H14. 9.20 神戸地裁 平成12(ワ)1213等 大倉建設懲戒解雇事件
H14. 9.20 神戸地裁 平成12(ワ)1213等 大倉建設懲戒解雇事件
判決 平成14年9月20日 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第1213号解雇無効確認等請求事件(以下,「甲事件」という。),平成12年(ワ)第2201号損害賠償請求事件(以下,「乙事件」という。)
主文
1 被告は,原告に対し,金93万6696円を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 原告は,被告に対し,金272万4322円及びこれに対する平成12年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,甲事件,乙事件を通じ,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
6 この判決の第1,3項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 原告の甲事件請求
(1) 原告が被告に対し労働契約上の権利を有することを確認する。
(2) 被告は,原告に対し,金43万6000円及び平成12年6月28日以降本判決確定に至るまで毎月28日限り金43万6000円を支払え。
2 被告の乙事件請求
原告は,被告に対し,金308万3031円及びこれに対する平成12年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告に勤務していた原告が,懲戒解雇されたことを争って,被告に対し,労働契約上の権利を有することの確認と賃金の支払を求めた(甲事件請求)のに対し,被告が,原告は被告に入金すべき金員を横領したものであり,正当な懲戒解雇であるとして,これを争うと共に,不法行為に基づく損害賠償として,その横領被害金の支払を求めた(乙事件請求)事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告は,昭和58年4月,被告に雇用された者であり,主として被告経営のホテル部門で勤務し,平成8年7月には,被告経営の本件ホテルの支配人に任命され,以後その業務に従事してきた。
イ 被告は,不動産の管理及び売買,旅館業並びに飲食店営業等を主たる目的とする株式会社である。
(2) 朝市開催等の礼金と原告による保管及び使用
ア 原告は,本件ホテルの支配人に就任してまもなくの平成8年10月ころ,①朝市業者から,本件ホテルにおいて朝市を開かせてもらえば,売り上げの30パーセントを謝礼として支払うとの申し入れを受けてこれを承諾した。次いで,原告は,②タクシー業者から,観光タクシーに本件ホテルの顧客を回してもらえば,タクシー代金の10パーセントを謝礼として支払うとの申し入れを受けてこれを承諾し,また,③観光施設Aから,同施設に顧客を紹介してもらえば,来所客1人あたり100円を謝礼として支払う旨の申し入れを受け,これについても承諾をした。
イ 原告は,平成8年11月ころから平成12年4月12日までの間に上記①ないし③の合意に基づき各業者から謝礼として受け取った金員を,被告に報告することなく,当初は自らが保管し,原告名義の預金口座(以下,「本件原告名義口座」という。)を平成9年8月27日に開設した後は,同預金口座に入金してこれを保管したうえ,原告名義の携帯電話料金,中元歳暮費用,本件ホテルの従業員の慰安旅行費用の援助等に使用した。
(3) 被告の就業規則等
ア 被告は,就業規則で,下記のとおり,その服務心得,懲戒処分としての制裁を規定している。
43条(服務心得)
社員は常に次の事項を守り職務に精励しなければなりません。
①(省略)
② 自己の職務上の権限を越えて専断的なことを行わない事
③~⑪(省略)
⑫ 職務に関し,不当な金品の借用または贈与等の利益を受けない事
⑬,⑭(省略)
49条(制裁)
社員が次の各号の一に該当する場合には,制裁を行います。
①(省略)
② 本規則ならびに法規等に違反した場合
③~⑪(省略)
⑫ 社員通達禁止事項に反した場合
⑬(省略)
50条(制裁の種類・程度)
制裁は,その状況により次の各号の区分により行います。
① 訓 戒:始末書をとり,将来を戒めます。
② 減 給:訓戒の上,1回につき平均賃金の1日分の半額,総額が1ヶ月の賃金総額の10分の1の範囲で行ないます。
③ 降 格:訓戒の上,身分を下げます。
④ 昇給停止:訓戒の上,一定期間の昇給,または昇格を停止します。
⑤ 出勤停止:30日以内の出勤を停止します。またこの期間中の賃金は支給しません。
⑥ 懲戒解雇:予告期間を設ける事なく即時解雇します。この場合に於いて所轄労働基準監督署長の認定を受けた時は予告手当(平均賃金の30日分)を支給しません。退職金及び退職年金も支給しません。
2 制裁は各号を2つ以上併せて行なう事があります。
イ 被告は,就業規則49条に基づき,毎月,下記のとおり禁止事項を通達し,毎月1回原告を含む各従業員に署名・押印させていた。
当社では,下記の行為を禁じており,一の項目に抵触した場合は懲戒処分を行うので,社員各位は規律正しい行動をとること。
記
①~④(省略)
⑤ 取引業者から職務上の地位を利用し,リベート等を受け取る行為。
⑥(省略)
⑦ 売上金,銀行入金をはじめとする業務上必要事項の虚偽の報告。
⑧~<30>(省略)
(4) 懲戒解雇の意思表示
被告は,原告に対し,平成12年6月1日到達の書面で,被告の就業規則50条に基づき原告を懲戒解雇する旨の意思表示をした(以下,「本件懲戒解雇」という)。
(5) 原告の給与
原告は,本件懲戒解雇当時,被告から給与として月額43万6000円(内訳 第一本給25万7000円,役付手当7万7000円,管理職手当6万円,特別加算給4万2000円)を支給されていた。
なお,被告における給与の支払は,毎月前月26日から当月25日までの分が当月28日に支払われることになっているところ,原告は,被告から平成12年4月28日に支払われるべき同年4月分の給与の支払は受けたが,以後の給与の支払を受けていない。
2 甲事件請求についての当事者の主張
(被告の主張)
(1) 原告は,平成8年11月ころから平成12年4月12日までの間,前記争いのない事実(2)イのとおり,朝市業者,タクシー業者及び観光施設Aから謝礼として受け取った金員を被告に報告,入金せず,当初は自らこれを保管し,平成9年8月27日以降は本件原告名義口座に入金したうえ,そのうち,少なくとも308万3031円を,原告名義の携帯電話料金(16万2616円),中元歳暮費用(12万0584円),慰安旅行費用(147万3625円),その他使途不明金(132万6206円)として独断で使用・費消し,もって,308万3031円を横領した。
(2) 原告の上記行為は,被告の就業規則43条2号(自己の職務上の権限を越えて専断的なことを行わない事),12号(職務に関し,不当な金品の借用または贈与等の利益を受けない事),49条2号(本規則ならびに法規等に違反した場合),12号(社員通達禁止事項に反した場合),社員通達禁止事項5号(取引業者から職務上の地位を利用し,リベート等を受け取る行為),7号(売上金,銀行入金をはじめとする業務上必要事項の虚偽の報告)に該当することから,被告は,前記争いのない事実(4)に記載のとおり,平成12年6月1日,原告に対し,懲戒解雇する旨の意思表示(本件懲戒解雇)をした。
なお,原告は,既に前記横領行為につき被告から訓戒処分及び出勤停止処分を受けており,重ねて本件懲戒解雇を行うのは二重処分禁止の原則に反すると主張するが,被告は,訓戒処分も出勤停止処分も行っていない。すなわち,始末書は原告が任意に提出したもので,訓戒処分として始末書を取ったものではない。また,被告は,原告に対し,謹慎・自宅待機を指示したことはあるが,これは,原告の横領行為の全貌が明らかでなかったため,さらに調査を進めて懲戒処分の内容を決定するために行ったものであって,懲戒としての出勤停止処分を行ったものではない。
(3) したがって,本件懲戒解雇によって被告と原告との労働契約は終了したから,同契約が継続していることを前提とする原告の甲事件請求は,いずれも理由がない。
(原告の主張)
(1) 謝礼金のプールとその使途
原告が,平成8年11月ころから平成12年4月12日までの間,業者らから謝礼として受け取り,被告に報告せずに本件原告名義口座に入金するなどした金員は合計300万6084円である。すなわち,本件原告名義口座に入金された金員の合計は総額336万5084円(うち709円は利息)であるところ,本件原告名義口座には前記謝礼金以外に健保・労組補助費42万9000円,ホテル表彰報奨金17万円,寮水道料金差額約26万円の合計85万9000円が入金されているので,謝礼金の入金額は,250万6084円(336万5084円-85万9000円)となる。これに,本件原告名義口座設定以前に現金で管理していた謝礼金を慰安旅行費用に使用した分が約50万円あるので,これを加えると300万6084円となる。
これら謝礼金等(謝礼金の合計300万6084円と謝礼金以外の入金分85万9000円の合計386万5084円)の使途は,以下のとおりである。
原告名義の携帯電話料金 16万2616円
中元歳暮費用 12万0584円
慰安旅行費用 218万7250円
子供会寄付金 6万円
赤十字寄付金 1万5000円
社会福祉寄付金 1万5000円
B地区業務連絡協議会費 1万8000円
ホテルイベントゴルフ費 9万円
町内会寄り合いへの飲み物寄付金 6万4000円
町内会清掃への飲み物寄付金 3万2000円
町内会神社修理寄付金 5万円
送迎車修理代 15万円
社員子供出産祝金 6万円
社員結婚祝金 5万円
社員餞別金 15万円
パート社員病気見舞品 1万円
本社会議宿泊費 14万円
その他お客様ズボン等のクリーニング代複数回代金等
20万9581円
被告への返還金 28万1053円
(2) 懲戒解雇事由不該当
被告は,本件懲戒解雇事由として,原告が朝市業者らからの謝礼金308万3031円を横領した旨を主張する。しかし,原告は,上記のとおり朝市業者らから謝礼金を受領し,これを本件原告名義口座に入金する等したが,以下に述べるとおり,その行為は,本件ホテルの支配人としての裁量行為として許容された正当な行為であって,横領行為には該当しない。したがって,本件懲戒解雇は,懲戒解雇事由がないのになされた無効な懲戒解雇にほかならない。
被告は,本件ホテル内での朝市開催とそれに伴う謝礼金,またタクシーや観光施設の紹介とそれに対する謝礼金についての契約を業者と結んでいたわけではない。これらは,原告がその支配人としての裁量に基づき,便宜を図ったために業者から渡された金員であり,当然に被告に帰属する性質の金員ではない。業者は,支配人たる原告に謝礼金を渡しているのであり,同謝礼金の所有権は支配人である原告に帰属し,原告は,その支配人としての裁量行為として,それら金員を本件ホテル経営のために費消することが許容されていた。本件原告名義口座の存在が,ホテルフロント社員全員の知るところであり,その通帳等の所在も事務所内で誰でも見えるところにあったこと,また,本件ホテルが24箇所ある被告のホテルの中での表彰で,優秀ホテル賞,最優秀ホテル賞を受賞したときの報奨金,ホテル従業員の水道料金も本件原告名義口座に入金されていたことからも,そのことは明らかである。なお,原告のように業者からの謝礼金をプールしていなかった他の被告経営ホテルの支配人らは,例えばホテル内レストラン用に注文した飲食物等を流用して近隣への中元歳暮等に充てるといった操作をしていたものであり,支配人によるそれらの操作は,被告により事実上黙認されていた。
そして,原告は,上記のとおり,それら謝礼金を本件ホテル経営のために使用した。すなわち,携帯電話料金については,被告の専務取締役から阪神・淡路大震災の際,支配人,副支配人は連絡が取れるようにと携帯電話を会社支払いで持つように言われたことがあったことから,本件原告名義口座からこれを支出したもので,同携帯電話は,主に本件ホテルのクレーム処理等のために使用していた。中元歳暮費用や,町内会等への寄付等は,ホテルのような客商売であれば当然儀礼上欠かせない費用であったし,特に,本件ホテルにおいては,ホテル建設前に近隣住民から建設反対運動があったので,近隣対策に注意する必要があった。ところが,被告は,それら支出を認めなかったため,原告は,業者らの謝礼金から支出したのである。慰安旅行費用は,原告がホテル従業員の慰安旅行費用の援助として支出したものである。慰安旅行は,従業員の結束を固め,ホテルの運営に積極的に力を注がせることを目的とし,原告がこれまで勤務した被告経営のどこのホテルでも行われていたもので,毎回30~40人の従業員が参加する,いわば半強制的な公的な行事であったし,慰安旅行により従業員の団結が強まり,優秀ホテル賞,最優秀ホテル賞を受賞して表彰されるなど実績が上がった。なお,原告は,業者からの謝礼金を原告においてプールし,これを慰安旅行費用の援助に使用すること等を副支配人Cに説明し,その了解を得ていたし,他のフロント社員らも,朝市等の業者からの謝礼金をプールして従業員の慰安旅行の補助費等に使うことにつき,ホテルの利用代金を横領することとは根本的に違うと考えており,誰も罪悪感を持っていなかった。
以上のとおりで,原告が,朝市業者,タクシー業者,観光施設よりもらった謝礼金を自ら保管しあるいは本件原告名義口座に入金して保管し,これを本件ホテルのために使用することは,支配人としての裁量に属する行為であって,「他人の物」を領得する行為ではない。また,それらは本件ホテルの経営のためになされたものであり,「不法領得の意思」も認められないから,原告の行為は,横領には当たらない。
(3) 解雇権の濫用
仮に被告主張の懲戒解雇事由が認められるとしても,本件懲戒解雇は,以下に記載のとおり,原告の行った行為に比して著しく過酷で均衡を欠く処分であるばかりか,関係従業員に対する処分と比較しても著しく不平等な処分であるうえ,二重処分禁止の原則にも反しており,かつ,極めて杜撰な調査のみに基づいてなされた不当な解雇であり,解雇権を濫用した無効な解雇である。
ア 行為と処分の不均衡
原告による朝市業者らからの謝礼金のプールとその使用が,本件ホテルの経営のために行われたもので,原告が私利を図って行ったものではないことは,前記(2)に記載したとおりである。
そうとすれば,原告の行為が懲戒事由に該当すると認められるとしても,その制裁は,その情状を考慮し,せいぜい降格(就業規則50条③号)ないし昇給停止処分(就業規則50条④号)にとどめるべきであって,労働者にとっては死刑に等しい懲戒解雇(就業規則50条⑥号)とするのは,行為と処分との均衡を欠いた重きに過ぎる処分である。
イ 処分の不平等
被告が,C及びフロント社員に対しては,何らの懲戒処分も科さずに,原告のみを本件懲戒解雇としたのは不平等な処分であって,是認できない。
すなわち,Cは,副支配人として,前記のとおり,原告が朝市の業者らからの謝礼金をプールして従業員の慰安旅行の援助等に使用することについて賛成していた。のみならず,Cは,慰安旅行の幹事を担当しており,プールしていた謝礼金から個人負担分以外の差額を捻出していたことは良く知っており,かつ,慰安旅行にも何回も参加していた。それにもかかわらず,Cは懲戒処分を受けず,平成12年夏季賞与を減額支給されたにとどまっているのは,原告の懲戒解雇と比してあまりに不平等である。
なお,被告は,Cに対し,平成12年夏季賞与の減額だけではなく,懲戒処分として,就業規則第50条④号の昇格停止の制裁を課したと主張するが,C本人が本法廷で昇給停止に付されたことはないとの趣旨の証言をしていることからして,到底信用できない。
また,本件ホテルのフロント社員らも,原告から朝市等の業者からの謝礼金をプールして従業員の慰安旅行の援助等に使用することを知らされていたのであるから,直ちに被告に報告すべき義務があったのに,これを怠って,平成12年4月12日まで被告に報告しなかったにもかかわらず,何らの制裁を受けていない。
ウ 二重処分禁止の原則違反
原告は,本件懲戒解雇事由とされた行為につき,以下に記載のとおり,既に就業規則50条①号の訓戒及び同条⑤号の出勤停止の処分を受けているから,さらに,被告が同一事由をもって原告を本件懲戒解雇に処することは,二重処分禁止の原則に違反し,許されない。
すなわち,原告は,平成12年4月22日,本件懲戒解雇事由とされた行為につき,被告に命じられて始末書を書かされ,就業規則50条①号の訓戒に処せられた。それとともに,原告は,同日から無期限の自宅謹慎処分に処せられたが,これは被告が,原告に対し,2つ以上の制裁を併せて行うことがある旨を規定した就業規則50条2項に基づき,就業規則50条⑤号の出勤停止に併せて処したものにほからない(しかも,被告は,出勤停止の期間は30日以内とされているににかかわらず,これに違反して無期限の出勤停止を命じた。)。
以上のとおりで,原告は,本件懲戒解雇事由とされた行為につき,訓戒と出勤停止の2つの懲戒処分による制裁を既に受けている。それにもかかわらず,さらに同じ事由をもって原告を懲戒解雇に処するのは,明らかに二重処分禁止の原則に違反するものであって,許されず(前記就業規則50条2項は,2つ以上の制裁を併せて行うことがあることを規定するものであって,いったん制裁を科した後に重ねて制裁を科すことを許容した規定ではない。),本件懲戒解雇は無効である。
エ 杜撰な調査
被告は,原告に対する本件懲戒解雇処分をなすにあたり,十分な調査を行わなかった。すなわち,原告は,本件懲戒解雇事由とされた行為をなすにあたっては,Cに相談し,賛同を得たと弁明していた。そして,その弁明が事実であるか否かは,原告の処分を決定するに当たって重要な点であったにもかかわらず,被告は,この点につき,フロント社員以外の従業員に対し聞き取り調査をしなかった。また,被告は,原告がプールした謝礼金の使途や,原告名義の口座に謝礼金以外の入金があったこと等についても,調査をしなかった。
以上のように,本件懲戒解雇をなすに際して,被告が行った調査は極めて杜撰であって厳格な処分手続が遵守されていないから,本件懲戒解雇は無効である。
(4) よって,原告は,被告に対し,原告が労働契約上の権利を有することの確認を求めるとともに,同契約に基づく平成12年5月分の賃金43万6000円及び同年6月以降本判決確定に至るまで毎月28日限り月額43万600円の賃金を支払うことを求める。
3 乙事件についての当事者の主張
(被告の主張)
(1) 原告の不法行為
原告は,甲事件についての被告の主張(1)に記載のとおり,平成8年11月ころから平成12年4月12日までの間,朝市業者らから受け取った謝礼金を被告に入金せず,そのうち,少なくとも308万3031円を横領して,同額の損害を被告に与えた。
(2) よって,被告は,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,金308万3031円及びこれに対する不法行為後であることが明らかな平成12年8月5日(乙事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(原告の主張)
被告の主張に対する認否,反論は,甲事件についての原告の主張(1),(2)に記載のとおりであり,原告の行為は横領には該当しないし,被告に損害も発生していない。
なお,朝市業者らからの謝礼金を自らあるいは本件原告名義預金口座に入金して原告が管理したのは合計300万6084円であり,うち28万1053円は被告に返還済みであることも,甲事件についての原告の主張(1)で記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
(甲事件請求について)
1 本件懲戒解雇の効力
(1) 懲戒解雇事由の有無
ア 被告は,原告が,平成8年11月ころから平成12年4月12日までの間,朝市業者,タクシー業者及び観光施設Aから謝礼として受け取った金員を被告に報告,入金せず,それら金員のうち少なくとも308万3031円を,原告名義の携帯電話料,中元歳暮費用,慰安旅行費用に費消等して横領したことを本件懲戒解雇事由として主張するところ,原告も,前記争いのない事実(2)イのとおり,平成8年11月ころから平成12年4月12日までの間に朝市業者,タクシー業者及び観光施設Aから謝礼として受け取った金員につき,被告に報告することなく,当初は自らが保管し,本件原告名義口座を平成9年8月27日に開設して後は,同預金口座に入金してこれを保管したうえ,原告名義の携帯電話料金,中元歳暮費用,本件ホテルの従業員の慰安旅行費用の援助等に使用したこと自体は争わない。
そして,証拠(甲3の1ないし4,7,8,12,証人C,同D,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告は,本件原告名義口座を開設する以前には,少なくとも,朝市業者らからの謝礼金約50万円を自ら保管し,これを本件ホテル従業員の慰安旅行の援助として,被告に報告することなく使用したこと,平成9年8月27日から平成12年4月12日までの間に本件原告名義口座に入金された金員の総額は336万4375円(預金利息を除いた入金合計額)になるところ,そのうち42万9000円は,労働組合及び健康保険組合から(ただし,一部は旅行会社から入金されている。),各従業員に対する慰安旅行の補助金として入金されたものであり,また,それ以外にも原告は,本件ホテルが,優秀ホテル,最優秀ホテルとして表彰された際,本件ホテルの従業員らに対して交付された報奨金17万円,被告の寮に居住の従業員らに返還すべき寮の水道料金差額分約26万円についても本件原告名義口座に入金し,それらも併せた金員から,慰安旅行の援助金,原告名義の携帯電話料金,本件ホテルの近隣関係者らに対する中元歳暮費用や子供会,町内会等への寄付等の支出にこれを充てたこと,原告がそれら金員から支出したうち,原告名義の携帯電話料金として支出した額は16万2616円(争いがない。)であり,中元歳暮費用として支出した額は12万0584円(争いがない。)であるところ,その他の出費に関しては,その額は必ずしも明確ではないが,原告の記憶によれば,その出費の明細は,前記甲事件についての原告の主張(1)に記載のとおりであること,そして,これら金員の無断保管及び使用が発覚した平成12年4月12日時点での預金残高28万1053円については,同月17日,原告においてこれを出金のうえ,被告にこれを返還したことが,認められる。
そうすると,原告が被告に無断で保管していたと認めることができる朝市業者らからの謝礼金の額は,原告が自ら保管していた約50万円と,原告名義預金口座に入金された総額336万4375円から,謝礼金以外の入金であることが認められる85万9000円(労働組合及び健康保険組合からの補助金42万9000円,本件ホテル表彰の報奨金17万円,寮水道料金差額金約26万円)を控除した250万5375円とを合計した300万5375円であること,そして,原告は,そのうち,平成12年4月17日に被告に返還した28万1053円を除く272万4322円を,被告に無断で,原告名義の携帯電話料金,慰安旅行の援助金,本件ホテルの近隣関係者らに対する中元歳暮費用や子供会,町内会等への寄付等の支出に使用したことが認められる。
イ ところで,原告は,朝市業者,タクシー業者及び観光施設Aからの謝礼金は,当然に被告に帰属する性質の金員ではなく,それら謝礼金は支配人である原告の所有に帰属するもので,原告は,支配人としての裁量行為として,それら金員を本件ホテル経営のために費消することを許容されていたとして,それら謝礼金の原告による保管と使用は,支配人としての正当な行為であって,横領には当たらないと主張し,甲7(原告の陳述書)及び原告本人の供述中には,これに沿うかのような部分がある。
しかしながら,朝市業者からの謝礼は,朝市のために本件ホテルを使用することに対する対価の支払にほかならず,支配人個人に対してではなく,被告に対して支払われるものと考えられるし,タクシー業者及び観光施設Aからの謝礼金も,支配人個人による顧客紹介に対する謝礼ではなく,ホテルによる顧客の紹介に対する謝礼であるから,これら謝礼も,支配人個人ではなく,被告に対して支払われるものと考えられ,それら収入は,被告の収入となるべきものである。そして,証拠(乙4ないし11,12の1ないし19,13ないし18の各1・2,21,23,24,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,実際にも,前記の朝市業者は,被告に対する謝礼としてこれを支払っていたものであるし,被告においても,上記のような謝礼金やリベート等の収入が発生した場合には,これを被告に入金するものとして,従業員が職務上の地位を利用してリベート等を受領することを禁じていたこと,そして,被告は,そのことの徹底を図るため,社員通達禁止事項としてこれを掲げるとともに,これを書面化して毎月回覧等に付し,かつ,従業員に署名・押印させていたこと(前記争いのない事実(3)イ参照)が認められることからすると,被告が,本件ホテルの朝市業者らからの謝礼金を,支配人の裁量行為として,原告が被告に報告することなくこれをプールして使用することを許容していたとは認めがたく,前記甲7及び原告本人供述は措信できない。
ウ また,原告は,朝市業者らからの謝礼金の使途に関しても,本件ホテル経営のために使用した正当な支出であったと主張する。
しかし,原告は,原告名義の携帯電話料金16万2616円につき,その陳述書(甲7)及び本人供述中において,契約名義は原告個人ではあるが,本件ホテルの仕事用に使用したもので,阪神・淡路大震災被害に遭った際に,被告の専務から,支配人及び副支配人についてはいつでも連絡が取れるよう被告の費用負担で携帯電話を持つようにとの指示があったので,朝市業者らからの謝礼金から上記電話料金を支出した旨の弁明をするが,そのような指示があったかどうか自体これを裏付ける資料もなくあいまいなばかりか,被告が費用を負担する旨の指示があったのであれば,何も被告に無断で朝市業者らからの謝礼金から支出する必要はなかったはずであるうえ,甲事件訴状においては,原告個人の携帯電話料金に費消したものであることを原告は自認していたことにも照らすと,前記陳述書記載及び原告本人供述はにわかに措信できず,支配人としての仕事のために使用した部分があったとしても,基本的には原告個人の携帯電話料金の支払に朝市業者らからの謝礼金を充てていたものと認めざるを得ない。
次に,慰安旅行の援助金についてみるに,証拠(甲8,12,乙24,証人D,原告本人〔ただし,一部〕)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成3年まで被告の費用負担で慰安(研修)旅行を行っていたが,いわゆるバブル崩壊後の平成4年以降は経費節減のためこれを中止したこと,そのため,平成4年以降,慰安旅行は,従業員らが自主的に行う行事に過ぎなくなり,また,その費用も,被告の健康保険組合及び労働組合から費用の一部が補助されるにとどまり,それ以外の費用は従業員らが負担するものとなっていたこと,ところが,原告は,本件ホテル従業員の慰安旅行を行うにつき,前記健康保険組合及び労働組合からの補助以外に,その援助として,朝市業者らからの謝礼金を被告に無断で支出してきたことが認められる。とすれば,原告は,被告が支出を認めるはずがないのにもかかわらず,被告に無断で慰安旅行援助金として支出を行っていたものにほかならず,その支出が本件ホテル経営のための正当な支出であったものとは,到底認めることができない。
以上のほかに原告が朝市業者らからの謝礼金から支出したという本件ホテルの近隣関係者らに対する中元歳暮費用や子供会,町内会等への寄付等の支出に関してみるに,証拠(甲8,12,乙12の1ないし19,13ないし18の各1・2,21,23,証人D,同C,原告本人〔ただし,一部〕)及び弁論の全趣旨によれば,被告の各ホテルでは,それらの支出につき,被告が適正・妥当な支出と認めたものについては,ホテルの必要経費としてその支払を認める取扱いがなされてきたこと,したがって,それら支払がホテルのために必要な支払というのであれば,社内ルールに従って,必要経費として支払うための手続をとらなければならないのに,原告は,その必要な手続を踏んで支払った経費以外にも,独自の判断に基づき,必要な費用として,被告に無断で,朝市業者らの謝礼金からその支出を行っていたものであったことが認められる。そうすると,それら支出は,被告の社内ルールに違反した支出であることは明らかであるのみならず,内容的にもそれら支出が本件ホテルの経営のために必要・妥当な支出であったのか疑念が残るといわざるを得ず,これが正当な支出であったとは認めがたい。
エ 以上を総合すると,原告は,朝市業者,タクシー業者及び観光施設Aからの謝礼金は,被告の収入であるにもかかわらず,これを被告への入金として報告・処理せずに,自らが自由に処理し得るものとして,少なくとも300万7375円を手元に保管あるいは本件原告名義口座に入金したうえ,自己の携帯電話料金や被告がその支出を認めていない慰安旅行の援助金に費消し,あるいは,その独断に基づき,正規の経費支払の手続を経ずに本件ホテルのために必要な費用であるとして支出し,その結果,少なくとも272万4322円を費消し,もってこれを横領して,被告に同額の損害を与えたものと認められる。
そして,前記認定したところからすれば,原告の上記行為は,被告の就業規則43条②号(自己の職務上の権限を越えて専断的なことを行わない事),⑫号(職務に関し,不当な金品の借用または贈与等の利益を受けない事),社員通達禁止事項⑤号(取引業者から職務上の地位を利用し,リベート等を受け取る行為),⑦号(売上金,銀行入金をはじめとする業務上必要事項の虚偽の報告)に違反するものと認められるから,原告の上記行為は,被告の就業規則49条②号(本規則ならびに法規等に違反した場合),⑫号(社員通達禁止事項に反した場合)に該当するものであり,したがって,本件懲戒解雇事由のあることが認められる。
(2) 解雇権の濫用
原告は,本件懲戒解雇事由のあることが認められるとしても,本件懲戒解雇は解雇権を濫用した無効の解雇であると主張するので,以下検討する。
ア 行為と処分の不均衡
原告は,原告の行為は本件ホテルの経営をスムーズに行うためのものであり,私利を図ったものではないので,その制裁は,降格ないし昇給停止処分にとどめるべきで,懲戒解雇は均衡を欠いた重きに過ぎる処分であると主張する。
しかし,慰安旅行の援助金や近隣等に対する中元歳暮費用等の支出については,それら支出が本件ホテルの経営に寄与した面もあったとは考えられるが,そうとしても,それら支出は社内ルールに則って適正に行われなければならず,本来,被告の収入として被告に入金すべき約300万円もの金員を被告に入金せずに自らが管理し,無断でその支出を行うこと自体,重大な違法行為といわざるを得ない。しかも,その使途のうち,携帯電話料金に関しては,前記認定のとおり,基本的には原告個人の携帯電話料金の支払に朝市業者らからの謝礼金を充てていたものと認めざるを得ないし,慰安旅行の援助金に関しても,その支出は,各従業員が負担すべき費用の援助であって,被告がその支出を認めることはあり得ないにもかかわらず,これを無断で支出したものであり,正当な支出であったとは到底認めがたいものであることにも照らすと,その制裁として,本件懲戒解雇をなすことが,原告の行った行為との均衡を欠いて重きに過ぎるとは認めがたく,この点の原告主張は採用できない。
イ 処分の不平等
原告は,本件ホテルの副支配人C及び他のフロント社員らに対する処分との不平等を主張する。
確かに,証拠(甲7〔だだし,一部〕,乙23,25,証人C,同E,原告本人〔ただし,一部〕)及び弁論の全趣旨によれば,本件ホテルの副支配人であったCは,原告から朝市業者らからの謝礼金を被告に入金せずに原告がこれを保管して使用することを知らされたが,特に異議を述べることもなく,これに従い,自らが謝礼金を受領したときも,被告に入金せず,原告にこれを交付していたし,Cは,慰安旅行の世話もしていたことから,慰安旅行の費用の支払にそれら謝礼金の一部が充てられていることも了知していたと思われること,ところが,Cは,それらを被告に何ら報告をしなかったこと,本件ホテルのフロント社員らも,原告による朝市業者らからの謝礼金の無断保管・使用の事実を知っていたにもかかわらず,そのことを平成12年4月12日まで被告に報告せずにいたこと,本件発覚後,Cは,平成12年夏季賞与につき減額査定を受けたが,懲戒の制裁を受けたかは定かではないこと(乙25〔被告作成のC副支配人の処分についての回答書〕中には,Cを就業規則50条④号の昇給停止の懲戒に処した旨の記載があるが,C自身,その証言中ではボーナスのカットを受けたとしか証言していないことに照らすと,前掲乙25の記載のみからは,Cが就業規則50条④号の昇給停止を受けたものとはにわかには認めがたく,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。),他のフロント社員らは,懲戒はもとより,何らの処分を受けていないことが認められる。
しかし,C副支配人やフロント社員らは,原告が行った朝市業者らからの謝礼金の無断保管・使用に,原告の部下として関与し,あるいはこれを黙認していたにとどまるものであって,その関与はあくまでも従的なものであったと解されることからすれば,C副支配人やフロント社員らが,何ら懲戒の制裁を受けていないとしても,被告に対する本件懲戒解雇が,他の関係者に対する処分と比較して著しく不平等であって,重きに過ぎるとは認められず,この点の原告主張も採用できない。
ウ 二重処分禁止の原則違反
原告は,本件懲戒解雇事由とされた行為につき,既に就業規則50条①号の訓戒及び同条⑤号の出勤停止の懲戒を受けているから,さらに,被告が同一事由をもって原告を本件懲戒解雇に処するのは,二重処分禁止の原則に違反して許されない旨を主張する。
そこで検討するに,証拠(乙1,乙23,証人D,原告本人)によれば,被告は,平成12年4月22日,原告から始末書を受け取るとともに,原告に対し,無期限の謹慎・自宅待機を指示したことが認められるところ,証人Dの証言中には,それらが,被告の就業規則50条①号の訓戒及び同条⑤号の出勤停止としてなされたものであることを認めるかのような部分がある。
しかし,同証言以外には,被告が,原告に対し,訓戒及び出勤停止の懲戒に処したことを認めるに足りる証拠はないし,むしろ,前掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,被告は,平成12年4月22日の段階では,原告に対しどのような制裁を行うかまでは確定しておらず,今後,どのような制裁を行うかを検討する資料とするためもあって,同日までの調査で判明したところに基づき,原告に始末書の任意提出を求めるとともに,さらに調査を行って原告に対する処分を決定するまでの間,原告を業務につかせるのは相当ではないとの判断のもとに,謹慎・自宅待機の指示を行ったものであって,そのいずれについても,就業規則50条①号の訓戒及び同条⑤号の出勤停止としてこれがなされたものではなかったと認めるのが相当である(もっとも,謹慎・自宅待機の指示が懲戒としての出勤停止処分ではない以上,被告としてはその期間中の賃金支払を免れる理由はないのに,被告が同期間中の賃金支払をしていないのは不当といわざるを得ず,謹慎・自宅待機の指示とはいうものの,実際には懲戒としての出勤停止としてなされたのではないかと疑えないでもない。しかし,被告が,平成12年4月26日付で,同年4月分の給与を全額横領金の一部として返金する旨の念書〔乙2〕を原告から徴していることからすると,被告は,それ以降の賃金に関しても,謹慎・自宅待機の指示が懲戒としての出勤停止としてなされたものであったことからその支払をしなかったというよりも,原告に賃金を返上させることによってこれを横領被害金の弁償に充てようと考えていたものとみる方が自然であるように思われる。したがって,賃金不払の事実のあることから,謹慎・自宅待機の指示が懲戒としての出勤停止としてなされたものであったとまでは認めることができない。)。
そうすると,本件懲戒解雇が二重処分禁止の原則に違反するとの原告主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
エ 杜撰な調査
原告は,被告が本件懲戒解雇を行うに当たってした調査が杜撰なものであったと主張する。
しかし,証拠(乙1,2,23,24,証人D,同E,原告本人〔ただし,一部〕)及び弁論の全趣旨によれば,本件ホテルのフロント社員ら4名が,平成12年4月12日,原告に対する苦情を被告に申し出たことから,原告による朝市業者らからの謝礼金の無断保管・使用の事実が発覚するところとなったが,そこで,被告は,本件懲戒解雇をなすまでに,事実調査のため,担当者を同月14日及び同月22日の2回にわたり本件ホテルに派遣し,副支配人のCや本件ホテルのフロント社員らから事情聴取するとともに,原告からの事情聴取も行い,また,原告からは本件原告名義口座の通帳や始末書及び念書の提出を受ける等したことが認められるのであって,被告の行った調査が杜撰なものであったとは認められず,調査の杜撰を理由に,本件懲戒解雇の無効をいう原告の主張は採用することができない。
以上のとおりで,原告が,本件懲戒解雇は解雇権を濫用した無効な解雇であるとして主張するところは,いずれも理由がないし,その他,本件懲戒解雇が解雇権を濫用した無効の解雇であることを認めるに足りる証拠はない。
(3) そうすると,被告がした本件懲戒解雇は,有効な懲戒解雇と認められる。
2 原告の各請求について
以上の認定,判断に基づき,原告の各請求の当否について検討するに,原告は,平成12年6月1日になされた本件懲戒解雇により被告の従業員としての地位を失ったものであるから,原告の請求中,被告に対し労働契約上の権利を有することの確認を求める部分は,その余について判断するまでもなく理由がない。
また,原告の請求中,賃金の支払を求める部分については,本件懲戒解雇により原告が被告の従業員としての地位を失った平成12年6月2日以降の賃金の支払を求める部分は理由がないが,それまでの原告が被告の従業員としての地位を有していた期間の賃金,すなわち,平成12年5月分(平成12年4月26日から同年5月25日まで)の賃金43万6000円及び平成12年5月26日から同年6月1日まで7日間の賃金9万8451円(43万6000円÷ 31日×7日)の合計53万4451円の支払請求は理由がある。
なお,前記争いのない事実(3)アの事実,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,就業規則50条⑥号において,懲戒解雇は予告期間を設けない即時解雇ではあるが,所轄労働基準監督署長の認定を受けていない場合には,解雇予告手当を支払うこととしているところ,被告は,本件懲戒解雇につき所轄労働基準監督署長の認定を受けていないから,原告は,解雇予告手当として40万2245円の支払を求めることができるものと認められる。ところで,原告の賃金請求は,本来,被告との労働契約が存続していることを前提とするものではあるが,仮に本件懲戒解雇が認められる場合には,解雇予告手当も含めた賃金の支払を求める趣旨も含んでいると認めるのが相当である。したがって,本件においては,上記解雇予告手当40万2245円の支払も合わせて認容すべきである。
そうすると,原告の請求中,賃金請求に関しては,上記の合計金93万6696円の支払を求める限度で理由がある。
(乙事件請求について)
1 原告が,朝市業者,タクシー業者及び観光施設Aからの謝礼金は被告の収入であるにもかかわらず,これを被告への入金として報告・処理せずに,自らが自由に処理し得るものとして,少なくとも300万7375円を自ら保管あるいは本件原告名義口座に入金したうえ,自己の携帯電話料金や被告がその支出を認めていない慰安旅行の援助金に費消し,あるいは,その独断に基づき,正規の経費支払の手続を経ずに本件ホテルのために必要な費用であるとして支出し,その結果,少なくとも272万4322円を費消し,もってこれを横領して被告に同額の損害を与えたことが認められることは,前記甲事件請求に対する判断において認定したとおりである。
2 そうすると,被告の乙事件請求は,金272万4322円及びこれに対する不法行為後であることが明らかな平成12年8月5日(乙事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(結論)
以上の次第で,原告の甲事件請求は,本件懲戒解雇までの解雇予告手当を含めた賃金93万6696円の支払を求める限度で認容し,その余はこれを棄却することとし,被告の乙事件請求は,金272万4322円及びこれに対する平成12年8月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余はこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官 上 田 昭 典
裁判官 太 田 敬 司
裁判官 島 田 環

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