H11. 7.28 奈良地裁 平成09(行ウ)6 損害賠償請求事件
H11. 7.28 奈良地裁 平成09(行ウ)6 損害賠償請求事件
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
1 被告A、被告B及び被告Cは、連帯して、奈良県に対し、金八万〇九〇〇円及びこれに対する平成八年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告A、被告D及び被告Eは、連帯して、奈良県に対し、金五万七四一二円及びこれに対する平成八年六月二二日から支払済みまで年五部の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、奈良県の住民である原告が、奈良土木事務所及び郡山土木事務所において、平成八年四月一八、一九日に会計検査を受検する際、会計検査院の調査官(以下「調査官」という)に対し昼食を供し、その費用を奈良県の公金(食糧費)から支出したのは違法であると主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、奈良県に代位して右支出命令権限を有する職員であった被告らに対し、損害賠償を求めている事案である。
二 争いのない事実等
1 原告は、奈良県の住民である。
2 平成八年度において、①被告A(以下「被告A」という)は奈良県知事、②被告B(以下「被告B」という)は奈良土木事務所長、③被告C(以下「被告C」という)は奈良土木事務所次長、④被告D(以下「被告D」という)は郡山土木事務所長、⑤被告E(以下「被告E」という)は郡山土木事務所次長の地位にあった者である。
3 奈良県における予算の執行は、奈良県知事が担任するとされているが(地方自治法一四九条二号)、土木事務所における食糧費の支出負担行為及び支出命令については各土木事務所長に権限委任され(奈良県会計規則三条)、所長が不在のときには次長が代決できるとされている(奈良県事務決裁規定八条)。
4 奈良土木事務所及び郡山土木事務所は、平成八年四月一八日から一九日にかけて、会計検査を受検する際、調査官に対し、次のとおり昼食を提供した。
(一) 奈良土木事務所
日時 平成八年四月一八日
場所 ゆがや満
出席者 調査官一名、県職員八名(うち三名は別席)
料理内容 別表Ⅰ記載のとおり(以下「本件昼食一」という)
日時 同月一九日
場所 万葉花宴とさや
出席者 調査官一名、県職員八名(うち二名は別席)
料理内容 別表Ⅰ記載のとおり(以下「本件昼食二」という)
(二) 郡山土木事務所
日時 平成八年四月一八日
場所 よし川
出席者 調査官
一名、県職員六名
料理内容 別表Ⅰ記載のとおり(以下「本件昼食三」という)
日時 同月一九日
場所 レストラン辯慶
出席者 調査官一名、県職員六名
料理内容 別表Ⅰ記載のとおり(以下「本件昼食四」という)
5(一) 被告Cは、別表Ⅱ「支出命令日」欄記載の日において、本件昼食一、二について支出負担行為決議兼支出命令を代決し、奈良県は、平成八年度食糧費(款・土木費、項・河川費、目・河川改良費、事業・公共事務費、節・需用費、細節・食糧費)から、同表Ⅱ記載のとおり、相手方らに対し本件昼食一、二の費用を支出した(甲一、二〔枝番を含む〕)。
(二) 被告Eは、別表Ⅱ「支出命令日」欄記載の日において、本件昼食三、四について支出負担行為決議兼支出命令を代決し、奈良県は、平成八年度食糧費(款・土木費、項・道路橋りょう費、目・道路新設改良費、事業・公共事務費、節・需用費、細節・食糧費)から、同表Ⅱ記載のとおり、相手方らに対し本件昼食三、四の費用を支出した(甲三の1ないし4)。
6 原告は、平成九年二月一四日、奈良県監査委員に対し、本件各昼食費用の公金からの支出について地方自治法二四二条一項に基づく監査請求をしたところ、監査委員は、同年四月一五日付で右請求を理由のないものと認めて棄却する旨原告に通知した(甲七)。
三 争点
本件の主な争点は、①本件各昼食費用を食糧費から支出したことは予算の違法な流用か、②本件昼食三、四の費用を「項・道路橋りょう費、目・道路新設改良費」として支出したことは違法な予算外支出か、③本件各昼食費用を奈良県の公金(食糧費)から支出したことは違法か、④被告Aも本件各昼食費用の支出について損害賠償責任を負うか、である。
1 原告の主張
(一) 本件各昼食費用は食糧費から支出されているが、食糧費とは会議用、式典用及び応接用の茶菓、弁当、非常炊出し賄、警察留置人食糧、病院療養所等における患者賄料等を意味するものであり、本件各昼食費用は食糧費の範囲に含まれない。したがって、これを食糧費から支出することは予算の違法な流用である。
(二) 本件昼食三、四の費用は平成六、七年度における郡山土木事務所管内の建設省河川局所管の国庫補助事業に対する会計検査に際して支出されたものであるから、本来「項・河川費、目・河川改良費」から支出すべきところ、「項・道路橋りょう費、目・道路新設改良費」として支出されており、違
法な予算外支出である。
(三) 本件各昼食は会計検査院の調査官を供応して検査が有利となることを期待してされたものであり、会計検査の厳正を失わせる違法な目的で供されたものである。
仮に昼食等を共にする必要があったとしても、会計検査院の調査官は、国から給与、出張旅費、日当の支給を受け、出席した奈良県職員も県から給与の支給を受けているもので、昼食代は支給されたもので自ら賄うのが当然であり、県民の税金で賄う必要はない。
本件各昼食は、料理単価が二〇〇〇円から四五〇〇円と高額であり、検査会場で供するのではなく、料亭あるいはレストランに席を移してコース料理のほかビールも提供するなど不相当なものである。そのほか、会計検査院自体昼食費を自弁するよう指示していること、被告らも調査官に昼食を供したことを隠そうとしたことを考慮すると、本件各昼食の提供は社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇として行ったものでないことは明らかである。このような高額の昼食費用を公金から支出することは「官公庁間の接待及び贈答品の授受は行わないことはもとより、官公庁の会議等における会食についても必要最小限度にとどめる。」とした昭和五四年一一月二六日付自治事務次官通達を無視するものである上、地方公共団体の事務を処理するに当たっては最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(地方自治法二条一三項)、その経費は目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならない(地方財政法四条一項)と規定した法の趣旨に反しており、違法である。
(四) 被告らは、調査官の昼食費用は後日受領したと主張するが、受領金額全体の充当関係が示されていないから、本件各昼食費用として支払われたと帰結することはできない。
(五) 被告Aは、奈良県知事として予算執行の権限を有しているところ、本件各昼食費用について過失によって違法な支出をさせ、その他の被告らは、違法な支出であることを知りながら、右費用を公金から支出させたものであり、よって、奈良県に対し、右支出金相当額の損害を与えた。
2 被告らの主張
(一) 本件各昼食費用は、会計検査という地方公共団体であれば当然受検するべき公務に伴い支出されたものであり、まさに事務の執行上直接費消される経費であるから、食糧費より支出されていることは正当である。
(二) 地方自治法二二〇条二項は、歳出予算の経
費について、各款項間における流用を禁止し、奈良県予算規則一四条は、歳出予算に係る目及び節の目的外使用を禁止しているところ、郡山土木事務所の受検対象事業は、平成六、七年度における同事務所管内の建設省河川局所管の国庫補助事業であるから、その際の昼食(本件昼食三、四)の費用は、本来「款・河川費、項・河川改良費」として支出するのが適当である。しかしながら、これを「項・道路橋りょう費、目・道路新設改良費」から支出したのは事務手続上の軽微な単純ミスによるものであり、対外的関係において違法とまで評価することはできず、支出自体を違法と評価する必要はない。仮に予算の流用として問題があるとしても、このようなミスは内部的事項の欠缺である以上、奈良県と各相手方との間の契約の効力は有効と評価せざるを得ず、奈良県は各相手方に対し昼食費用を支払う義務を負担しており、これを食糧費から支出したことにより支払うべき債務は消滅したのであるから、奈良県には何ら損害は発生していない。
(三) 普通地方公共団体の長又はその他の執行機関が、当該普通地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、当該普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして、許容されるべきであるところ、本件各昼食の目的、態様、内容等は以下のとおりであり、社会通念上儀礼の範囲内であるから、本件各昼食費用を奈良県の公金から支出したことは適法である。
すなわち、会計検査は、限られた日程の中で効果的に実施するべく、多くの対象箇所から数を絞って実施され、対象箇所の選定は実施日の前日あるいは当日にされているところ、受検に当たっては、対象事業となった機関の職員、前任担当職員、対象事業に関係する民間コンサルタント等多数の者を待機させているため、適宜、待機を継続する必要性について指示する必要がある上、調査官から要求された資料の詳細を正確に把握し、早急に提出するなどして円滑な受検態勢を整えるために、迅速な情報の伝達が不可欠であり、調査官との打ち合わせの機会を設けることは極めて重要である。しかるに、右打ち合わせは、調査官側での当日の取りまとめ、翌日の検査準備等のため、夕刻以後は時間をとれず昼食時を利用するしかないのが実情である。本件においても、午前中における
調査官の検査方針に基づき、現地への行程、説明する者の待機場所の調整、説明・参考資料の作成・追加、検査機器の移動確認、会計検査箇所の再選択の必要性、再検査の説明、会計検査院への持ち帰り資料等についての打ち合わせ等として、時間的余裕がなかったために昼食時を利用して行われたものである。
また、そもそも土木事務所は平素より不特定多数の人が出入りしている上、会計検査当日は多数の職員等が待機してごった返している状況にあり、土木事務所内では打ち合わせを行うにふさわしい場所がなく、外に確保する必要があったことから、書類検査の行われる土木事務所に近く(本件昼食二については土木事務所から現場検査実施場所までの行程途中にあり)、人数分の食事スペース及び駐車スペースを確保でき、更に会話内容等秘密を要する場合もあるため個室がある場所であること、後払いできること等を基準に、本件各昼食の場所を選定したものである。また、提供された料理は各店舗の料金帯において中下位に属するものであり、本件昼食一、二、四ではビールが提供されているが、量的にも少なく、あくまで社会的儀礼の範囲内のものである。さらに、出席者は、調査官のほか、土木事務所長、次長、技術関係者、調査官の随行員(会計検査においては、県職員が調査官の随行を行うことになっている)及び車両の運転担当者に限定されている。
以上のとおり、本件昼食は、会計検査を円滑に受検するための打ち合わせという公務に際して提供されたものであり、社会通念上儀礼の範囲内のものであるから、これを公金から支出したことは適法である。
(三) 奈良県は、平成九年五月二八日、会計検査院から、調査官の昼食費として金四万〇五八六円を受領し、平成八年度一般会計(款・諸収入、項・雑入、目・雑入、節・雑入)に受け入れたが、このうち一万八八四一円が本件各昼食費用分として受領された。
(四) 食糧費支出に関する支出負担行為や支出命令に関する権限は、奈良県会計規則三条に基づいて各土木事務所長に権限委任されているところ、「右委任を受けた吏員が委任に係る当該財務会計上の行為を処理した場合においては、長は、右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして、普
通地方公共団体に対し、右違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である。」(最高裁判所昭和六二年(行ツ)第一四八号平成五年二月一六日第三小法廷判決・民集四七巻三号一六八七頁参照)とされている。
奈良県知事である被告Aは、出納長の権限とされる事項を除き、奈良県のあらゆる財務に関する権限を有しているものの、本件昼食一、二の費用の支出については、奈良土木事務所長であった被告Bが受任者で、同次長であった被告Cがその支出負担行為及び支出命令を代決しており、本件昼食三、四の費用の支出については、郡山土木事務所長であった被告Dが受任者で、同次長であった被告Eがその支出負担行為及び支出命令を代決しているのであり、被告Aには右支出について特段の注意を払うべき事情は存しない。したがって、被告Aには指揮監督上の義務違反はなく、損害賠償責任を負うことはない。
第三 争点に対する判断
一 まず、本件各昼食費用を食糧費から支出したことが予算の違法な流用か否かを検討する。
食糧費は、予算科目としては需要費(節)の細節であり(地方自治法施行規則一五条二項別記参照)、需要費、すなわち地方行政事務に伴い必要とされる消費的な物品の取得及び修理等に要する経費等のほか一般的にその効用が短期間に費消される経費の一種として、行政事務、事業の執行上内部的、直接的に費消されるものであって、一般に、会議用(宴会を含む)又は式日用茶菓、接待用茶菓、弁当、非常炊出賄、警察留置人食料、病院、療養所等の患者食糧、宿泊所、保育所等の賄料等がこれに該当するとされている。
本件は、奈良土木事務所及び郡山土木事務所において会計検査を受ける際の、調査官、各土木事務所長、次長、技術関係者等県職員らの昼食であり、その事務執行において直接必要なものであると認められることは後記のとおりであるから、これが社会通念上相当な範囲内にあるか否かはともかくとして、その費用が各土木事務所の事務の執行上直接費消される経費であること自体は間違いない。
したがって、本件各昼食費用を食糧費から支出したことが予算の違法な流用に当たるということはできない。
二 次いで、本件昼食三、四の費用の支出が違法な予算外支出か否かを検討する。
丙二及び証人Eの供述によれば、郡山土木事務所に対する会計検査は、平成六、七年度に実施された同事務
所管内における建設省河川局所管の国庫補助事業に関するものであること、したがって、その際の昼食費用を支出するには「款・河川費、項・河川改良費」から支出されるべきであるところ、「款・土木費、項・道路橋りょう費」から支出されていることが認められる。
地方公共団体における支出負担行為は、法令又は予算の定めるところに従ってしなければならないところ(地方自治法二三二条の三)、歳出予算の経費については各款又は項の間において相互に流用することはできず(同法二二〇条二項)、歳出予算に係る目及び節の目的外使用も禁止されているのであるから(奈良県予算規則一四条)、本件昼食三、四の費用の右の支出が予算外支出として不適法なものであることは明らかである。
しかしながら、本件は食糧費の支出であり、その金額も高額なものではないこと、支出に関する手続は郡山土木事務所庶務課で定型的に処理したこと、同事務所では以前から会計検査の際の昼食を用意していたこと(証人Eの供述)などの事情を含めて検討するならば、本件昼食三、四の費用を「款・土木費、項・道路橋りょう費」から支出したのは、むしろ事務手続の過誤によるものと推認される。そして、そもそも地方自治法において予算手続に関し詳細に規定している趣旨は、議会での予算審議・議決等を通じて行政に対し民主的な統制を加える点にあり、したがって、例えば予算が不足し又は計上されていないにもかかわらず支出するなど民主的統制という法の趣旨を潜脱する場合には当然その予算外支出は違法とされるべきであるが、事務手続上の軽微な過誤があるにすぎない場合まで一律に損害賠償義務を発生させるような違法であると解することは硬直に過ぎて円滑な行政運営に支障をきたすとも考えられる。したがって、本件昼食三、四の費用の支出は、確かに原告の指摘するとおり不適法なものではあるが、この点のみをもってその支出が右に述べる意味での違法であるということはできない。
結局、右支出が右に述べる意味での違法であるか否かは、そもそもこれを公金から支出することが許されるかどうかの次に検討する判断にかかると解すべきである。
三 そこで、本件各昼食費用を奈良県の公金から支出したことが許されるか否かを検討する。
1 普通地方公共団体は、その事務を処理するために必要な経費を支弁するものであるところ(地方自治法二三二条一項)、その執行機関が、当該団体の事務を遂行し対外的折衝や意見交換等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲に止まる程度の接遇を行うことは、当該団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして許容されるべきであると解されるから(最高裁昭和六一年(行ツ)第一四四号平成元年九月五日第三小法廷判決参照)、当該接遇が社会通念上儀礼の範囲内と判断し得る場合には、その費用を公金から支出することも許されるというべきである。そして、右判断は、当該接遇の必要性のほか、予算執行時における経済状態、国民の消費及び生活水準等の諸事情を考慮してされるべきものであるから、第一次的には予算の執行権限を有する財務会計職員の裁量に委ねられていると解さざるを得ないが、一方で、地方公共団体の事務を処理するに当たっては最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(地方自治法二条一三項)、その経費は目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならない(地方財政法四条一項)と規定されており、そのような法の趣旨をふまえるならば、右諸事情に加えて、当該接遇を必要とする行政事務の性質・内容、目的、効果等をも勘案し、社会通念上相当な範囲内にあると認められることが必要である。さらに、右支出が食糧費からされている場合には、行政事務等の執行上直接に費消される経費であるという食糧費の性質にかんがみ、当該行政事務等の存在が明確にされるとともに右支出と事務執行との間に直接的な関連性が認められることをも要すると解すべきである。
したがって、本件各昼食費用の公金からの支出についても、右の観点からみて、これが社会通念上相当な範囲を超えており、予算執行権限を有する財務会計職員の前記裁量を逸脱していると認められる場合には、違法となると解される。
2 以上を前提に、本件各昼食費用の支出が違法か否かを検討する。
(一) 甲一〇ないし一六、丙一、二、六、証人E及び同Bの証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(1) 奈良土木事務所においては、平成六、七年度に実施された同事務所管内の建設省河川局所管の国庫補助事業に関して会計検査を受ける旨の連絡を受けて、平成八年二月ころから、該当する工事についての調書の作成、設計図書の整理、現地確認等の準備を行い、同年四月一八、一九日に受検することとなった。同事務所では、受
検の前日である四月一七日、会計検査院から検査対象となる事業の連絡を受け、該当事業の書類等を整えたほか、二階の会議室を調査官が書類調査を行う場所として準備した。なお、同事務所では、右会議室以外に空室はなく、所長室及び次長室には、応接セットとして約五人分のソファ及び低いテーブルが置かれている。
四月一八日は、まず所長が調査官に対し、所管する地域についての概要説明を行った後、午前中は右会議室において約一〇件の事業について書類検査が行われた。その間、各事業について現場調査等が行われた場合に調査官に説明するための職員、コンサルタントら約八〇名を同事務所内に待機させた。午前中の検査が終わった後、調査官、調査官の随行である奈良県土木部職員二名、所長、技術次長、庶務課長らは、今後の検査の打ち合わせ等も兼ねて昼食を取るため、同事務所から車で約五分程度の場所にあり、駐車場、個室等が完備され、後払いもできることから、あらかじめ昼食場所として選んでおいたレストラン「ゆがや満」に向かい、右六名は個室において単価四五〇〇円のコース料理とビール四本を、運転手二名及び配席等の手配をした事務次長は別席において単価二〇〇〇円の料理を注文した。右昼食の場では、調査官から、昼からも引き続き書類検査をすること、書類検査後に現地検査も予定していることなどの指示があったほか、現地検査の場所、所要時間等について話をした。昼食後は同事務所に戻り、書類検査が行われた。
四月一九日は午前中から書類検査が行われ、その間も、現地検査に備えて、職員、コンサルタントら約八〇名に待機を続けさせていた。その後、前日と同様打ち合わせを兼ねた昼食を取ることとして、前記メンバーで、同事務所と現地検査の対象事業の場所である奈良市富雄元町との間にあり、「ゆがや満」と同様、駐車場、個室等が完備され、後払いもできるレストラン「とさや」へ向かい、調査官、調査官の随行である奈良県土木部職員二名、所長、技術次長、庶務課長、事務次長は個室において単価三五〇〇円の料理及びビール六本を、運転手二名は別席において単価二五〇〇円の料理を注文した。右昼食中に、調査官から、午後に見るべき書類の指示等を受け、昼食後は同事務所に戻り、書類検査等を行った。
(2) 郡山土木事務所においても、平成六、七年度に実施された同事務所管内の建設省河川局所管の国庫補助事業に関して会計
検査を受ける旨の連絡を受けて、平成八年二月末ころから、該当する工事についての調書の作成、設計図書の整理、現地確認等の準備を行い、同年四月一八、一九日に受検することとなった。同事務所では、受検の前日である四月一七日、会計検査院から検査対象となる事業の連絡を受け、該当事業の書類等を整えたほか、同事務所二階の会議室を調査官が書類調査を行う場所として準備した。なお、同事務所では、右会議室のほかに物置きを兼ねた打合せ室があるが、それ以外に空室はなく、所長室には、応接セットとして約四人分のソファ及び低いテーブルが置かれている。
四月一八日は、まず所長が調査官に対し、所管する地域について管内図を用いて概要説明を行った後、午前中は右会議室において二件の事業について書類検査が行われた。その間、各事業について現場調査等が行われた場合に調査官に説明するための職員、コンサルタントら約七〇名を同事務所内に待機させた。午前中の検査が終わった後、調査官から午後に検査予定の事業について指示があり、更に今後の検査の打ち合わせ等も兼ねて昼食を取るため、調査官、調査官の随行である奈良県砂防水利課職員二名、所長、次長、主幹、庶務課工事係の係長は、同事務所から一軒隔てて隣りにあり、個室等が完備され、後払いもできるレストラン「よし川」に向かい、個室において単価二六〇〇円の料理を注文した。右昼食の場では、調査官から、午後からの検査対象とされた特定保水池事業、総合浄化事業の趣旨、必要性についての説明を求められ、所長から右各事業について説明した後、右事業に関する蟹川の現場が近くにあったことからこれを視察することとし、昼食を約四〇分程度で早めに切り上げて、一二時四〇分ころから右現場を見に行った。同事務所に戻った後は、引き続き四、五件の事業について書類検査が行われ、この間、職員、コンサルタントらは、午前中と同様に待機を続けていた。検査終了後、調査官から、翌日は奈良県の事業につき三件書類検査をすること、大和郡山市の職員については待機の必要はないことなどの指示がされた。
四月一九日は午前中だけ検査を行う予定であり、一件の書類検査が行われたが、その間も、大和郡山市職員以外の事務所職員、コンサルタント担当者らは現地検査に備えて待機を続けた。その後、前日と同様打ち合わせを兼ねた昼食を取ることとして、同じメンバーで、同事務所の隣り
にあり、個室を用意することができ、後払いも可能な「レストラン辯慶」へ向かい、単価三五〇〇円の料理及びビール三本を注文した。右昼食中には、後日会計検査院から指摘を受ける事項のほか、今後当該国庫補助事業を進めるに当たり留意すべき事項について話し合われたほか、午後に予定されていた打ち合わせまでの間に資料を提出してほしいなどの要望が出された。
午後は、まず奈良県を訪れていた調査官ら同士の情報交換が行われた後、調査官らと奈良県土木部の幹部らの打ち合わせが行われ、郡山土木事務所からは所長が出席した。
(3) その後、会計検査院の調査官四名から、奈良県土木部監理課に対し、平成八年四月一六日から一九日に行われた会計検査の際の昼食代として金四万〇五八六円が交付され、一般会計(款・諸収入、項・雑入、目・雑入、節・雑入)に計上されて、平成九年五月、奈良県出納長において徴収した。このうち、奈良土木事務所分は一万〇六三九円、郡山土木事務所分は八二〇二円である。
(二) 以上を前提に、まず、本件各昼食費用の支出が奈良土木事務所及び郡山土木事務所における会計検査の受検という事務執行において直接必要なものであったかどうかを検討すると、前記認定事実によれば、本件各昼食は、二日間の緊密な検査スケジュールの中、受検のための指示、打ち合わせの時間を兼ねて、土木事務所幹部職員と調査官とが共に昼食を採ったものと認められる。そのほか、会計検査は、その実効性を上げるため、検査対象となる事業が事前に明らかにされておらず、検査前日あるいは当日になって指示される関係上、検査当日にもかなりの準備をせざるを得ないものであること、短時間の間に多数の事業を検査しなくてはならないことなどの事情を考慮するならば、調査官と受検する土木事務所職員が昼食を共にしながら打ち合わせをすることは、時間を節約しながらその後の受検の準備を整えることができ、円滑な事務遂行を図るために有益な方法であるということができる。したがって、会計検査を受検する各土木事務所において、打ち合わせ目的で調査官と共に昼食を採ること自体は、その事務執行上直接必要なものであると認められる。
次いで、本件各昼食の内容を見ると、いずれも料亭あるいはレストランにおいて、単価二六〇〇円から四五〇〇円という比較的高額なコース料理のほか、郡山土木事務所における四月一八日の分(本件昼食三)
以外はビールまで注文しているのであって、調査官と職員との打ち合わせという性質から見て必ずしも適当ではなく、会計検査は公平かつ厳正に行われるべきであり、検査する側と受検する側とが必要以上に親しむことは避けなければならないことをも考慮すると、非難されるべきものであると言わざるを得ない。
しかしながら、昼食場所として料亭あるいはレストランを選んだ点については、確かに打ち合わせという目的に照らせば、検査会場である各土木事務所内で弁当を注文する程度が妥当であることは原告の指摘するとおりであるものの、前記認定事実によれば、各土木事務所内には、会計検査当日、職員、コンサルタントら約七〇から八〇名が待機していたこと、会議室は検査用として書類等運び込んでおり、他に食事をすることのできる空室はなかったこと、所長室あるいは次長室の応接セットのテーブルは低いものであって、食事をするには小さすぎ、不適当であることなどの事情が認められ、事務所の外に昼食場所を確保せざるを得ない状況であったということができる。そして、各土木事務所からの移動に便利であること、他の客と同席しないよう個室があること、歳出手続の関係から後払いができることなどの観点から本件各昼食の場所となった料亭、レストランを選んでいるものであって、その理由は合理的であり、接遇目的でことさら豪華な店を選んだ形跡は認められない。
注文した料理についても、確かに昼食としては高額であるけれども、打ち合わせのためには他の客との相席を避ける必要があり、ある程度落ち着いた個室のある店を選ぶのは理由がないわけではない上、そのような店において右の値段は不相当に高いということはできず、実際、各料理は昼食場所である各店の価格帯の中では中下位のものであることが認められる。また、ビールを注文している点については非難されて然るべきではあるけれども、本件昼食一において六人当たり四本、本件昼食二において七人当たり六本、本件昼食四において六人当たり三本であり、一人当たりグラス一、二杯程度に止まるものと認められる。
そのほか、本件各昼食は、いずれも一時間程度のものであり、午後は通常どおり検査が続けられていたこと、昼食中の話題は検査に関する指示、説明等に終始していたことなど、その時間、話題等から見ても、打ち合わせの域を出るものではないということができるほか、右打ち合わせを兼
ねた昼食の機会をもったことはその後の検査を円滑に進める上で有益なものであったと推認される。
(三) 以上の点を総合考慮するならば、本件各昼食は、会計検査院の調査官と受検する県職員という本来厳正な関係を保つべき間での接遇であるにもかかわらず、比較的高額であり、酒をも供するなど非難すべき点も多いけれども、円滑な会計検査の進行のための打ち合わせという目的、その効果のほか、本件各昼食の場所を選んだ経緯に恣意的な点はないことにかんがみると、社会通念上相当な範囲を逸脱しているとまでいうことはできない。
3 したがって、本件各昼食は、予算執行権限を有する財務会計職員の裁量の範囲を逸脱しているとは認められず、県においてその費用を支出したことが違法であるということはできない。
三 以上の次第で、その余の点につき検討するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
奈良県地方裁判所
裁判長裁判官 前川鉄郎
裁判官 川谷道郎
裁判官 松山遙

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