,同H4及び同H5に対し,勤務時間中及び残業時間中に,ジョーメイへ運び出すフィルムを作成させるために,被告の在版フィルムの複製を作成させた。
イ 原告A3は,在版フィルムの持ち出しや複製に関与していない旨主張し,本人尋問においても同旨の供述をする。
  しかしながら,前記認定のとおり,在版フィルムは,普段は刷版室に保管され,営業が借りる際には刷版課長である原告A3の机の上に備え付けられた用紙に記入することとなっていたことからすれば,原告A3が被告が所有する在版フィルムを直接管理する立場にあったということができる。そして,証拠(乙43,67及び証人W7)によれば,原告A3が東京営業所への在版フィルムの送付に中心的に関与していたことが認められる。また,乙32ないし36には,平成7年2月下旬ころから製版担当従業員に複版を指示された旨の記載があるところ,指示した者が誰であるかが特定されていないものの,通常業務においては,製版・刷版課長である原告A3が指示していたことは証拠(原告A3本人)によって認められるから,平成7年2月下旬から行われたジョーメイへの運び出しのための複版の指示も原告A3によって行われていたと推認することができる。
ウ 被告は,原告A3が平成7年2月末から3月初旬にかけて,その部下であったI1及びI2に対して,ジョーメイヘの移籍を働きかけたことや,ジョーメイの刷版部門の機械の導入に関与したことを退職金減額事由として主張するが,これらの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(4) 原告A4
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲14,25,乙20,30,45,71,76,証人W8,原告A4本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A4は,平成7年3月3日に被告を退職してジョーメイに移籍す
 るまで,被告の生産部印刷課長であった。原告A4は,K業務部長からジョーメイへ移籍することについての従業員の意向確認をするよう指示を受け,同年2月27日夕方,印刷課のJ1,J2,J3,J4,J5,J6らを自宅に呼び集め,自分はジョーメイへ移籍する意向であること,今後の進路について自分たち自身でよく考えるように言った。このときにK業務部長も原告A4の自宅に来ていた。
(イ) 原告A4は,平成7年2月後半,Cと共に,被告の印刷担当従業員であるJ7を食堂に呼び出し,被告の幹部のほとんどがジョーメイに移籍するこを伝え,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。また,原告A4は,同月末に,被告の印刷担当従業員J8に対し,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘した。
(ウ) 平成7年3月時点での被告の印刷課従業員22名のうち,経験が豊富な9名がジョーメイへ移籍した。
イ 原告A4は,勧誘の事実を否認し,原告本人尋問においても同旨の供述をするが,前記認定のとおり,平成7年2月から3月にかけて,被告の社内では,新会社設立と被告の倒産が噂されていたのであり,そのような状況下で,原告A4や被告の幹部従業員がジョーメイに移籍する意向であることを告げた上で部下に移籍の意向確認をすることは,まさに勧誘をしたと評価されるべきものである。
(5) 原告A5
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲15,26,乙25,26,28,31,37,45,73,77,78,証人W9,原告A5本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A5は,被告の軽印部長であったが,平成7年2月15日に被告
 を退職し,同月17日にジョーメイで取締段となった。被告の軽印部は,名刺,ハガキ,伝票類の進行管理等を行う部署であり,諸官庁の業務は大部分原告A5が担当していた。
  原告A5は,同年1月下旬にB2から新会社設立を聞いた。また,Eから,B2及びBが山忠と紛争になっているので,新会社設立に協力し,取締役に就任するよう求められた。
(イ) 原告A5は,平成7年2月下旬,軽印部のL1及びL2に対し,自分がジョーメイヘ移籍する意向であることを告げ,移籍の意向を確認した。また,同年3月6日以降,ジョーメイヘ移籍する意向を撤回した被告の印刷担当従業員であるJ1に対し,原告A9,D及び原告A8と共に,ジョーメイヘの移籍を勧誘した。
  さらに,原告A5は,K業務部長と共に,同月10日ころ,被告の断裁担当従業員であるL3を食堂に呼び出し,ジョーメイに移籍する意向があるかを確認した。また,原告A5は,同月13日,配送,倉庫を除く被告の断裁担当従業員全員を本社2階会議室に集めて,新会社は2年分の資金を準備しているから安心して欲しい,被告は倒産する等と述べ,ジョーメイヘ移籍するよう勧誘し,2,3日中に返事をするよう求めた。翌14日,原告A2が,被告の断裁担当従業員約8名(O1等)を被告本社2階の会議室に集め,ジョーメイに移籍するか,被告に残るか,どちらにも行かずに退職するか,3つの中から選択し,当日中に返事をするよう求め,その際,断裁担当の従業員に対し,被告は倒産する旨述べた。原告A5もこれに同席していた。
  原告A5は,同月15日ころ,ジョーメイに移籍するか進路が未定であった被告の配送担当従業員L4に対し,移籍するかどうかの意向を確認した。
(ウ) 原告A5は,被告軽印部で保管していた新潟県社会保険協会,新潟西社会保険事務所,新潟東社会保険事務所,株式会社里仙,財団法人社会保険健康事業団,米納津屋菓子舗等の在版フィルムをジョーメイヘ持ち出した。原告A5は,里仙及び米納津屋菓子舗の在版フィルムは,同社に返却した形をとり,ジョーメイに移籍後,再び同社から在版フィルムをジョーメイに持ち込み,ジョーメイにおいて使用した。
(エ) 印刷業社に対する新潟市の入札の更新手続は,被告においては総務部
 が担当し,S総務部長兼経理部長が担当していた。更新に際しての書類(入札指名願)を作成した後,原告A5が書類をSから預かって新潟市に提出することが何度かあった。被告は,平成7年2月末までの更新手続をしなかったが,更新手続をしないまま期限を過ぎても,再び申請すればいつでも入札資格を得ることができる。
イ 原告A5は,ジョーメイへの移籍を勧誘したことを否認するが,新会社設立及び被告倒産が噂となっている時に,自分がジョーメイに移籍することを部下らに告げたり,移籍の意向を確認したりすれば,それはまさに移籍を勧誘したと評価されるべきである。
  原告A5は,在版フィルムの持ち出しは顧客の返却の希望によるものと主張するが,顧客の側で在版フィルムの返却を被告に求める理由はなく,ジョーメイへの持ち出し工作の一環として行われたことが明らかである。
ウ 被告は,原告A5が新潟市の入札を更新しなかったため,入札資格を失った旨主張する。しかし,前記認定によれば,そもそも入札の更新手続をするべき立場にあったのはSであり,原告A5は単に完成した申請書類を提出したことがあったにすぎないし,被告が入札資格を失って具体的な不利益を被ったことを認めるに足りる証拠はなく,これを原告A5の退職金減額事由とみることはできない。
  また,被告は,原告A5が被告営業担当従業員に指示を出した上で休日に出勤させ,ジョーメイにおいて使用することを目的として被告の作業指示書のコピーを作成させたとも主張する。これについては,乙51にコピーをしていた現場に原告A5がいたとの記載があり,証人W5も同旨の供述をするが,単に現場にいただけでそのような指示をしていたということはできないから,結局,これを認めるに足りる証拠ということはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
(6) 原告A6
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲16,乙47,証人W6,原告A6本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A6は,被告の営業部員であったが,平成7年3月17日,被告
 を退職し,ジョーメイに移籍した。被告退職当時,笹神村役場,ヨコヤマ,ワタモリ,テレビ新潟放送網,コバヨウ,岩村スレート等約30件の顧客を担当していたが,原告A6が営業活動をした結果,顧客のうち25件(売上では被告で担当していた約30件の約9割)がジョーメイへ移籍した後,ジョーメイの顧客となった。原告A6は,被告で担当していた新潟スタジオをジョーメイに移籍した後も担当した。
(イ) 原告A6は,営業部のD及びCらの指示により,DやVらと共に,同月中旬ころから被告東京営業所へ在版フィルムを送付するための梱包作業を行った。原告A6は,被告の営業部の朝礼後,ジョーメイに移籍する予定の従業員らに対し,移行のための作業について指示をすることもあった。原告A6は,ジョーメイ移籍後に担当した新潟スタジオの作業で,被告で作成された在版フィルムを一旦新潟スタジオに返却したものを使用した。
イ 原告A6は,被告作成の在版フィルムをジョーメイに持ち出した事実を否認する。しかし,原告本人尋問においては,少なくとも被告が作成した新潟スタジオの在版フィルムをジョーメイにおいて使用した事実を供述する一方,ジョーメイで新たに在版フィルムを作成した顧客については,テレビ新潟放送網しか明確に指摘しておらず,被告において担当していた顧客でジョーメイにおいても引き続き担当した顧客の多くについては,被告から持ち出された在版フィルムを使用していたと推認することができる。在版フィルムの持ち出しに関する前記認定に反する原告A6本人の供述は信用することができない。
ウ 被告は,原告A6に関する退職金減額事由として,被告従業員の山忠に対する対抗心をあおるために,被告従業員に対する文書を作成すべく,B2,B,K,B3,D,C及びMと共に協議を行い,この文書を配布したこと,平成7年2月から3月にかけて被告の営業担当従業員Nに対するジョーメイヘの移籍を勧誘したことを主張するが,これらの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(7) 原告A7
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲18,乙25,73,原告A7本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A7は,平成7年1月31日当時,被告の配送担当であったが,
 同年3月18日に被告を退職し,ジョーメイに移籍した。
(イ) 原告A7は,被告退職後の同年5月初めころ,断裁担当のO1に電話をかけ,話があるので会って欲しいと申入れたが,同人は一旦断った。原告A7は,同月7日,再びO1の自宅に電話をかけ,その日の夜に同人と会った。原告A7は,X1に対し,同じく断裁担当のO2と共にジョーメイに移籍するように勧誘したが,X1はこれを断った。
イ 原告A7は,O1をジョーメイに勧誘した事実はないと主張し,原告本人尋問においても,友人として会って話がしたかっただけと供述するが,原告A7とO1が特別に親しかった事情は窺えず,その供述は信用できない。
ウ 被告は,原告A7に関する退職金減額事由として,被告を退職する以前に,O1及びO2に対してジョーメイへ移籍するよう勧誘を行ったことや,退職する直前に,深夜に被告の倉庫から印刷物,備品などを持ち出したことを主張するが,これらの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(8) 原告A8
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲20,乙12,27,29,45,77,原告A8本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A8は,営業部課長であった平成7年2月15日,被告を退職し,ジョーメイに移籍した。原告A8は,被告においては顧客であるブルボンの担当をしていたが,Bからその業務の引継ぎは後でいいと言われ,その後はBから具体的な指示がなかったため,後任者に具体的な引継ぎをせずに被告を退職し,ブルボンがジョーメイの顧客になったにもかかわらず,その印刷物が被告の倉庫に残ったままになった。
(イ) 原告A8は,平成7年2月初め,被告の生産管理部従業員であるPに対し,ジョーメイへ移籍するかどうかの意向を確認したほか,同年3月6日より後,印刷担当のJ1がジョーメイ移籍を撤回したため,Kの指示で,D,原告A5及びA9らと共に,J1に移籍するよう勧誘した。また,原告A8は,同月下旬ころ,断裁担当のQ1,Q2に対し,自分はジョーメイに移籍すると述べた上で,同人らの進路についての意向を聞いた。
イ 原告A8は,従業員らに対して意思確認をしただけで,勧誘はしていない旨主張し,本人尋問においても同旨の供述をするが,被告の社内において新会社設立と被告の倒産の噂があり,原告A8自身がジョーメイへ移籍すると従業員に言った上で,ジョーメイに移籍するかどうかの意向確認をしたのであるから,その意向確認が勧誘の趣旨でなされたことは明らかである。
ウ 被告は,原告A8が,平成7年2月19日,D,C,B,Kらと共に,あらかじめ被告の営業担当従業員に指示を出した上で休日に出勤させ,ジョーメイにおいて使用することを目的として被告の作業指示書のコピーを作成させたことを退職金減額事由として主張し,乙41,42,49,51にはこれに沿う記載もある。しかし,原告A8本人は,当日は被告に出勤したが,コピーの指示はしていない旨供述し,また,証人W5は,コピーの指示を出していたのは,C及びDであった旨供述しており,原告A8が指示を出していた事実を認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。
(9) 原告A9
ア 前提事実,前記1ないし3の認定事実,証拠(甲21,乙21,22,25,40,42,45,47,48,51,73,証人W9,原告A9本人)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(ア) 原告A9は,営業部課長であった平成7年2月15日,被告を退職し,ジョーメイに移籍した。ジョーメイでは,監査役に就任し,後に取締役に就任した。原告A9は,被告を退職する時点で,印刷会社,広告代理店,企画会社12もしくは13社の営業を担当していたが,特に業務の引き継ぎをしないままジョーメイに移籍した。
(イ) 原告A9は,平成7年2月初めころから,同じく営業部課長であったD及びCらと共に,営業担当従業員らに対して個別にジョーメイへの移籍を勧誘し始め,退職後も被告に出社し続け,同年3月25日まで個別の勧誘を続けた。同年2月には,印刷担当のX2,R2及びJ8,同年3月には,断裁担当のO1,印刷担当のJ1,営業担当のR3らが原告A9に勧誘された。
イ 原告A9は,被告従業員らがジョーメイへ移籍するよう勧誘したことはなく,相談に乗ったり,意思確認をしたに過ぎない旨主張するが,原告A9は,平成7年2月15日に被告を退職し,ジョーメイの監査役に就任した後も被告に出社していたにもかかわらず,特に自分が担当していた業務の引き継ぎを行っていたわけではないのであるから,単に相談を受けただけではなく,被告従業員をジョーメイに移籍させようとの意図をもって被告従業員に接触していたことは明らかである。
ウ 被告は,原告A9についての退職金減額事由として,被告退職後に業務をジョーメイへ移す準備行為を行ったことを主張し,乙2によれば,被告が平成7年3月14日付書面によって原告A9に対して作業指示書のコピーや在版フィルムの複製を中止するよう警告したことが認められるが,原告A9について従業員の勧誘行為以外の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
6 被告の退職金支払義務
  以上の事実をもとに,被告の退職金支払義務の有無を検討する。
(1) 退職金は,従業員の勤続中の賃金の後払的性格と,従業員に対する功労報奨的性格を併せ持つものであり,退職金支給基準には,自己都合退職か会社都合退職か等の退職事由によって支給額に差が設けられるのが一般である。
  被告においても,前記のとおり,従業員の退職が自己都合か会社都合かにより支給額が異なることや,在職中の功績による加算や非違行為による減額事由が定められていることから,功労報奨的な性格を持つということができる。そして,被告に対する非違があった場合に,その非違の程度に応じ,退職金を不支給としたり,減額をする旨を定めることには合理性があるといえる。
  前記認定のとおり,被告における非違行為による減額の率は,一般的な基準について定められておらず,個別の事案に応じて被告の裁量により決定されていたのであるから,その減額が著しく不合理で被告の裁量の範囲を超えると判断されない限り,被告は従業員に支給する退職金の額を減額することができると解される。
(2) そこで,原告らに対する退職金の減額が,原告らの非違の程度に照らして著しく不合理でないかどうかを検討する。
ア ジョーメイの設立は,被告の主要株主である山忠による介入を嫌ったBらが,その介入を逃れるために,被告の従業員,営業財産,顧客等の重要な部分を新会社に移し替え,それによって一時的にせよ被告の売上を激減させ,営業に壊滅的な打撃を与えた極めて違法性の高い行為であるといえる。そして,前記認定の各原告らの行為も,このようなジョーメイ設立の一環として行われたことが明らかである。
イ 前提事実(3)から明らかなように,原告らに対する退職金減額金額は,213万円余から12万円とばらつきがあるものの,減額率は,概ね3割ないし4割程度であり,最も減額率の高い原告A6が約4割5分である(原告A6の額そのものは原告らの中で最も少額である。)。
ウ 原告らがジョーメイ設立において果たした役割には個別にみれば差があり,上司の地位を利用するなどして主導的に従業員の移籍の勧誘や,営業財産の移転を指示した幹部従業員から,比較的従属的な役割を果たしただけの者もいる。
(ア) 各原告についてこれを個別にみると,原告A6及び原告A7を除く原
 告らは,いずれも被告において課長以上の役職にあったいわば幹部従業員であり,その地位を利用して積極的に部下を勧誘するなどしてジョーメイ設立に関与し,被告に対して甚大な被害をもたらしたということができる。また,原告A6は,幹部従業員であったとはいえないものの,被告の大口顧客の多くをジョーメイに移し,在版フィルムの持ち出しに関与するなど,ジョーメイ設立に積極的に関与したということができる。
  そうすると,原告A7を除く原告らについて,本件における程度の退職金の減額が著しく不合理であるということはできない。
(イ) 他方,原告A7は,被告に在職中は役職のない配送担当にすぎなかった上,ジョーメイに移籍後に被告の従業員であったO1に対してジョーメイ移籍の勧誘をしたことが認められるだけで,在職中については具体的な非違行為があったとは認められない。そして,幹部従業員でない者が,被告が倒産するという噂が社内に広まる中で自らの職業生活を考えてジョーメイへの移籍を選択したこと自体を強く非難することができないことを考慮すれば,被告に20年間以上勤続した原告A7のそれまでの勤続の功を減殺してしまう程の非違行為があったということはできない。
  そうすると,被告による原告A7に対する退職金の減額は,著しく不合理であるといわざるを得ない。
エ したがって,被告は,原告A7に対しては,勤続年数及び自己都合退職による減額率によって算定された退職金175万7840円を支払う義務があったところ,既に支給された125万4762円を控除した残額50万3078円について,原告A7の退職後6か月以内に支払う義務がある。
  他方,原告A7以外の原告らに対しては,既に支払済みの金額を超えた退職金支払義務が被告にあるとはいえない。
7 結 論
以上の次第であり,原告A7の請求は理由があるから認容し,その余の原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

新潟地方裁判所第一民事部

裁判長裁判官     片野悟好


裁判官     飯塚圭一
               

               裁判官     和田 健


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