H14. 5. 9 東京地裁 平成07(ワ)14810 学校法人高宮学園解雇事件
H14. 5. 9 東京地裁 平成07(ワ)14810 学校法人高宮学園解雇事件
主文
1 原告P1が被告学校法人高宮学園との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告学校法人高宮学園は,原告P1に対し,4121万6610円及びうち別紙1-1遅延損害金起算日一覧表金額欄記載の金員に対する同一覧表年月日欄記載の年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告学校法人高宮学園は,原告P1に対し,平成13年10月以降本判決確定の日まで,毎月24日限り35万円及びこれに対する毎月25日以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告P2が被告株式会社日本入試センターとの間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
5 被告株式会社日本入試センターは,原告P2に対し,3879万3345円及びうち別紙1-2遅延損害金起算日一覧表金額欄記載の金員に対する同一覧表年月日欄記載の年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告株式会社日本入試センターは,原告P2に対し,平成13年10月以降本判決確定の日まで,毎月24日限り32万1400円及びこれに対する毎月25日以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告P1の後記請求3(2)にかかるその余の請求及び原告P2の後記請求4(2)にかかるその余の請求をいずれも棄却する。
8 原告P1及び原告P2のその余の請求をいずれも却下する。
9 原告P3及び原告P4の請求をいずれも棄却する。
10 訴訟費用は,これを4分し,その1を被告学校法人高宮学園の,その1を原告P3の,その1を原告P4の,その余を被告株式会社日本入試センターの各負担とする。
11 この判決は,第2,第3,第5,第6項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 原告P3
(1) 原告P3が被告学校法人高宮学園(以下「被告高宮学園」という。)との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2) 被告高宮学園は,原告P3に対し,4128万4765円及びそのうち別紙2利息金起算日一覧表金額欄記載の金額に対する同一覧表年月日欄記載の年月日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告高宮学園は,原告P3に対し,平成13年10月以降毎月24日限り34万6000円及びこれに対する毎月25日以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告P4
(1) 原告P4が被告高宮学園との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2) 被告高宮学園は,原告P4に対し,3544万6710円及びそのうち別紙2利息金起算日一覧表金額欄記載の金額に対する同一覧表年月日欄記載の年月日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告高宮学園は,原告P4に対し,平成13年10月以降毎月24日限り29万2000円及びこれに対する毎月25日以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告P1
(1) 主文第1項と同旨
(2) 被告高宮学園は,原告P1に対し,4121万6610円及びそのうち別紙2利息金起算日一覧表金額欄記載の金額に対する同一覧表年月日欄記載の年月日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告高宮学園は,原告P1に対し,平成13年10月以降毎月24日限り35万円及びこれに対する毎月25日以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告P2
(1) 主文第4項と同旨
(2) 被告株式会社日本入試センター(以下「被告入試センター」という。)は,原告P2に対し,3879万3345円及びそのうち別紙2利息金起算日一覧表金額欄記載の金額に対する同一覧表年月日欄記載の年月日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告入試センターは,原告P2に対し,平成13年10月以降毎月24日限り32万1400円及びこれに対する毎月25日以降支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
原告P3,同P4,同P1は被告高宮学園の職員,原告P2は被告入試センターの社員であり,原告P3は被告高宮学園が運営する予備校代々木ゼミナールα 校において,その余の原告らは同β校において勤務していた者であるところ,平成5年12月18日,β校において後述する労使間紛争(以下「本件紛争」という。)が発生したことから,被告らがそれぞれ雇用関係にある原告らに対し,同紛争の指導・教唆等又は指揮・指導・参加を理由として,平成6年5月2日付けで解雇を通知した(以下「本件解雇」という。)。
本件は,原告P3,同P4,同P1が被告高宮学園に対し,原告P2が被告入試センターに対し,本件解雇が無効であるとして,それぞれ雇用契約上の地位の確認と解雇後の賃金等の支払を求めた事案である。
1 前提事実
(1) 当事者等
ア 被告ら及び関係者(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(ア) 被告高宮学園は,大学・高校受験指導等の予備校関連事業を目的とする学校法人であり,本件訴え提起当時,全国の主要都市に「代々木ゼミナール」の名称で27の学校を設置・運営しており,β校もその一つである。
被告入試センターは,各種入学試験模擬試験実施や通信衛星を利用した授業の配信等の事業を行う株式会社である。
被告らは,学校法人東朋学園(以下「東朋学園」という。),株式会社三鳩社及び株式会社代々木ライブラリー(以下「代々木ライブラリー」という。)などとともに,代々木ゼミナールグループを構成している。
(イ) 被告高宮学園は,理事長P5(以下「P5理事長」という。)を代表者とし,本件紛争当時,幹部職員として,各学校の事務局長を統轄する統括総局長のP6(以下「P6統括総局長」という。),法人本部長のP7(被告入試センターの代表者を兼務。以下「P7法人本部長」という。),総務本部長のP8(以下「P8総務本部長」という。),人事本部長のP9などがおり,理事長室付としてP10(以下「P10理事長室付」という。)がいた。
イ 原告ら(争いのない事実)
(ア) 原告P3は,昭和63年3月1日,被告高宮学園に雇用され,その後被告入試センターに出向となり,本件紛争当時,α校業務課において勤務していた。
(イ) 原告P4は,昭和62年4月16日,被告高宮学園に教科職員として雇用され,β校教務課に配属され,以後進学指導の業務に従事していた。
(ウ) 原告P1
原告P1は,昭和59年4月23日に被告高宮学園に雇用され,β校教務課(進学指導)の業務に従事し,本件紛争当時,同課課長代理の地位にあった。
(エ) 原告P2
原告P2は,昭和60年5月1日に被告入試センターに雇用され,β校学生課の業務に従事し,本件紛争当時,同課課長代理の地位にあった。
(2) β校の概要等
ア β校は,JRβ駅南口近くに位置し,校舎がA館とB館とに分かれており,A館とB館とは徒歩約5分の距離にある。
A館は,地下2階地上5階のビルで,1階の事務室には,事務局長及び事務局長代理の執務席があるほか,学務課(受付,総務及び広報),教務課及び受付課が置かれ,本件紛争当時,局長以下17名の職員が配置されていた。また,1階玄関ホールに代々木ライブラリーの窓口が置かれていた。
B館は,地下1階地上6階のビルで,1階の事務室には,学生課,中学課,教務課(教務)が置かれ,学生課課長代理の原告P2を含め16名の職員が配置されていた。
B館2階事務室には,教務課(進学指導)が置かれ,本件紛争当時,課長代理の原告P1,原告P4を含め8名の職員が配置されていたほか,代々木ライブラリーの従業員3名の執務席が設けられていた。
(争いのない事実,乙11の1~3,証人P11(第1回,以下同じ。),弁論の全趣旨)
イ β校の実務上の責任者は事務局長であり,本件当時,P11(以下「P11局長」という。)がその地位にあった。また,P11局長の補佐として,事務局長代理のP12(以下「P12局長代理」という。)がいた。なお,組織上,千葉県内にあるβ校及び柏校の両校を管轄する千葉統轄局長のポストが設けられており,本件紛争の直前である平成5年12月15日までは,P11局長がこれを兼任していた。(争いのない事実,乙64)
ウ 平成5年12月9日,北関東に存在するβ校,柏校,大宮校及び高崎校を統轄して管理するとともに,β校の職員により同月6日に結成された労働組合支部(後記β支部)への対策を目的として北関東総局長というポストが新設され,P13(以下「P13総局長」という。)がこれに就任した。そして,同月15日,P6統括総局長とともに,P13総局長と,同日付けで新たに千葉統括局長に就任したP14(以下「P14統轄局長」という。)がβ校を訪問し,着任の挨拶を行った。(乙62,64,証人P6)。
(3) 労働組合の結成等
ア 平成5年2月ころ,代々木ゼミナールグループの従業員で構成される代々木ゼミナールグループ労働組合(以下「本件組合」という。)が結成され,中央執行委員長に原告P3が,中央副執行委員長にP15(以下「P15副委員長」という。)が,中央書記長にP16が,中央書記次長にP17(以下「P17書記次長」という。)らが就任した。ただし,本件組合が被告ら代々木ゼミナールグループに対し,組合結成を正式に通知したのは同年11月10日ころである(甲2の7,甲19,乙50)。
イ 同年12月6日,β校の職員により本件組合の支部として,労働組合代々木ゼミナールグループβ支部(以下「β支部」という。)が結成され,原告P4が支部長に就任し,同日付けで,本件組合中央執行委員長原告P3及びβ支部長原告P4の連名で,被告ら及び代々木ライブラリー宛に組合支部結成の通知がされた。
本件紛争のあった平成5年12月18日当時,β支部の役員は,支部長原告P4,支部長代行が原告P1,副支部長がP18,書記長がP19,書記長代行が原告P2,会計がP20,組織部長がP21,財政部長がP22,教宣部長がP23,青婦部長がP24,経対部長がP25,厚生部長がP26であった(以下,これら組合員について適宜姓のみで示す。)。
このうち,P21は受付課のチーフ,P26は中学課のチーフ,P22は教務課(教務)の課長,原告P1は教務課(進学指導)課長代理として,各部署の長の立場にあり,また,P18は教務課のチーフであった。
なお,原告P1が支部長代行となったのは同月6日であり,原告P2が書記長代行となったのは同月17日である。
(甲2の10,甲3,乙64,65,67,90,原告P4本人(第1回,以下同じ。)弁論の全趣旨)
ウ 本件組合の組合規約49条1項は,支部長は中央執行委員でなければならないと定めており,原告P4は,現に本件組合の中央執行委員であった。
また,同規約50条1号は,各支部の支部長は「支部を代表し業務を統轄し,重要なる問題については,その都度中央執行委員長に報告し指示を受けなければならない。」と定め,同66条は,組合員が「この組合の規約及び決議に違背したとき」(1号),「組合の統制を乱したとき」(2号)には処罰する旨定めている。
なお,β支部は独自の規約を有していない。
(乙47,50,原告P4本人)
(4) 本件紛争
ア 本件紛争直前の組合集会
平成5年12月16日,β校近くのボーリング場3階会議室において,本件組合の組合員集会(以下「16日の集会」という。)が開かれた。この集会には,β支部の組合員の他に,本件組合中央執行委員長である原告P3及び同組合中央執行委員らが出席した。
翌17日,β支部の集会(以下「17日の集会」という。)が開かれ,同支部組合員らが出席した。集会の司会はP22が行った。
(争いのない事実)
イ 本件紛争
平成5年12月18日,β校において,β支部組合員名簿の提出を発端として,以下のとおり,原告らを含む組合員と被告ら使用者側の者とが衝突する事態(以下,一括して「本件紛争」という。)が生じた。その経過は概略次のとおりである。(争いのない事実,乙11の1)
(ア) 組合員名簿の提出(本件紛争①)
同日午前中(時刻については後述のとおり争いがある。),原告P4は,A館1階事務室において,P11局長に対し,β支部の組合員名簿を提出しようとした。その際,多数の支部組合員がP11局長の執務机の周囲に集まった。このとき,原告P4は,P11局長に対し,受取りの署名を要求し,署名を求めてP11局長の執務机を叩き,大声を上げた。
(イ) 団体交渉申し入れ(本件紛争②)
同日午前11時30分過ぎころから,同支部組合員らは,A館1階事務室において,P11局長に対し団体交渉を申し入れた。これに対し,P11局長は,「勤務時間中なので応じられない。」旨返答し,上記申し入れを拒否した。
(ウ) A館入口前での出来事(本件紛争③)
同日午前12時前後,被告らのα本部から,P7法人本部長及び被告らの職員14名がβ校に来校し,A館入口前においてβ支部組合員らと対峙した。
(エ) 原告P4に対する事情聴取等(本件紛争④)
同日午後2時ころ,原告P4が,P7法人本部長ら被告幹部職員とともにA館応接室に入室し,幹部職員らから事情を聴取された。このとき,同応接室周辺に組合員らが多数集まった。
(5) 原告P3の家族手当受給問題
ア 被告高宮学園の給与規程13条は,家族手当について,配偶者等職員と一定の身分関係にある者等で,同一世帯にあって,主としてその職員の収入により生計を維持している者で所得税法上の扶養控除を受けられる者に支給する旨を定めている(乙1)。
イ 被告高宮学園は,平成5年12月16日,原告P3に対し,同原告の妻の所得額が所得税法上の扶養控除を受けうる範囲を超過しており,上記家族手当の受給資格がないにもかかわらず,平成3年1月から平成5年11月まで家族手当を不正に受給していたとして,上記期間中に支給した家族手当合計65万7400円の返納を求めた。これに対し,原告P3は,同月24日,平成4年1月から同年12月までの分については受給資格がないことを認め,平成5年1月から同年11月までの分については留保付きで,平成4年1月分から同5年11月分までの受領済みの家族手当相当額42万7900円を返納した。(甲16の1,3,5)
ウ なお,被告高宮学園の旧給与規程13条は,家族手当受給の対象となる扶養家族について,配偶者等の一定の関係にある者等で,「同一世帯にあって主として,その職員の収入により生計を維持している者をいう。」と定め,所得税法上の扶養控除を受けられる者であることを要件としていなかった(甲28,証人P27)。
(6) 本件解雇
ア 被告高宮学園は原告P3,同P4及び同P1に対し,被告入試センターは原告P2に対し,いずれも平成6年5月2日付けで,各就業規則21条4号・10号により解雇する旨を通知した。
解雇通知書に記載された解雇理由は,原告P3について,①β支部組合役員と謀議し本件紛争を企て,その実行を指導し,教唆し,その結果,職場の秩序を紊乱し,業務に支障・損害を及ぼし,法人の名誉・信用を毀損したこと,②平成4年1月から平成5年11月まで配偶者の家族手当を不正に受給したことであり,他の原告ら3名については,組合員を指揮,指導し,自らも率先参加して本件紛争を惹起させ,職場の秩序を紊乱し,業務に支障,損害を及ぼし,法人の名誉・信用を毀損したというものであり,原告らの各行為が,いずれも,就業規則67条2号,3号,8号,10号,13号に該当し(原告P3については67条7号,68条を付加),情状も重いとしている。その詳細は,別紙3の1~4のとおりである。
また,本件解雇と同時に,本件組合の中央執行委員であるP15副委員長とP17書記次長,β支部のP18副支部長とP19書記長(役職はいずれも本件紛争当時)に対し,本件紛争の指導・率先参加を理由として出勤停止7日間の懲戒処分がなされた。
(争いのない事実,甲17の1~4,乙26の1~8)
イ 被告高宮学園の就業規則21条,67条,68条の定めは次のとおりであり,被告入試センターの就業規則は,「職員」「学園」等の文言が「社員」「会社」等に置き換えられている外は,被告高宮学園のそれと同一である(乙1,2)。
(ア) 21条(解雇)
職員がつぎの各号の一に該当するときは,解雇することがある。
(4号)懲戒解雇に処せられたとき
(10号)その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき
(イ) 67条(懲戒解雇,諭旨解雇)
次の各号の一に該当する場合には懲戒解雇とする。ただし,情状により諭旨解雇にとどめることがある。
(2号)所属長の指示命令に従わず職場の秩序を乱したとき
(3号)業務命令に従わないとき,または異動,転勤,降職等の業務命令を拒否したとき
(7号)職務に関し不当に金品その外を授受し,その他私利をはかったとき
(8号)故意または重大な過失によって業務上の損害を与えたとき
(10号)学園の名誉を著しく毀損したとき
(13号)その他前各号に準ずる不都合な行為をしたとき
(ウ) 68条(共謀,教唆または幇助)
第65条,66条または67条各号の規定は他人と共謀しまたは他人を教唆もしくは幇助した者にこれを準用する。
(7) 原告らの給与
原告らの給与は月給(毎月15日締め24日払い)及び一時金(毎年6月及び12月に支給)からなる。
本件解雇がなされなかったとすれば,解雇後平成13年9月(同月24日支給分)までに原告らに支払われるはずであった月給及び一時金の合計額は,別紙4-1未払賃金一覧表の「合計」欄記載のとおりである。
また,原告らの各月毎の月給及び支給日別の一時金の額並びに一時金の支払日は,それぞれ別紙4-2賃金債権明細表及び別紙4-3一時金支給明細一覧表記載のとおりである。
(争いのない事実)
(8) その他の事情
原告P2は,平成8年10月11日,千葉県市川市から肩書住所地(北海道函館市)へ住民票上の住所を移転した(乙102)。
2 主要な争点
(1) 本件解雇につき解雇事由の有無及び解雇権濫用の成否等
(2) 原告P2の賃金請求権の存否
3 争点(1)に対する当事者の主張の骨子
(1) 被告ら
原告らに対する本件解雇の理由は,別紙3の1ないし4のとおりであって,本件解雇はいずれも正当なものである。以下詳論する。
ア 本件紛争は,以下の経緯に基づいて実行されたもので,極めて組織的かつ計画的なものである。
(ア) 本件組合は単一労組であって,β支部は,本部の指示,指導の下に行動する体制であり,支部独自の規約もない。
本件組合本部は,β支部の結成を高く評価し,β校の大部分の職員がβ支部に加入したことを知るや,平成5年12月6日に急遽支部結成を被告らに通知して公然化し,さらに同月18日に組合員の氏名を公然化させ,被告らに対し,その団結力を誇示することをもくろんだ。P11局長への名簿提出はそのための手段であって,組合員全員で組織的に行動し,本件組合の団結力を示威することを本質とする戦術であった。上記の構想を持ったのは原告P3であり,その余の原告らは,これを十分知る立場にあった。
(イ) 16日の集会に出席した原告P3は,席上,本件組合中央執行委員会の決定に基づいて,β支部に対し,17日の集会を開催の上,同月18日にP11局長ら管理者を吊し上げて組合員名簿の提出を行うことを指示・教唆した。このように,16日の集会の目的には,本件組合本部側がβ支部をして被告ら当局に実力をもって対抗する活動的な組織とするねらいがあったことは疑いない。
(ウ) 翌日開催された17日の集会は,中央執行委員も支部執行委員も誰一人出席することなく,一般組合員13名のみが集合してファミリーレストランで行われたというものであって,前日に原告P3から形式的でいいから支部大会を開いて名簿提出について決議するよう指導があったことに基づいて開催された形だけのものである。
イ 本件紛争は,以下のとおり,違法な組合活動であって労働契約上の義務に違反する行為であり,かつその態様,結果も重大である。
(ア) 本件紛争① 名簿提出
原告P4を含むβ支部役員は,同月18日,16日の集会で原告P3から与えられた組合員名簿提出に関する指示に従い,B館を勤務場所とする組合員らを職場離脱させて動員し,P11局長への名簿提出のためにA館に向かった。そして,原告P4は,原告P2,同P1その他のB館組合員ら多数を従えてA館事務室に突然侵入した上,午前9時50分ころ,P11局長に対し組合員名簿を提出した。その際,P11局長が名簿に受取りの署名をすることを拒否したため,原告P4は机を叩き,大声を上げた。また,組合員らは,P11局長に対し,同局長の日頃の行動までとりあげて吊し上げをした。組合員らが解散したのは午前10時50分ころである。
以上のとおり,β支部組合員らが就業時間中である午前9時50分ころより職場を離脱した上,A館事務室においてP11局長を取り囲み,組合員名簿の受領及び受領の署名を強要し,同局長の職務を妨害した行為は,労働者が使用者に対して負う就業中の労務指揮権に服して労働する義務,労働義務を誠実に履行する義務,企業秩序遵守義務,企業の運営に支障を及ぼすような行為をしない義務に違反する違法な組合活動であり,その態様も重大なものである。
(イ) 本件紛争② 団体交渉申し入れ
β校職員らの休憩時間は,生徒の昼休みの時間(同月18日においては午前11時50分から午後0時50分まで)における窓口対応のため,前後1時間に分かれて取ることとされていたが,同月18日,組合員らは,原告P2の指示により,一斉に午前11時30分から休憩時間を取得して職場を離脱した。さらに,同組合員らは,A館のP11局長席の周辺に集結し,午前11時46分ころ,執務中のP11局長に対し,その場で団体交渉の申し入れをした。P11局長は勤務時間中であることを理由にこれに応じなかった。また,原告P2は,その際,A館事務室内の電話で,中央執行委員のP15副委員長と連絡を取ったが,その際,「大丈夫です。言質とりましたから,今隣に局長がいますから,電話切ります。はい。」などと話した。
以上のとおり,β支部組合員が午前11時30分ころよりA館事務室に集結,滞留し,P11局長を取り囲んで団体交渉要求と称して同局長の職務遂行を妨害した行為も,(ア)と同様の理由によって違法な組合活動であり,その態様も重大なものである。
(ウ) 本件紛争③ 入口付近の出来事
組合員らは,同日午後0時10分ころなされた,原告P2の「さあ来たぞ,入り口で止めるぞ。」という指令に基づいて,A館入口付近に移動・待機し,異常事態収拾のため本部からβ校に赴いた被告側幹部職員らの入館を阻止した。この入館阻止は,P17書記次長がβ校に赴いた上で,P7法人本部長がβ校に入館して人事異動を発令する前に,P17書記次長の指導によりβ支部が本件組合本部側の方針に従った対処を行うようにするための時間稼ぎとしてなされたものである(ただし,同日の人事異動は全く予定されていなかった。)。組合員らは,原告P4,同P2及び同P1を中心に,P7法人本部長がA館に入るため通過すると考えられた中央扉の前に横並びに立ちはだかった。また,他の組合員は中央扉の内側に立ち,外部から扉を内側に開けられないように押さえつけ,また,いつでも施錠できる態勢を整えた。そして,P7法人本部長がA館手前の駐車場にさしかかると,組合員らが人垣を作って肩や胸を突き出すようにし,その前進を阻んだ。この結果,A館中央扉付近で,同本部長ら一行とその入館を阻止する組合員らとが一時的ににらみ合う状態が生じた。
これらの一連の出来事は,折から昼休みであった生徒ら約200名及び父兄の目の前でなされ,かつ,A館入口が自由に通行できる状態ではなかったため,来校していた生徒ら及び父兄に大混乱が生じた。
以上のとおり,支部組合員がβ校A館入口の扉を内側から押さえ,あるいは施錠するとともに,扉の外側に人垣を作ってピケを張り,入館しようとする高宮法人部長及び被告側幹部職員らの入館を実力で阻止した行為は,ストライキに付随するピケッティングとは目的を異にする点でおよそ違法性が阻却される余地はなく,しかも就業時間内の行為であってβ校の業務に支障を来し,生徒や父兄らの前でなされた点で被告らの名誉・信用及び施設管理権を侵害する違法行為である。
(エ) 本件紛争④ 応接室周辺等
原告P3は,かねてからβ支部に対し種々の指導を与えていたが,同日,自己の争議指導の責任回避のために自らはβ校に赴かず自宅で待機し,β校に赴いた本件組合本部側役員4名に対しても,β校内部には立ち入らず,校外に止まって原告P3と連絡を取ることを指示するなど,中央執行委員長にあるまじき及び腰の対応をしていた。
同日午後2時過ぎころ,原告P4がA館から道路を隔てた反対側の舗道上で本件組合本部側役員と立ち話をしているのに気付いた被告幹部職員らは,無断職場離脱の理由を質すため,原告P4に同行を促した。原告P4は,別段拒否もせずに黙ってこれに従った。その後,A館1階応接室内において,被告幹部職員らが,ソファーに座った原告P4と相対し,同原告に対し質問をしたが,原告P4は沈黙し続けた。
ところが,組合員らに対して原告P4が拉致・監禁されたとのデマが流され,これを聞いた組合員らは職場を離脱してA館に集まって来た。その際,β支部のP18副支部長は,応接室内に自ら飛び込み,ソファーの肘掛けに手をかけ,自ら前向きに体を投げ出し,ソファーと電話台の間に転倒した上,「オー,殴ったな。」と大声で叫んで起きあがると,自分から応接室を出ていった。この結果,応接室前に集まった職員らは,口々に騒ぎ,P13総局長及び本件紛争発生を聞いて来校したP5理事長から度重なる指示を受けても,職場に復帰しようとする者は誰一人としていなかった。さらに,本件組合本部側役員もA館事務室内に入り,P13総局長らの退去命令にも従わなかった。結局,組合員らが解散して自席に戻ったのは,同日午後3時過ぎであった。
以上のとおり,支部組合員が同日午後2時過ぎから職場を離脱し,A館事務室応接室付近に集結,滞留し,職場復帰命令に従わず,シュプレヒコールを行うなどして,被告らの役員や管理職の職務遂行を妨害し,業務に支障を与えた行為は,労働契約上の労働義務,業務命令服従義務に違背し,施設管理権を侵害するものであり,企業秩序遵守義務,忠実義務に違背するものである。
(オ) 本件紛争発生による損害
本件紛争は,β校に来校していた生徒及び父兄の目の前でなされたため,被告らの名誉及び信用を著しく害する結果となった。
また,本件紛争により,広報業務(模擬試験案内書の配布及び校内放送の実施,翌日に予定されていた模試受験者数の最終確認等),教務課教務(授業のプリント授受,生徒や講師の誘導等),教務課進学指導(進学相談),学生課の業務(同日までに完了させなければならなかった全国総合模試答案整理作業,得点入力後の校正作業等),中学課の業務(推薦入試模擬試験の答案返却や進学相談への対応等)について支障が生じた。
ウ 原告P3の家族手当不正受給について
原告P3は,妻の年間所得により所得税法上の扶養控除を受けられないことを知った段階で,被告高宮学園に対し,妻について,同被告給与規程に定める扶養家族の減員届を提出する義務を負っていたところ,平成4年9月ころ,原告P3は,その居住する横浜市から住民税を増額する旨の通知が送られるという,妻の所得が扶養控除限度額を超えたことを疑わせる事態が生じたにもかかわらず,上記減員届を行わず,約2年分に相当する家族手当を不正に受給したものである。
(2) 原告ら
被告らの主張する解雇事由は,本件組合及びβ支部の幹部である原告らを解雇するため捏造された事実に基づくものであり,本件解雇は,解雇権を濫用し,かつ不当労働行為であって無効である。以下詳論する。
ア 本件紛争前の状況は次のとおりであり,事前謀議なるものは存在しない。
(ア) 代々木ゼミナールグループにおいては,札幌校に労働組合が結成されて以来,組合の中心人物に対する配転・解雇や,組合員に対する組合脱退強要が繰り返されてきたため,本件組合が公然化された平成5年11月以降,α校及びβ校の組合員にとっては,労働組合を公然化したものの,上記の手段による組合つぶしの攻撃に戦々恐々とさせられていた。また,β校においてはP21に対する配転の動きが浮上し,さらには被告ら幹部職員の人事異動により,組合対策としてP14統轄局長及びP13総局長が同校に配属され,一気に不安が高まった。このような状況下で,同年12月15日,P14統轄局長及びP13総局長がβ校で職員全員の前で就任挨拶をしたが,札幌校において配転などによる組合つぶしに中心的な役割を果たしたP13総局長がβ校に常駐する方針が表明されるなどしたことから,支部組合員らの中に激しい動揺がもたらされた。
(イ) そこで,β支部では,同月16日に組合員集会が開催されることとなった(16日の集会)。この集会には,本件組合中央執行委員長である原告P3らα校の組合員も午後7時半ころから出席した。この集会において,原告P3は,従業員の過半数を超えて組合員が存在するβ校においては,組合員であることを明らかにする時期ではないかという本部からの提案を行った。これに対しては,組合つぶしを目的とした配転への懸念から,名簿を提出すべきであるという方向に議論は大きく傾いたが,原告P3は,名簿を提出するか否かの結論は,支部大会によりβ支部の組合員らが決めるべきだと述べ,結局,翌日支部大会を開いて組合員名簿を提出するかどうかを決めることとなった。
(ウ) 17日の集会では,議論の末,組合員名簿提出が決定されたものの,提出の時期や方法などについては議論の対象となっておらず,結局,名簿提出の時期や方法は,原告P4に一任された。原告P4は,上記決議が成立した後に同集会に出席し,上記決議内容を知らされた。なお,この集会においてリーダーシップを取っていたのは,後に組合を脱退したP22及びP26らであった。
イ 本件紛争の状況は以下のとおりであり,組合員らの行動は,被告ら側の本件組合に対する敵対的・硬直的な姿勢に触れた組合員各人の自発的意志に基づくものであり,組織系統に基づく指示によるものでも,組織立ったものでもない。
(ア) 本件紛争① 名簿交付(午前10時ころ~)
組合員名簿の提出を一任された原告P4は,当初,同月18日が土曜日であって,名簿提出先と考えていたP13総局長を含む幹部職員が週休の予定であったことから,名簿提出を翌週月曜日にする考えでいた。しかし,18日当日,朝礼での話や,α校幹部職員らがβ校に向かったとの情報から,P21に対する配転辞令が出されるのではないかという情報が伝わったため,原告P4は,18日午前10時ころ,急遽原告P3と相談して組合員名簿を提出することを決めた。そして,原告P4は,午前10時過ぎ,B館からA館に赴き,A館1階の自席で執務中のP11局長に組合員名簿を提出した。これに対し,P11局長は何も言わず名簿を凝視し,被告側α本部に電話をして名簿が提出されたことと併せ「組合員は34名です。」と報告した。原告P4は,いったん同事務室から退出したものの,原告P2から受取りの署名をもらうよう促されたため,再度引き返し,P11局長に対して署名を求めた。ところが,P11局長は,署名を拒否し,「名簿は受け取っていない,置いてあるだけだ」と述べ,組合員名簿を机の上に放り投げる態度を取った。このP11局長の不誠実な対応に,原告P4が思わず机を叩き,声を強くする場面等があったが,これはやむを得ないものであった。組合員がP11局長の執務机の周辺に集まったのは,上記の状況が伝わった結果偶発的に生じたのであって,計画性はなく,組合員らは,日々学校のことを考えて努力している職員のことを考えてくれるよう訴えたのである。その後,組合員らは,P14統括局長からの指示を受け,午前10時30分ころには自己の業務に戻った。
(イ) 本件紛争② 団交要求(午前11時30分~)
もともと休憩時間は,1ないし2名の例外を除き,全員が午前11時30分から取得できるものであり,18日も組合員らは通常どおりに昼休みを取得した。当日,原告ら組合員が一斉に昼休みの時間を取得したということはなく,また,原告P2が昼休みを一斉に取得するよう指示した事実もない。そして,P11局長が組合員名簿の受取りを拒否したままになっていることから,この問題を解決するため,原告P2は午前11時30分に休憩を取ってP11局長に団体交渉を申し入れた。これに対し,P11局長は,業務中だから団体交渉はできない旨述べてこれを拒否したため,原告P2は,ホールの公衆電話でP15副委員長と連絡を取った。その結果,P7法人本部長らがβ校に向かっているので,β校に到着したら来校の理由を問い,人事異動の辞令を持っているのであれば,それを受け取った上で交渉を申し入れて話し合いをすることにした。
(ウ) 本件紛争③ A館前の出来事
午前12時前後,P7法人本部長ら被告側幹部職員がβ支部の組合活動を抑圧するため大挙して β校に来校した。このとき,組合員らはA館フロアや入口前の路上に三々五々散らばって幹部職員を待っており,ピケットを張った状態ではなかった。また,幹部職員らの入館を阻止する行動の計画は立てられておらず,現にそのような行動はなかった。したがって,幹部職員が入館しようと思えば容易に入館できた状況にあった。このような状況下で,原告P4ら組合員らがA館前でP7法人本部長に来校のの理由を質問し,あわせて交渉の申し入れをしていたところ,講義が終了した生徒が多数出て来たので,組合員らは入口中央扉を開け放しにして生徒の出入りを誘導したため,混乱はなかった。扉の施錠は,女性職員が反射的に取った偶発的な行為であり,原告らの指示に基づくものではない。
(エ) 本件紛争④ 応接室周辺
被告側幹部職員らは,原告P4を応接室内に連れ込み,多数で取り囲んだ上,朝からの一連の出来事は組合役員の指示に基づくものであることを認めさせて顛末書を書くよう,応接室の外まで聞こえるような大声で詰め寄った。この状況を目の当たりにしたA館の組合員が驚き,原告P4が監禁されたことをB館の組合員に伝え,この情報が順次組合員らに伝わったため,組合員らは,各自の判断で応接室周辺に集合した。
応接室に到着したβ支部のP18(副支部長)は,原告P4を連れ出そうとしたが,P10理事長室付に胸を突かれて転倒し傷害を負った。
被告側は,同日の一連の紛争は,本件組合本部の指示に基づいて原告P4が指導してやったことであると一方的に決めつけたため,原告P4は,何も述べることができなくなった。
(オ) 以上のとおり,原告らが本件紛争を「指導・教唆」または「指揮指導」した事実はなく,原告らが本件紛争に率先参加したこともない。
昼休みの出来事(本件紛争②,③)は,原告らの休憩時間中のことで,勤務時間中の出来事ではなく,また,来校の理由を問い交渉を求めることは,正当な権利の行使であり,職場の秩序紊乱は問題とならない。名簿提出時の出来事(本件紛争①)は,勤務時間中の出来事ではあるが,P11局長が組合名簿を受け取りその旨の署名をするという常識的な対応をしていればほんの数分で足りることであった。そして,被告が組合を敵視して威圧的な姿勢をとらず,労働組合との話し合いにより決めるという姿勢を堅持していれば,本件紛争は生じなかった。
ウ 本件紛争による業務上の支障・障害等は存在しない。
当日の業務態勢は年末も差し迫って進学希望もほぼ決まり,落ち着いた時期に入っていた。また,当日は土曜日で,比較的手すきの状態であり,生徒やその父母らの来訪者数も通常日より少なかった。そして,当日,授業は滞りなく実施されるなど,予定された業務はすべて行われた。受付業務については,昼休みの時間中も担当職員は通常どおり業務に就いていた。また,生徒に支障が生じたことも,A館ホールが混乱に陥った事実もなかった。
被告らは,本件紛争により,広報業務(模擬試験案内書の配布及び校内放送の実施,翌日に予定されていた模試受験者数の最終確認等),教務課教務(授業のプリント授受,生徒や講師の誘導等),教務課進学指導(進学相談),学生課の業務(同日までに完了させなければならなかった全国総合模試答案整理作業,得点入力後の校正作業等),中学課の業務(推薦入試模擬試験の答案返却や進学相談への対応等)について支障が生じたとするが,これらは,滞りなく行われたか,あるいは同日までに行わなければならない作業ではないために行われなかったかのいずれかであった。
さらに,被告らは,本件紛争により法人の名誉及び信用が毀損されたと主張するが,主張に具体性がなく,これを裏付ける証拠もなく,仮にそのような事実があったとしても,原告らの行動との間に因果関係はない。
エ 本件解雇の不当労働行為性
被告らの組合嫌悪の体質・言動や組合員らに対する差別的取扱いの実例,さらには,原告らと本件組合を本件紛争後に脱退した者との処分について著しく公平を欠いていることに鑑みれば,本件解雇は,原告らの組合結成と組合活動を嫌悪し,組合の団体弱体化を企図としてされたものであり,労働組合法7条1号及び3号に該当する不当労働行為として無効である。
オ 原告P3の家族手当不正受給問題について
原告P3が妻の所得について扶養控除の範囲内を超えたことを知ったのは平成5年7月である。そして,原告P3は,同年9月には私学共済の扶養家族の取消申請をしたが,原告P3が採用された当時の就業規則では,家族手当の支給対象となる扶養家族について,税法上の扶養控除の範囲内のある者との限定はなかったため,現行給与規程の家族手当支給に関する条項に上記のような限定がされていることを知らずにおり,上記私学共済の扶養家族取消申請をした時点で,家族手当の受給に関し異動届など書類の提出が必要となることも知らなかった。
他方,被告高宮学園は,同年10月には上記事実を知ったはずであるが,同年11月に本件組合の結成通知がなされ,原告P3が中央執行委員長に就任したことを知って,この問題の調査を開始し,原告P3に何ら事情を聴くこともなく,一方的に平成3年以降の家族手当の返納を要求し,なおかつ,この家族手当不正受給を解雇事由の一つとした。これが組合員排除を意図した不当なものであることは明白である。
4 争点(2)に対する当事者の主張の骨子
(1) 被告入試センター
民法536条2項の適用に関し,使用者が解雇の意思表示をした場合において労働者が解雇が無効であるとしてその効力を争って賃金請求をするときには,自らが客観的に就労する意思と能力とを有していることも主張立証すべきであるところ,原告P2は,本件解雇後である平成8年10月11日付けで北海道函館市に転出しており,β校への通勤は不可能であるから,同人は就労の意思も能力も有しておらず,賃金請求権は存在しない。
(2) 原告P2
債権者が労務の提供を受領しない意思が明確であるときには,債務の履行の提供について口頭の提供も不要であるとされている。したがって,労働者が解雇が無効であるとしてその効力を争って賃金請求をする場合において,そもそも就労する意思及び能力を有しているか否かを問うことは,上記の法解釈の趣旨に反する。また,本件においては,原告P2が解雇の撤回と就労の受入れを求めたにもかかわらず,被告入試センターはこれを拒絶し続けているのであり,その結果P2が住民票上の住所を函館市に転出させたとしても,そのことをもって就労の意思も能力もないとはいえない。
第3 争点に対する判断
1 認定事実
前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 本件紛争前の代々木ゼミナールグループにおける労使関係の状況
ア 平成3年10月,代々木ゼミナールグループに属する東朋学園の札幌校職員らが,暖房手当不支給に対する抗議行動として同月23日以降早出サービス出勤を拒否する行動を取ったところ,同学園は,職員2名(後記P28副支部長及びP29書記長)に対する出向命令を発した。同年11月5日,グループ内の初めての労働組合として,東朋学園札幌校の職員及び同校内に勤務する代々木ライブラリーの職員により札幌地域労働組合代々木ゼミナール支部が結成され,上記出向命令の撤回等を求めて団体交渉を申し入れたが,東朋学園は,支部の結成を否認し,団体交渉の申し入れを拒否するとともに,同月10日,同支部のP28副支部長及びP29書記長の2名を解雇した(ただし,後に裁判上の和解によりこれを撤回した。)。
その後,同労働組合は,東朋学園を相手方として,北海道地方労働委員会に対し,同学園の組合員に対する脱退勧奨や組合への支配介入等を理由とする不当労働行為救済申立てをし,同労働委員会から救済命令が発令され,桐朋学園の再審査申立てに対し中央労働委員会も同旨の判断を示した。同地方労働委員会及び中央労働委員会は,東朋学園の代表者でもあるP5理事長が,札幌校の職員らに対し「連合はお金を取りあげる労働貴族だ。今はわからないだろうけど,お金を搾り取られるだろう。今,組合員がだれか聞かない。ただ,入っていると不利だからやめなさい。」などと述べ,また,被告側幹部職員らに対し「労働法は,戦後の混乱期にできた。アメリカ流で労働者の権利を認め過ぎている。」などと述べた旨の事実を認定し,かつ,前者を不当労働行為に該当すると判断している。
(甲44,97)
イ また,平成5年7月当時,α校において労働組合結成の準備を進めていたP30及びP31に対し,同月3日付けでそれぞれ浜松校及び立川校への配転・出向命令が出された。同人らは,同月12日付けで,代々木ゼミナールグループに対し,労働組合東京ユニオン代々木ゼミナールグループ支部の結成通知を行うとともに,上記配転・出向命令の撤回等を求めて団体交渉を申し入れ,これにより,α校においても労働組合の結成が公然化された。その後,被告入試センターは,P30に対し,同年8月9日付けで配転命令違反を理由として解雇を通告した上,この解雇を争うP30に対して雇用関係不存在確認の訴訟を提起し,労使の対立が強まった(この訴訟については,P30も地位確認等の反訴を提起したが,解雇は有効であるとしてP30の請求を棄却する一審判決がなされ,控訴棄却,上告棄却等により平成12年6月23日確定した。)。(甲2の4~6,乙54,61,101)
ウ 前提事実のとおり,原告P3は,上記P30らの結成した労働組合とは別に,平成5年2月ころ本件組合を結成し,その執行委員長に就任していたが,P30らによる前記組合結成とP30の解雇問題が発生した後の同年11月10日,代々木ゼミナールグループに対し,本件組合結成を通知するとともに,団体交渉を申し入れ,組合活動を公然化した。その後,同年12月初めにかけて,本件組合から代々木ゼミナールグループに対し,種々の要求書が提出され,団体交渉に応じないことや会社側幹部の発言を不当労働行為であると非難する抗議文なども複数提出された。(甲2の9,13~18)
エ なお,P30らが組織した東京ユニオン代々木ゼミナールグループ支部と本件組合とは,本件紛争直後の平成5年12月23日に組織が統合されて労働組合東京ユニオン代々木ゼミナールブループ支部となり,原告P3が支部長に,P30が書記長にそれぞれ就任した(甲2の12)。
(2) 16日の集会に至る経緯
ア β支部は,平成5年11月22日,本件組合本部のP32組織部長がかねてから親しかった原告P4に対して組合結成を働きかけたことをきっかけに結成され,同年12月6日付けで被告らに対し組合支部結成通知がされた。そして,同日,α校においてβ 支部結成を報じるビラが配られたことから,P11局長は,急遽α本部に呼び出された。翌7日,P11局長は,β支部組合員で受付課のチーフであったP21をA館応接室に呼び出し,同人に対し,受付や会計を担当する職員が組合に加入するのはまずいという趣旨の発言をした上で,P21が組合に加入しているか否かを質問し,同人がこれに応えずにいると,他の受付の職員が組合に加入しているかどうかを質問するなどした。(前提事実,甲61,72,乙47)
イ β支部結成通知がなされた直後,β支部における組合対策をも目的として北関東総局長のポストが新設され,P13総局長がこれに就任した。P13総局長は,前記のとおり札幌校において労働組合が結成された後,北部本部長及び札幌校総局長として派遣された経歴を有する者であった(前提事実,乙64)。
ウ 同年12月15日,β校において,P6統括総局長も出席の上,P13総局長及びP14統轄局長の就任挨拶が行われた。その際,P6統括総局長は,本件組合の配布したビラに「局長P11」と記載されていたことをとらえ,局長の名前を呼び捨てにしていることは不適切であり,私がいたら殴ってやりたいとの発言をした。
その後,β校の各部署の責任者を集めた責任者会議が開かれ,その席で,P13総局長は,「君たちは(被告側の)利益代表であるから,ここで話したことを漏らすと罰する。」との発言をし,原告P2の「罰するというのは本来の責任者会議の趣旨に反するので,どういう根拠に基づいて罰するとおっしゃるんですか。」との質問に対しては答えないという出来事があった。
また,同日午前11時ころ,P21らβ校の受付課職員らが応接室に集められ,そこで業務上の指示を受けたが,その後P21が単独で応接室に残され,P13総局長及びP6統括総局長から,「くれぐれも身の回りはきれいに。」「何か相談があればいつでも言ってくるように。」などと言われることがあった。
(甲2の20,甲18の2,甲21,61,64,72,90,91,乙70,原告P4本人)
エ 原告P3ら本件組合の執行部は,上記イ及び(1)ア,イの事実等から,組合結成直後に組合員を配置転換ないし出向させることが被告側の組合対策の常套手段であると感じており,上記アないしウの状況により,β支部においても,P21ら組合員を対象とした配置転換ないし出向という事態が発生するのではないかとの強い危惧の念を抱いた。
そこで,本件組合本部側は,これに対抗するため,既に職員の大半が組合に加入しているβ支部について,組合員名簿を提出することにより,組合員の結束を強め,被告ら側に組合の勢力を誇示するとともに,組合員に対する配置転換ないし出向があった場合に,本件組合が対抗して争う手段としようと考えた。
加えて,本件組合本部側は,β支部の組合員は,支部長である原告P4を含め,労働組合活動の知識と経験に乏しい者が多く,具体的な組合活動の方法は,本件組合本部側による指導が必要であると考えていた。
以上の経緯により,本件組合本部側は,β支部に組合員名簿を提出させる方針を決め,この方針を支部に提案するために16日の集会を開くことを決定した。
(甲77,89,90,乙28,39の1,原告P4,同P3各本人)
(3) 16日の集会の状況
平成5年12月16日午後6時30分ころから,β校から徒歩約10分の距離にあるボーリング場の3階会議室において,16日の集会が開かれた。同集会には,支部組合員である原告P4,同P1,P18,P22,P33,P24,P21及びP25ら約20名が集合し,本件組合本部側からは,原告P3,P16中央書記長(この両名は遅れて午後7時30分ころから参加),P17書記次長,P32組織部長,P34及びP35らが参加した。なお,原告P2は,当日夕刻,知人の法律相談に同行して弁護士事務所を訪問していたため,16日の集会に出席しなかった。
同集会において,P22は,P13総局長の就任後,私物のワードプロセッサーの持込みが禁止されたり,部屋の使用方法が制限され,休日の私服による校内立入りが禁止されるなど,従来問題とされていなかった事柄について種々制約が設けられ,これら方針変更後の仕事方法等についてP11局長に質問しても,P13総局長の意向を聞く等として明確な回答がなく,業務が進行しないことの強い不満を述べ,P13総局長及びP11局長を再三批判し,他の組合員も同調した。
また,本件組合は,同日付けで代々木ゼミナールグループに対し,前記(2)ウの行為が不当労働行為であり脅迫にも相当する行為であるとして,今後同様の行為等があれば刑事告訴も行う旨の抗議文を提出していたところ,P17書記次長は,16日の集会の席で,この抗議文に関する原告P4の質問に関連して,今後被告側幹部職員らの言動に威嚇の態度があった場合には,本件組合本部に電話連絡をし,執行委員長である原告P3を通じてβ警察に通報をすることを徹底するという方針を示し,警察へ通報する手順を記載した「組合員に対する脅迫罪110番通報フロー」と題する書面を支部組合員らに交付した。
原告P3は,途中から同集会に出席した後,被告ら側がβ支部組合員に対し,まず配置転換で組合員の少ない学校へ移す行動に出るとの予測を示した上,前述のとおり複数の幹部職員から呼び出しを受けるなどの状況にあったP21に対し,配置転換を防ぐため,本件組合の本部役員に就任し,その旨を相手側に通告しておけば安全であると説明し,P21を中央執行委員に任命する趣旨の発言をした。さらに,原告P3ら中央執行委員は,早急にβ支部の組合員名簿を提出することを強く勧め,名簿を提出して組合員名を公然化することにより,数の上で幹部職員を圧倒していることを被告ら側に示すことができ,同時に,個々の組合員に対する切り崩しを防ぐことができると説いた。支部組合員の中には,組合員名を早急に公表することについて消極的意見を示す者もいたが,原告P3から,β支部が旗揚げしたことで,被告ら側は必ず近いうちに組合員に対し人事異動命令を出して支部の弱体化を狙ってくるはずであり,翌17日の全国局長会議で組合員の配転が議題にあがることは間違いなく,支部組合員が組合員名を非公然のままにしていると,この異動命令に対抗することが難しく,組合員を対象とした異動命令及び脱退工作により支部は危機的状況に陥ることになる,これを防止するために,被告側に組合員名を明らかにして組合員を人事異動から守るべきである,との趣旨の説得を受け,早期の提出に賛同するようになった。
そして,原告P3は,支部組合員らに対し,翌17日にも支部大会を開いた上で18日の土曜日にも名簿を提出すべきであると説き,集会の終盤,最終的に明日どうするかを決める話になった際,「私が今日来たのは,まず2つだけ。まず,あの組合員の氏名を,もう明らかにする,役職は公表する必要ないけども,氏名をはっきり公表するっていうことと提出するっていうことね。もう一つは支部大会を開く,支部大会を開いて公表する,順番から行くとね。」と重ねて強調した上,原告P4から提出の具体的方法について質問されたのに対し,名簿はどのような書式でもかまわないこと,P11局長宛に出せばいいこと,その際に支部印を使うこと,組合本部には,支部印を押した名簿の写しを送ってもらえば後は支部の判断で提出してよいこと,ただし警察を呼ぶ事態になったり,支部組合員がαの本部に呼ばれるような事態になったときは必ず組合本部に電話を入れることを指示した。名簿提出の指示について,原告P4が「今まで隠せと言ってたじゃないですか。」と発言したのに対し,原告P3が「流れで,今日はその方針を,方針を変えて。」と,P17書記次長が「戦術なんですよ。はっきりいうと,名前を公表するかしないかというのは,組合側の戦術なんですよ。」と発言する場面もあった。
また,β支部に常駐するようになるP13総局長ら幹部職員への対抗手段として,本部執行委員のP17書記次長やP32組織部長は,組合員らが多数で取り囲み,多数対1で次々と攻めればいいと発言した。そして,P32組織部長が,「だからもう,数の優位で1対1で対応しようとしないで,もう複数対1人って感じでね,どんどん攻めてきゃいいですよ,あいつ(P13総局長)は。」と発言したのを受けて,原告P3は,「ですから,まあ,譴責,出勤停止は私が受けますから。」と発言した。
上記のほか,この集会で,不当労働行為に対してはメモを取り,またはテープに録音するなどの方法で記録に残し,就業時間後に抗議文を出すことなどが話し合われた。
原告P3ら本件組合本部役員の上記のような指導に基づき,組合員らは,まず,β支部の集会を開催して組合員名簿を被告ら側に提出することの決議を経た上で,同月18日に組合員名簿を被告側に提出し,かつ,その際に組合員がそろって提出に行くことで組合の団結を被告側に示すこととした。(前提事実,甲15,19,82,89,90,乙28,46,49,証人P22,原告P4本人。なお,被告らは,16日の集会に原告P2が出席した旨主張し,これに沿う証拠(乙44,45,48,49,67,証人P22)も存在するが,16日の集会の様子を録音したテープ(約2時間30分)には,原告P2の発言と思われるものはなく,組合員らの話題が原告P2に及んだ場面でも,同原告が同席していることを前提とした内容となっていないこと(甲89,90)や前記証拠(甲15)に照らし採用できない。)
(3) 17日の集会の状況等
ア 同日は期末賞与の支給日であったところ,本件組合側は,同月13日に開催された団体交渉の席上,代々木ゼミナールグループ側に対し,期末賞与額について代々木ゼミナールグループ側が提示した額で妥結する旨を口頭で伝えていたが,結局,β支部の中心的メンバーであると被告ら側に目されていた者(原告P4,同P1,同P2,P18及びP19)に対しては,ボーナスの支給がされなかった(甲2の21,甲20,甲52,64乙70,原告P3本人)。
イ 17日の集会は,16日の集会で使用した会議室が予約できなかったため,ファミリーレストランであるデニーズβ店で午後6時から開始された。同日,原告P4,同P1及び同P2らは,都庁記者クラブにおいて,行われる予定の本件組合の代々木ゼミナールグループに対する不当労働行為救済命令申立てについての記者会見に出席することになったため,同集会には欠席し,17日の集会の進行は,P22中心となって行われた。この集会には,15名程度の支部組合員が出席し,欠席した組合員のうち11名からは,「私は,12月17日の支部大会に都合により出席することができません。つきましては,本日の支部大会の決定にすべて従います。」と記載された委任状が提出された。なお,16日の集会において,急遽開催することとなった支部集会に組合員が集まるかどうかが懸念する意見が出された際,原告P3が原告P4らに対し,上記趣旨の委任状を取るという方法を教示していた。
集会では,まず,16日の集会に出席していなかった組合員らのために,労働組合の意義や必要性について説明がなされ,次いで,出席者が順番に,組合に加入した動機を述べあった。
その上で,組合員名簿を被告側に提出することの必要性について,16日の集会において原告P3が説明したところに沿う形で,P22やP26が説明を行った。その内容は,現在β支部は34名の組合員を擁していること,配転命令や脱退工作から支部組合員を守るためには名簿を公表することが最も効果的な方法であること,提出するのは翌18日であるが,その時刻については追って原告P4から連絡があること等であった。この説明の後,名簿提出についての組合員の賛意を確認したところ,出席者から特段の反対意見は出されず,全員が賛成した。
その他,同集会では,β支部の役職の組合員への割り振りや,組合費についても議題として予定されていたが,名簿提出の必要性の説明に大半の時間が割かれた結果,前者については原告P4に一任することとなり,後者については説明だけで終わった。
午後8時30分ころ,記者会見を終えた原告P4,同P1,P18及びP21の4名が集会に合流し,支部組合員らに対し,都庁での会見の模様を報告した。
この報告の後,P22は,原告P4に対し,組合員名簿提出の件が了承されたこと,組合員名簿提出時刻及び役職の割り振りについては原告P4に一任することがそれぞれ決議された旨を伝え,その後散会となった。
(甲35の1~9,甲60,89,90,乙49,原告P4,証人P22)
(4) 本件紛争①(名簿提出)の状況
ア 同月18日は,翌日に予定されていた明治・中央大学模試(明治大学または中央大学を志望する受験生を対象とした模試)の準備等の業務が予定されていたほか,冬期講習の授業が行われていた。
組合員名簿提出の時刻を一任された原告P4は,当初,同日の始業時刻(午前8時30分)前にこれを提出しようと考えていたが,同日は土曜日で,P13総局長は出勤しておらず,P11局長も週休を取る予定であったため,組合員名簿提出を翌週にしようと思うに至った。
ところが,同日午前9時ころ,P11局長が週休の予定にもかかわらず出勤し,校舎の点検等を行っているとの情報が組合員の間に伝えられた。前記(2)ウのとおり,P21がP11局長から「受付の人は組合員だと困る。」と言われていた状況や,16日の集会において原告P3から,配転ないし出向が代々木ゼミナールグループの組合つぶしの常套手段であり,β支部においてその可能性が高いと伝えられたこと,17日の集会においても,名簿提出の必要性について配転命令への対抗手段と説明されたことなどから,組合員の間で,組合つぶしのための配転ないし出向が発令されるのではないかとの噂が広まり,これらのことは原告P4にも伝えられた。さらに,これと前後して,P7法人本部長らがα本部から人事異動の辞令を持ってβ校に来校するかのような噂も流れ,これも原告P4に伝えられた。
そこで,原告P4は,人事異動が出た場合の対応策を相談するために,原告P3に電話で連絡を取ったところ,原告P3は,人事異動が出た場合は,辞令を受け取ったら,異動の理由を尋ね,辞令のコピーをとって集約し,就業時間後に抗議文を提出するよう教示し,さらに,組合員名簿が未だ提出されていないことを聞くと,人事異動の辞令が出る前に,至急組合員名簿をP11局長に提出するように指示した。この指示を受けた原告P4は,直ちに自己の執務席に戻り,同室の原告P1に名簿を提出する旨を伝えた上,組合員名簿を手にしてA館事務室のP11局長席に向かった。B館で執務していた組合員らも順次これを知らされ,原告P4に続く形でA館に向かった。ただし,A館の組合員らに対しては,原告P4が,組合員名簿を提出するとの連絡は伝えられていなかった。
(甲7,9の1,2,甲78,79,81,乙29,65,証人P22,原告P3,同P4各本人,弁論の全趣旨)
イ 原告P4は,午前10時前後ころ,A館1階事務室で執務中であったP11局長に対し,「今まで発表していませんでしたが,これが組合員名簿です。」と言って組合員名簿を提出し,いったん同局長の執務机から戻りかけたが,少し遅れて同事務室内に入った原告P2から,P11局長に名簿受領の署名をもらったか確認する声をかけられたため,再びP11局長の机の前に戻った上,名簿を受領したことを示す書面を交付するよう求めた。そうこうするうち,B館から駆けつけた組合員らが順次同事務室内に入り,P11局長の執務机を取り囲むような体勢となり,A館事務室内で執務していた組合員らも席から立ち上がり,これに加わる形となった。なお,当日出勤したβ校の従業員はA館及びB館を含めて31名であり,その大半が組合員であった。
そして,P19が同局長の机上に録音テープを置くとともに,原告P4が,署名を要求し,他の組合員も口々に署名を要求した。これに対し,P11局長は,「署名についてはちょっと待って下さい。本部に連絡します。」と答えたところ,原告P4は「どうして署名ができないんだ。こっちは生活をかけて闘ってんだ。」と怒鳴り,机を叩き,大声を上げた。
P11局長は,電話で本部に連絡を取り,P7法人本部長の所在を確認した上,状況を説明し,指示を仰いだところ,受領の署名をする必要はなく,名簿は置いていくのであれば置いていってもらえばよい旨の指示を受けたので,組合員らに対し,「署名はできません。名簿を置いていきたいのなら,そうしてください。」と返答した。
これを聞いた組合員らは,P11局長を口々に非難し,激高した原告P4は,「署名する,しない,局長のくせにそんなことも一人で決められないのか。」と大声で怒鳴り,他の組合員らも,P11局長に対し,同局長の日頃の行動を取り上げて非難した。このとき,P22は,「P11局長は,自分の子供との待ち合わせに応接室を使用していましたよね。局長がそんな公私混同をしていて,職員がついてくると思ってるんですか。」と発言した。
同日午前10時30分ころの組合員らの位置は,概ね別紙5のとおりであり,P11局長の執務机を隔てて,同局長のほぼ正面に相対する位置に原告P4とP22が並び,組合員の最前列には,この両名のほかに原告P2,P24,P26,P18が並んでいた。
(甲78,80,乙18,19の1,乙49,65,証人P11,同P36,同P22)。
ウ 上記事態に直面したP11局長は,B館で勤務中のP14統轄局長に電話で事態を報告し,これを受けて同日午前10時30分ころA館事務室に来たP14統轄局長は,集まっていた組合員らに対し,業務に復帰するよう命じ,これに併せてP11局長も同様に命じた。しかし,組合員らは,直ちにはこれに従わず,かえって,興奮していた原告P4が,「業務より大事なことがあるんだ。こっちは生活がかかっているんだ。」と叫び,P11局長の机を叩く行為に出,組合員の一人が原告P4をP11局長の机のそばから引き離すということがあった。
P11局長は,事態収拾のためにはα本部に援助を願い出るしかないと考え,その場をP14統轄局長に任せ,A館事務室の向かいにある応接室からP7法人本部長に電話をし,β校への来校及び援助を求め,同本部長はこれを了承した。
その後,P11局長が応接室に入ったまま席に戻らなかったため,組合員の中には,執務に戻る者もあったが,午前10時40分に第1時限の授業が終了した時点では,まだ大多数の組合員らがA館事務室内に留まっており,全員が解散した状態になったのは,午前10時50分ころであった。
(乙18,19の1,乙49,65,証人P11,同P22)
(5) 本件紛争②(団交要求)の状況
ア 原告P4らは,B館に戻った後,今後の対応について組合本部の指示を仰ぐため,α校にいる原告P3と電話で連絡を取り,昼の休憩時間に再度組合員全員で集合しP11局長に対して団体交渉を要求をするようにとの原告P3からの指示を受けた。これを受けて,原告P4及び同P2は,組合員らに対し,午前11時30分に一斉に昼休みをとってA館に集まるように連絡した。
イ 他方,P11局長から電話で援助を求められたP7法人本部長は,β校において組合員らが多数の集団でP11局長を取り囲み追及しているとの状況から,α校の職員を集め,午前11時ころ,総勢15名で電車でβ校に向かった。
ウ α校にいてこの情報を得た原告P3は,急遽,当日休暇を取っていた中央執行委員のP17書記次長に電話連絡を取り,直ちにβ校に向かうよう指示するとともに,β校の原告P4らに連絡を入れ,P7法人本部長らα校の幹部職員らが多数で午前11時ころ電車でβ校に向かっており,人事異動の発令が行われる可能性があること,これに対応するためP17書記次長をβ校に向かわせたが,到着は早くとも12時30分から午後1時くらいになるので,それまでに人事発令がされるのを阻止するため,P7法人本部長の一行を校舎の中に入れないように,との指示をした。
同時に,原告P3は,出勤していたP15副委員長ら本件組合の中央執行委員に対し,β校の支部組合員らを支援するため午後から休暇を取ってβ 校に向かうよう指示し,着いた後は連絡拠点を確保し,逐次原告P3に連絡を入れるよう,また中央執行委員らはβ校内部には立ち入らないよう,大量配転が行われたときはストライキ権を確立するためβ支部の支部大会を開催させるよう具体的指示を与えた。そして,原告P3及びP15副委員長らは,正午ころ,午後の有給休暇を届け出,原告P3はP15からの連絡を受けるため自宅に戻り,P15副委員長ら中央執行委員数名は直ちにβ校に向かった。
エ β校においては,生徒の昼休みが午前11時50分から午前12時50分までとされており,職員は,この昼休み中の生徒に対応するため,午前11時30分からの1時間と午後1時30分からの1時間とに分かれて休憩を取ることとされていたが,当日,前記アの指示を受け,β支部組合員らは,午前11時30分ころから一斉に休憩を取得した。
オ 一方,P11局長は,組合員が前記(4)ウのとおり解散した後,応接室でP14統轄局長及びP12局長代理と善後策について協議した上,午前11時30分ころ,当日年休のために出勤していなかったP13総局長に電話で事態を報告し,P13総局長から「業務中の組合活動には応ずる必要がないから,毅然とした態度で臨むようにしなさい。私も急いでβに向かうから,気をしっかり持ちなさい。」との指示を受けた。
上記指示を受けた後,P11局長が事務室内の執務机に戻ると,既に組合員の多くがP11局長の執務机の周りを取り囲むようにしてA館事務室内に集まっており,最前列に,P21,P37,P24,原告P2,P26及びP19が並んでいた。そして,原告P2と録音機を持ったP26が,同局長に対し団体交渉を申し入れたが,同局長は,勤務時間内である旨告げてこれを拒否した。P26は,「昼休みを利用して団体交渉を申し入れた,12月18日ただいま11時46分,P11局長の方にP2さんが申し出たところ勤務中であることを理由に拒否されたと,そういうことでいいんじゃないですか。」と大声で発言した。
原告P2は,このP11局長の発言があった後である午前11時50分ころ,A館事務室内の電話で,α校のP15副委員長に連絡を取ろうとしたところ,P11局長に,「それは私用電話でしょう。私用電話はやめて下さい。」と注意され,事務室外の公衆電話を使用した。
(以上(5)につき,甲57,58,乙18,21の1,証人P11,同P22),
(6) 本件紛争③(A館入口前の出来事)の状況
ア P7法人本部長ら多数の職員がβ校に向かっているとの情報を得ていた組合員らは,上記(5)オの団体交渉申し入れの後,あるいはその間,A館内事務室や入口付近のホール,入口前などに集まっており,原告P4やP18らは,A館入口前からJRβ駅南口方向の路上等で,P7法人本部長の到着を待ちかまえていた。
イ β校A館入口には3つの扉があり,このうち,歩道側からA館入口に向かって右側の扉は,その内側に代々木ライブラリーの売店(私立大学募集要項,書籍,文具等を販売している。)が置かれているため閉鎖され,A館の出入りには,通常,歩道側から向かって中央の扉と左側の扉(以下「中央扉」,「左側扉」という。)が使用されていた。
ウ 同日12時過ぎころ,P7法人本部長らの一行がJRβ駅に到着してβ校に向かった。これを発見したP18ら組合員数名は,路上で口々に来校理由を問い,P7法人本部長らを引き留めようとしたが,P7法人本部長らはこれに応えず,A館に入口前に到着した。また,これと前後して,A館1階事務室や入口ホール付近にいた組合員らは,原告P2の「さあ来たぞ,入り口で止めろ。」という声に従って,P7法人本部長らの入館を阻止するために,A館入口扉付近に移動し,玄関扉の内側または外側に待機した。
エ A館入口前では,P22を含む組合員らが,同本部長らが建物内に入ることを阻止するため中央扉前に並んで立ちはだかったことから,両者が相互に押し合う状態となり,その後,組合員らとP7法人本部長らが中央扉付近に対峙してにらみ合う形となった。その位置関係は,概ね別紙6のとおりである。組合員であるP26は,この間,P7法人本部長の左側で,テープレコーダーによりこの様子を録音していた。
オ この間,午前11時50分に授業が終了した生徒が昼休で教室から出てきたため,A館ホール内は多数の生徒らで混雑する状態となった。P11局長は,ホール内で左側扉を押さえている女子組合員P38に対し,「ホールがあふれて身動きができないから,扉を開けなさい。」と命じたが,同組合員は,かえって左側扉を施錠し,P11局長が施錠を解こうとして錠に手を近づけると,「触らないで下さい,セクハラで訴えますよ。」と叫んだ。
このころ,原告P1は,他の組合員に対し警察を呼ぶよう指示をした。
エ 午前12時20分ころ,組合員らとP7法人本部長らがA館入口前でにらみ合う状態でいるところへ警察官が来たため,P11局長は,館内から出て警察官と話をした。警察官は,P11局長がβ校の責任者であることを確認し,P11局長や組合員から簡単に事情を聞いた上,「これはお宅の内部の問題ですから,外でやられては困る。中でやってくれ。」と言って,午前12時45分ころに引き上げた。組合員らも,そのころまでに五月雨式に解散した。
その後,P7法人本部長らとβ校の幹部職員は,A館応接室等において,昼食をとりながら善後策を検討し始めた。また,午後1時過ぎ以降,事態の連絡を受けたP6統括総局長,P13総局長,P8総務本部長,P9人事本部長らが順次β校に到着した。
オ β校においては,職員の昼の休憩時間は食事時間表(A館・B館別に,職員の名前及び日付を記載した上,それぞれの日における昼の休憩時間の開始時刻を記入する表)に記載する運用がされていた(ただし,職員全員について厳密に履践されていたわけではない。)。
P18は,組合員がA館入口前から散開した後,組合員に対し,休憩時間の開始が午前11時45分より前となっている者について,これを同時刻に書き直すよう指示し,これに従って,食事時間表に休憩時間の開始時刻が午前11時30分と記載されていた5名分について,休憩開始時間が午前11時45分に書き替えられた。なお,被告らの就業規則上昼の休憩時間は60分とされている。
カ A館では午前12時50分から午後の授業が開始したが,上記のA館前での出来事が原因で生徒が授業に遅れるなどの事態は生じなかった。
((6)につき,(甲63の2,68,71,78,80,乙18,19の3,乙41,49,証人P11,同P22,同P36)
(7) 本件紛争④ 応接室周辺
ア 被告ら側幹部職員がA館応接室で善後策を検討していた午後2時ころ,P11局長は,P39教務課長代理から,組合本部の者とβ支部の組合員がA館向かい側の歩道で立ち話をしているとの報告を受けた。そこでA館入口から外に出たP11局長,P13総局長及びP10理事長室付は,同館前の車道を隔てた向かい側の歩道上で,本部組合執行委員のP34及びP40が原告P4と立ち話をしているところを現認したため,P10室長室付が同人らに対し「あなた方は何しに来たんだ。」と声をかけたところ,3名は逃げるようにして小走りでその場を去った。P13総局長らは,その後を追い,信号機のある横断歩道付近で原告P4らに追いついた。
P13総局長は,そこで横断歩道を隔て反対側の歩道にいた原告P4に対し,「P4君,何をしているんだ,こっちへ来なさい。」と声をかけて自分側の歩道に呼び寄せ,原告P4とP11局長の双方に,同原告が業務中であることを確認した上,原告P4に対し,「業務中に何をしている。上司の許可をもらっているのか。」と尋ねた。これに対し,原告P4が「許可はもらっていません。」と答えたので,P13総局長は,原告P4に対し,ついてくるよう命じてA館に戻った。原告P4は,P13総局長の後に従って,P10理事長室付らとA館に向かった。
(乙30,証人P11)
イ 原告P4は,同日午後2時10分ころ,P13総局長らとA館1階応接室に入室した。応接室内において,原告P4はソファーに座り,被告側幹部職員らは,原告P4に相対してほぼ一列に並んで着席し,事情聴取を開始した。
P13総局長は,原告P4が現在業務時間中であること及び上司の許可を得ていないことを確認した上で,「上司の許可ももらわないで,一体何をしていたんだ。」と質問した。これに対し原告P4は「業務よりも大切なことをしてます。」と答えた。さらにP7法人本部長が「業務よりも大切なことというのは一体なんですか。」と質問したが,原告P4は返答しなかった。さらにP7法人本部長が「なぜ,業務放棄までして,その大切なことをしなければならないんですか。」と質問したが,原告P4は返答しなかった。P7法人本部長及びP13総局長は,さらに質問を続けたが,原告P4は,その後一切返答をせず,沈黙していた。
(以上,乙15,30,証人P11)
ウ 他方,原告P4がP13総局長,P10理事長室付に伴われて応接室に入り,そのまま出て来ないことを現認したA館の組合員が,その状況を他の組合員に伝えたことにより,組合員らの間に原告P4が被告ら側幹部職員により応接室内に監禁されたとの形で情報が流れ,これを聞いた組合員らがA館応接室前に集まった。B館からは,午後2時20分ころ原告P1とP18がA館応接室前に先着した。
P18は,「P4さん。」と叫んで応接室内に入り,3人掛けのソファーの中央に座っていた原告P4の側に駆け寄った後,その肘掛けに手をかけて自ら前転するような形でソファーの脇に倒れ込み,直後起き上がって「殴ったな。」と叫ぶと,直ちに応接室から出た。そして,応接室入口前に集まった組合員らに対し,「見たな。」「見たな。」と声をかけ,組合員らもこれに呼応する形で,「見たぞ。」「見たぞ。」と声を上げた。さらにP18は,「殴ったのはP10だ。」などと言ったので,原告P2は,組合員らに「警察に電話しろ。」と指示をした。
このやりとりの最中,原告P4も応接室前まで自分で出て様子を見ていたが,P13総局長が「応接室に戻りなさい。」と命じたところ,これに従って応接室に戻った。
P13総局長は,応接室外で,集まって騒然とする組合員らに対し,「業務に就きなさい。」と3回繰り返して命じたところ,原告P1は「それは理事長の命令と受け取っていいですか。」と聞いたため,P13総局長が「それはそうですよ。私はここの責任者です。責任者として言っているんです。」と返答した。しかし,組合員らは「理事長のお言葉です。」などと揶揄するように言い,P13総局長の指示に従わなかった。
(証人P11。なお,上記P18の転倒に関し,P10理事長室付がP18の胸を突き飛ばしたことが原因であるかのような証拠(甲59,64,65,67,74等)も存するが,状況が不自然であり,内容も互いに齟齬する部分があるなど信用性に疑問があり,結局,P11証言に照らし信用できないと考える。)
エ 午後2時30分ころ,連絡を受けた被告高宮学園代表者のP5理事長がβ校に来校し,A館応接室に入室して原告P4と話を始めたが,その直後に,通報を受けた警察官が再度来校した。
応対したP5理事長とP11局長は,警察官を校長室内に案内しようとしたが,組合員らが詰め寄ってきたため校長室に入ることはできなかった。
警察官は,組合員らとも種々の問答を交わしたが,組合員の一人が暴行罪について尋ねたのに対し,「もし,そういった暴行行為があったんであれば,被害届を出してくれ。」と答えた上,「いちいち賃金問題で呼ばれては困ります。」と言って,来校10分ほどでβ校から引き上げた。
(甲72,乙69,証人P11)
オ 警察官が帰った後も,組合員らは解散せず,P5理事長が「B館の者はB館に戻りなさい。」,「業務に就きなさい。」と再三再四命じたにもかかわらず,これに従わなかった。
本件組合の中央執行委員4名(P15副委員長,P17書記次長,P35及びP34)は,この間β駅近くに待機してβ校と原告P3との間で連絡を取っていたが,β校組合員から原告P4が監禁され,P18に対し暴行が行われて警察官が校内に入ったとの情報を受け,原告P3の承認を得た上で,午後2時45分ころ,A館内に入った。これを見たP5理事長は,同人らに対し,「ここから出て行きなさい。」と命じたが,この4人は従わず,かえって,P17書記次長が「理事長は団交に応じればいいんだ。」と言い,組合員らもこれに呼応し,「P4さんを返せ,理事長は団交に応じろ。」などとシュプレヒコールをあげた。
中央執行委員4名は,午後2時50分ころA館を出て行き,P5理事長は,A館内に残っていた支部組合員らに対し,再三業務就くよう命じたが,原告P2,同P1を含めた組合員らは,原告P4の身を案じて容易には従わず,結局,解散したのは午後3時ころであった。解散後,A館勤務の者は各自の業務に戻ったが,B館勤務の者は,A館前で立ち話をするなどし,直ちには業務に復帰しなかった。
(甲57,58,乙19の4,5,証人P11,同P22)
カ 午後3時10分ころから,原告P4に対する事情聴取が応接室で再開されたが,このとき,原告P4は,「自分がふがいないので,みんなに迷惑をかけてしまった。」,「P11局長には個人的には恨みはなかった。」などと言ったものの,ほかにはほとんど何も語らなかったため,事情聴取は同3時50分ころ終了した。
(証人P11,弁論の全趣旨)
(8) 本件紛争直後のβ校及び組合員らの状況
ア β校では翌19日に模擬試験が予定されていたところ,試験会場3か所中2か所の会場責任者がβ支部の組合員であり,ストライキの可能性も否定できず,円滑な実施について不安があったことから,P11局長は,本部役員と協議の上,翌日はP6統括総局長及び本部職員らの応援を受け,また,出勤を予定していなかったβ校のP12局長代理が出勤の上,上記試験会場責任者とされていた組合員よりも職位が上の者を責任者とするなどの態勢を取ることなどを打ち合わせた。
(乙69,証人P11)
イ 18日午後5時20分ころ,原告P3及び組合本部側役員4名がβ校A館事務室を訪れ,校長室の扉を開けて「理事長,団交に応じろ。」と叫んだ。これに対し,P6統括総局長が「今会議中だ。」と言って制止したが,原告P3はこれを聞き入れず,「団交に応じろ。」と繰り返し叫んだ。
被告側のP8総務本部長は原告P3の後ろにいたP15副委員長に対し「団交については12月22日以降,都合のいい日に設定することになってましたよね。」と言ったが,原告P3はこれを聞き入れず,かえって「理事長は団交に応じろ。」とシュプレヒコールをあげたものの,P15副委員長の耳打ちにより,これを止めた。組合本部側役員らは,同日午後5時30分ころ,事務室から退室した。
(証人P11)
ウ 18日夜,本件組合は,16日の集会と同じ会議室において集会を開いた。出席者は,本部側9名(原告P3を含む。),β支部組合員25名であった。
この集会では,まず,P22が進行役となり,原告P3に対する報告を兼ねて,当日に起きた出来事を時間を追ってまとめる作業を行った。しかし,不明な部分が多く,作業には時間を要した。
その後,原告P3は,今日起こったことは,本部側の指示でやったということではなく,β支部が独自にやったこととして欲しい旨の発言をした。さらに,原告P3は,勤務時間中に組合員名簿を提出したことはまずかったが,P11局長の対応が良くないために事件になったから責任はP11局長にあるとすべき旨及び処分を受ける可能性があるので始末書や顛末書は絶対に被告側に提出しないようにすべき旨等を述べた(後に本件組合本部側は,翌平成6年1月1日付け文書で,β支部の組合員らに対し,同様の指令を発した。)。
(甲78,乙51,証人P22)
(9) 本件紛争によるβ校業務への影響の有無及びその程度
ア 本件紛争当日は,大学入試直前の冬期講習が実施されており,β校A館には,同講習を受講する生徒が登校していた。そして,生徒の昼休み時間中,前記(6)のとおり,β支部組合員らによりA館入口の封鎖行為等が行われたため,β校における労使の異様な対立状況は多数の生徒が目の当たりにするところとなった。また,同日,生徒及びその父兄とβ校職員の面談による進学指導も予定されていたため,折から来校していた一部父兄らの目撃するところともなった(また,現場は,β駅近くに位置し,側には大型スーパーマーケットもあり(乙10),当日が土曜日であったことから,一定数の一般通行人の注目するところとなったことも容易に推認される。)。
イ 受付課(受付業務)
受付課は,生徒からの各種受講申し込みを受け付ける業務を行う部署であるが,同課で本件紛争に参加したのはP21のみであり,他の課員3名は通常どおり受付業務を行っていた(証人P11,同P6)。
ウ 教務課(進学指導)
教務課(進学指導)では,前記の進学指導が予定されており,本件紛争に参加しなかった課員2名が当日の業務を行ったが,多くの課員が業務を放棄したため,職員による進学指導を受けられない生徒も存在した。
エ 中学課
当日は,β校において約1か月前に実施された渋谷教育学園γ高校の推薦入試の模擬試験の答案を返却する予定の日であったが,本件紛争により職員らが業務を放棄したため,上記答案返却について支障が生じた。
オ その他
β校学務課総務は,諸届の処理業務を行う部署であるが,そのような諸届を被告側本部に送付する期限は12月21日とされており,本件紛争のあった18日中に処理しなければならないものではなかった。
本件紛争の翌日に予定されていた明治大学及び中央大学模試は,本件紛争の前日である17日までに受験会場の教室割りは決まっており,受験する生徒も大部分把握できていた状況であったこと,前記のとおり18日のうちに責任者の変更も行われたことから,模試は予定どおり実施された。なお,当初B館の責任者に予定されていた原告P1は,模試当日約1時間遅刻した。
そのほか,β校の業務において,本件紛争のあった同月18日を締め切りとする業務はなかった。
((9)につき,甲9の1,2,乙63,66,証人P11,同P6,弁論の全趣旨。なお,被告らは,上記の認定した他にもβ校の業務について支障が生じた旨主張するところ,多数組合員において一定時間の職場離脱があったことは事実であるから,それなりの業務の遅れが生じたことは否めないものの,β 校の業務において,本件紛争当日を締め切りとする業務は存在しなかったことからすれば,その後の業務の中で解消される程度のもので,業務に具体的明白な支障があったことを認めるに足りる的確な証拠はない。)
(10) 本件紛争後の組合内部の状況
ア 本件紛争の翌日である12月19日夜,本件組合は再度集会を開き,原告P3を含む本部側組合員5名,β支部組合員約20名と,札幌校の職員で札幌校の組合員であるP29書記長が参加した。席上,P29書記長は,P13総局長への対応の仕方等について助言を行ったほか,本件組合に労働組合東京ユニオンへの加入を勧めたが,原告P3は,方針の違いを理由にその意思がないことを伝えた(証人P22)。しかし,結局,同月23日付けで本件組合が東京ユニオン代々木ゼミナール支部と組織統合し,東京ユニオンに加盟したのは前記(1)エのとおりである。
イ その後,β支部においては,P12局長代理が中心となって,各組合員に対し,本件紛争についての事情聴取を行うとともに,本件組合からの脱退を働きかけた。一例として,P12局長代理は,同年12月31日,P26に対し,「早く結論を出しなさい。もうみんな抜けたぞ。P22課長も抜けた。P21も考えている。抜けるはずだ。」などと述べてP26自身に本件組合を脱退するよう,また同人の部下に対して脱退を勧めるよう説得し,また,P19ら3名の組合員に対しても,「非常にきつい言い方なんですけども,ズバリ抜けなさいと。」などと述べて,本件組合からの脱退を勧奨した。
このような働きかけのためもあって,同年12月末から本件解雇がされた平成6年5月までの間に,本件紛争当時34名いたβ支部組合員らのうち半数を超える19名が本件組合を脱退した。
(甲11,33,34)
(11) 本件解雇に至る被告側の調査経緯等
ア P5理事長及び被告側の管理職らは,平成5年12月21日,α校(本部)において本件紛争の経過報告会を開催したが,事案が複雑であり,多数の者が関与しているために,事実の詳細がはっきりしなかった。そこで,P6統括総局長が事実調査の方法と調査担当責任者の人選を一任され,同統括総局長は,事件の発生経過と組合員らの事件関与に関してはP13総局長に,α校からβ校へ赴いた職員の状況報告とりまとめをP8本部長に,それぞれ分担させて調査を開始した。(乙21)
イ P8本部長からの調査結果の報告書は平成5年12月末に,P13総局長の報告書は平成6年1月上旬にP6統括総局長に届けられた。P6統括総局長は,両報告書の内容から,本件紛争は就業規則違反であると考え,被告学園の代表者であるP5理事長及び被告入試センターのP41社長に対し,被告らの就業規則72条において懲戒処分を行う際公正を期すため設置するとされている賞罰委員会の設置を要請した。(乙1,2,21)
ウ 賞罰委員会は,7名の委員により,平成6年1月から4月まで合計4回にわたる審議を行って,本件紛争の経緯を調査し,関係者に対する処分を検討した。
本件解雇及び同時に行われた出勤停止処分の対象となった8名の選定は,P8本部長及びP13総局長が行い,賞罰委員会は上記8名についてのみ懲戒処分を検討し,他の組合員については懲戒処分の是非等につい全く検討されず,検討資料も作成されなかった。また,懲戒処分の是非を検討するに際しては,本件組合またはβ支部における役職は重視したが,β校における職制上の地位については考慮されなかった。
なお,出勤停止処分を受けたP19について,処分理由書には「就業規則違反行為に率先参加し,指導的役割を果たした」との記載が存在するが,P6統括総局長は,東京都地方労働委員会での審問において,P19は,労働組合の役員であることから処分しており,役員でなければ処分の対象にならなかった旨証言した。
(乙21,25,26の8,69,70,証人P6)
(12) その他の状況
ア 本件紛争に参加したが,本件紛争発生後に本件組合を脱退した者は,いずれも懲戒処分を受けなかった。これらの者のうち,P22(平成6年1月26日脱退)は,平成11年3月4日,本件紛争当時の職名である課長から局長代理に昇格し,P24(平成6年1月4日脱退)は,平成6年6月6日,課長代理から課長に昇格し,P42(平成5年12月20日脱退)は,平成6年6月6日,チーフから課長代理に昇格し,P25(平成6年5月26日脱退)は,平成6年6月6日,課員からチーフへ昇格した。
(甲100,原告P4)
イ 本件紛争後組合を脱退しなかったP21は,平成6年1月25日付けでα校進学情報部への配転を命ぜられた。P21は,配転前のβ校ではチーフであったのに対し,配転後はチーフの肩書きを外されたため,チーフ手当(月額3000円)を受給できないこととなった。
また,β支部の組合員として止まった者で昇進した者は,本件紛争から平成12年5月までの間一人もいなかった。
(甲72,100)
ウ 平成6年1月25日,被告側は,本件紛争当日,β校に出向くために半日の有給休暇を取った原告P3ら本件組合本部側の役員らに対し,有給休暇の承認を取り消した上半日の欠勤として扱い,同年2月の月間皆勤手当及び同年度の年間皆勤手当等を支給しないという処理をした。ただし,この処理は後に当庁及び東京高等裁判所において違法であると判断された。(甲13の1ないし4,原告P4)
エ 本件紛争の翌年度である平成6年4月以降,代々木ゼミナールにおいて生徒に対する授業を担当していた組合員は,2名を除いて授業への出講から排除された。なお,代々木ゼミナールにおいては,授業へ出講すると出講手当が支給されることとなっている。(甲14,原告P4)
2 争点(1)に対する判断
(1) 解雇理由の存否について
ア 一般に,労働者は,労働契約の本旨に従って,その労務を提供するためにその労働時間を用い,その労務にのみ従事しなければならない。したがって,労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は,原則として,正当なものということはできない(最高裁判所平成元年12月11日第二小法廷判決・労働判例552号10ページ)。
これを本件についてみると,本件紛争におけるβ支部組合員らの行為のうち,P11局長への組合員名簿提出行為の全部,A館応接室周辺でシュプレヒコールをあげるなどした行為の全部は,いずれも労働時間内になわれたものであり,β校A館前におけるP7法人本部長らに対する入館阻止行為は,その一部が労働時間内になされたもの(ただし組合員全員についてとまでは断定しがたい。)である。
また,β校A館は,被告らにおいて所有または占有して管理する物的施設であるから,これを管理する立場にある被告らの幹部職員であるP7法人本部長がこれに入館することを妨げるが如き行為は,特段の事情がない限り,被告らの管理利用権を侵すものとして,違法なものというほかはない。そして,本件において,A館前において行われた組合員らによる入館阻止の行為を正当化しうるような事情を見いだすことはできない(なお,原告らは,組合員らの行動が「阻止」にはあたらず,単に来校の理由を問い団体交渉を申し入れただけであるように主張し,これに沿う証拠(原告らの陳述書,労働委員会及び本件における供述等)もあるが,組合員らが並んで扉前に立ちはだかった状況や女子職員が内側から左扉を施錠した行動,そしてP7法人本部長が組合員らの質問に答えない態度を取っているにもかかわらず,警察官が来校するまで館内に入れずにいた状況に照らし,到底採用しがたいものである。)。
そして,上記各行為は,いずれも支部組合員が多数集結し,その数の威力をたのみつつ行われたものであり,参加した組合員各自が,これを意識してそれぞれ行動に出たものであることは明らかである(なお,原告P4が組合員名簿を提出にA館に赴いた時点では,同原告がその後に生じた事態までを予測していたか否か疑問もあるが,少なくとも,P11局長に署名を要求したとき以降については,この点は明らかというべきである。)。
これら組合員らの行為は,被告らの就業規則67条2号,3号あるいは13号に該当するというべきである。
イ また,A館前における入館阻止行動は,β校に登校していた多数の生徒や来校していた父兄の面前で,しかも白昼人通りのある入り口前で行われ,あまつさえ警察官の出動を要請するという事態をも招いたという点では,全国に多数の学校(予備校)を設置する学校法人である被告高宮学園及び同被告と業務上密接な関連を有する法人である被告入試センターの信用を少なからず損なう結果となったであろうことは容易に推認することができる(ちなみに,証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,当時千葉県内においては,被告高宮学園を含む大手予備校3者(代々木ゼミナール,駿台予備校及び河合塾)が予備校を各2校開設しており,この3者間の競争が激しい県と目されていた上,β校から至近距離のところには研数学館という老舗の予備校も存在していたことが認められる。)。
この観点からすると,組合員らの入館阻止行動は,被告らの就業規則68条10号又は13号にあたる行為とも評価できる。
ウ そして,原告P1及び原告P2は上記各行為のいずれについても率先して参加し,また,原告P4は,事態の発端となった本人として応接室前での行動(本件紛争④)には直接加わっていないものの,他の行為には率先参加していることは先に認定したとおりであり,同原告らについて解雇事由があることは明白である。
エ 原告P3については,自らは前記各行動に直接参加はしていない。しかしながら,本件紛争は,代々木ゼミナールグループと本件組合を含む労働組合との深刻な対立状態の中で発生したものであって,原告P4らが組合活動に不慣れであること,β支部の組織を防衛することの重要性からしても,原告P3は,本件組合の中央執行委員長としてβ支部の組織を防衛することを強く意欲し,原告P4らに対し具体的な行動を指示したものと解するのが合理的であり,原告P4らが原告P3に無断で勝手な行動をとったとは考えにくいところである。そして,原告P3は現に以下のとおり,具体的な指示,指導及び援助行為を行った。すなわち,①16日の集会において,β支部の組合員らに対し,被告らが同支部の組合つぶしのためP21ら組合員に対する配転・出向命令を出すことが必至であるかのように説くなどして組合員に不安感を募らせ,これに対抗するためには,組合員が団結して数をたのみに同一行動を取ることが不可欠であるとし,組合員が取るべき行動を具体的に指示し,それが被告ら側による懲戒を招く結果となっても責任は原告P3が取るかのように請け合う発言をして,組合員らに逸脱行動を唆すような態度を取り,②18日の午前10時前ころ,原告P4が人事異動が発令された場合の対応について電話で指示を仰いだ際,勤務時間中であることは当然承知しつつ,原告P4に対し直ちに組合員名簿を提出するよう指示し,③午前11時ころ現実にP7法人本部長がα校職員多数を従えβ校に向かったことを知るや,中央執行委員らが到着するまで同本部長らを入館させないよう指示し,④その一方で自らは紛争の現場と離れた自宅に待機し,P15副委員長ら中央執行委員を介してβ支部へ指示を出す態勢を取った事実が認められるのである。これらの事実に,上記指示の際に原告P3が原告P4らの行動について,何ら規制や批判をした形跡がないのはもちろん,かえって,原告P3が本件紛争末期には自らβ校内に立ち入り即時団交に応じるよう執拗に要求し,シュプレヒコールを挙げたりしていること,当日夜の本件組合の集会において,当日の出来事を確認した上で,それを本部側の指示ではなく,β支部が独自に行ったことにするよう依頼したことも考慮すると,原告P4に名簿提出を指示した時点で,β支部の組合員らがその数を誇示するため勤務時間中であるにもかかわらず職場から離れて名簿提出行動に参加することを念頭に置いた上でこれを良しとし,また,入館阻止行動は当然正当な行為から逸脱するものとなることを承知の上であえてその指示を出したものと容易に推認することができる(原告P3の陳述及び供述など,原告P3がβ支部に対する指示を行ったことを否定するような証拠が存するが,休暇中のP17書記次長を始め本件組合中央執行委員をβ校に向かうよう指示したのが原告P3であること,原告P4,同P2らβ支部の組合執行役員らが頻繁に原告P3らと連絡を取りその指示を仰いでいた事実に照らし,採用しがたい。)。
すなわち,原告P3は,本件紛争として現れた支部組合員らによる集団的行動の中核となる部分について,直接,あるいは中央執行委員さらには原告P4ら支部組合役員を介して,これを実行せしめたものであり,被告らの就業規則68条にいう「共謀しまたは教唆もしくは幇助した」と評価するに十分である。したがって,原告P3についても,解雇事由の存在は優にこれを認めることができる。
(2) 解雇権濫用等の主張について
ア 本件紛争を全体として見ると,原告P3の指示により,β支部組合員らが数をたのんで就業規則に違反し職場秩序を著しく乱して,被告らの信用・名誉に少なからぬ影響を及ぼしたというものであり,その行為態様・結果の重大性は否定できない。しかしながら,先に述べたとおり,その中核にあるのは,原告P3の指示・命令であり,これまで認定したところによると,支部役員も含め,組合活動の知識も経験も乏しい組合員らが,原告P3ら中央執行委員によりいたずらに不安をかき立てられた上,紛争の当日には誤った情報に踊らされるような形で,一種異常な集団心理に陥った挙げ句,前記のような行動に出た側面も否定できない。原告P3の指示・命令とは直接関係しない形で発生した応接室前における組合員らの行動についてこれは顕著である。その意味では,そのような状況下でなされた,個々の言動の軽重のみを過大に重視して各組合員の責任の重さを問うことは必ずしも相当ではない。
また,本件紛争の発端となった組合員名簿提出において,β校の実務責任者であるP11局長が組合員に対して取った対応も必ずしも適切であったとは言い切れない面があり,これがいたずらに組合員らの異常心理を増幅させたことは否定できず,本件解雇が解雇権の濫用にあたるか否かを判断する上で,この点も考慮すべきである。
イ 上記のような観点から,本件解雇について,それが解雇権を濫用するものか否かについて検討すると,原告P1及び原告P2に関しては,個々の行動場面においては,同人らが組合員らの行動を指揮するかのような行動もみられるものの,これらはすべて独自の判断あるいは組合支部としての判断というよりは,原告P3から発せられた指示・命令に従い,言われるままこれを実行に移したものと考えるのが妥当である。そして,前記のとおり,①16日の集会で積極的に発言し,組合員名簿提出を決定した17日の集会では司会をして,本件組合本部側の指令の周知徹底とβ支部の意思統一に重要な役割を果たし,翌18日の本件紛争においても率先して参加したP22に対しては,何ら懲戒処分がなされておらず,行動面において本質的に同人とさほどの差異があるとはみられない上記原告両名に対する処遇との間に著しい差異が存在すること,②被告側が原告らに対する懲戒処分を検討するに際し,P22やP26ら,本件紛争に率先参加したがその後間もなく本件組合を脱退した者は,当初から賞罰委員会において処分対象とされた形跡がないこと,③本件紛争後,被告らの幹部職員から不当労働行為とも目されるべき組合脱退勧奨が行われていることをも総合すると,上記両原告に対する本件解雇は,他の紛争参加組合員らに対する処遇と著しく権衡を欠くものであり,被告ら側が本件組合の存在を嫌悪し組合員と組合離脱者とを差別する意思の現れとみることができる。
したがって,本件紛争において,本件組合本部側の指令伝達及び紛争への率先参加という点でP22とおおむね同程度の行為態様であったと評価できる原告P1及び同P2については,被告側の組合嫌悪の念が存しなければ,P22と同様,あるいはせいぜい出勤停止などより軽い処分に止まったということができるから,同原告らに対する解雇は解雇権の濫用としてその効力がないというべきである。
ウ これに対し,原告P3は,前記(1)のとおり,組合経験の乏しいβ支部組合員らを,いわば意のままに操り,違法な本件紛争の中核となる部分を惹起させた最大の責任者というべきであって,P22に対する懲戒処分の有無に関わりなく,また,被告高宮学園の主張する家族手当不正受給問題を別としても,同原告に対する解雇は相当であって,これを解雇権の濫用あるいは不当労働行為と評価することはできない。
エ また,原告P4については,原告P3の指示に基づいて行動したという点では原告P1,同P2と差異はない。しかし,原告P3の指示によるとはいいながら,名簿提出の方法,時期を支部組合員から一任されたβ支部の支部長として,勤務時間中にこれを提出するという軽率な挙に出,本件紛争の発端を作った上,その後支部長として何ら事態の収拾に意を払わず,また,応接室前における紛争に関しては,勤務時間中に職場を離脱して騒ぎのきっかけを作り,組合員らが原告P4を救出しようとして集団職場離脱という違法な行為に出ていることを目の当たりにしながら,組合員らに対し,何ら指示命令を下すことなくいわば傍観し,紛争を継続させたのであり,β支部長として支部組合員を統率する立場にある者としては余りに無責任な行動であったといわなければならない。
上記観点よりすると,原告P4に対する解雇はやむを得ないものであり,これを権利の濫用あるいは不当労働行為とするのはあたらない。
(3) 以上より,原告P3及び同P4の本件紛争に関する行為は,いずれも労働契約上の義務に著しく反するものであり,懲戒解雇理由を定めた就業規則67条2号(所属長の指示命令に従わず職場の秩序を乱したとき),3号前段(業務命令に従わないとき)及び10号(学園の名誉を著しく毀損したとき)又は13号に該当するから,被告高宮学園の就業規則21条4号(懲戒解雇に処せられたとき)所定の解雇理由が存在し,かつ,被告高宮学園のした解雇が解雇権を濫用するものとはいえないから,同原告らに対する解雇は有効である。しかし,原告P1及び原告P2に対する解雇は,被告らが解雇権を濫用するものというべきであって,その効力はない。
3 争点(2)に対する判断
本件解雇のうち,原告P2に対する解雇が無効であることは前記2のとおりであるところ,労務提供の受領拒否による同原告の労務提供の履行不能は債権者である被告入試センターの責めに帰すべき事由に基づくものであって,同原告は反対給付としての賃金請求権を失わないというべきである(最高裁判所昭和59年3月29日第一小法廷判決・労働判例427号17ページ)。
ところで,前提事実(8)によれば,原告P2は本件解雇後の平成8年10月11日付けで北海道函館市に住所を移転したことが認められるところ,被告入試センターは,これにより同原告がβ校へ通勤することが不可能であるとして,同原告に就労の意思も能力も有しないと主張する。しかし,被告が解雇を主張して労務提供の受領を拒否する意思を強固に示している場合,労働者が通勤不可能な遠隔地に住所を移転したとの一事のみをもって,就労の意思も能力もないとはいえないから,被告入試センターの主張は失当である。
4 将来の賃金請求等について
原告P2及び同P1は,本訴において将来の賃金(賞与を含む。)をも併せ請求するところ,雇用契約上の地位の確認と同時に将来の賃金を請求する場合には,地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの労務の提供を拒否し,その賃金の支払を拒絶することが予想されるなど特段の事情が認められない限り,賃金請求中判決確定後に係る部分については,あらかじめ請求する必要がないと解すべきである。本件においては,上記特段の事情を認めることができないから,原告らの賃金請求中,本判決確定後の賃金の支払を求める部分は不適法であるというべきである。
なお,同原告らが受けるべき一時金の支払日が別紙4-3一時金支給明細一覧表1記載の各年月日であることは争いがないから,遅延損害金の起算日はその翌日となる。
5 結論
以上の次第であって,原告P1,同P2の請求は主文第1ないし第6項に記載の限度で理由があるから認容し,その余は却下又は棄却し,また,原告P3及び原告P4の各請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
裁判長裁判官 三代川三千代
裁判官 多見谷寿郎
裁判官関述之は,転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官 三代川三千代
別紙1-1 遅滞損害金起算日一覧表
原告名 P1
金額(円) 起算日
12万7350 94年5月25日
33万8600 94年6月以降95年5月に至るまで毎月25日
34万2400 95年6月以降96年5月に至るまで毎月25日
34万4900 96年6月以降97年5月に至るまで毎月25日
34万7400 97年6月以降98年5月に至るまで毎月25日
35万0000 98年6月以降01年9月に至るまで毎月25日
66万1180 94年6月25日
97万7800 94年12月16日
60万8600 95年7月1日
86万3780 95年12月16日
57万6780 96年6月29日
87万0260 96年12月14日
58万1820 97年6月28日
87万6740 97年12月13日
58万6860 98年6月27日
82万5410 98年12月16日
52万7250 99年7月1日
78万9440 99年12月16日
52万7250 00年7月1日
78万9440 00年12月16日
52万4250 01年6月26日
別紙1-2 遅滞損害金起算日一覧表
原告名 P2
金額(円) 起算日
11万7095 94年5月25日
30万9300 94年6月以降95年5月に至るまで毎月25日
31万3300 95年6月以降96年5月に至るまで毎月25日
31万6000 96年6月以降97年5月に至るまで毎月25日
31万8700 97年6月以降98年5月に至るまで毎月25日
32万1400 98年6月以降01年9月に至るまで毎月25日
68万7250 94年6月25日
94万4600 94年12月16日
63万2600 95年7月1日
86万0180 95年12月16日
59万9460 96年6月29日
86万7020 96年12月14日
60万4780 97年6月28日
87万3860 97年12月13日
61万0100 98年6月27日
82万0400 98年12月16日
54万8000 99年7月1日
78万3600 99年12月16日
54万8000 00年7月1日
78万3600 00年12月16日
54万5000 01年6月26日

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