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H13. 5.23 奈良地裁 平成11(行ウ)6 平成11年(行ウ)第6号損害賠償請求事件 主文: (甲事件について)1 被告らは,奈良県に対し,各自金735万円及びこれに対する平成10年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

H13. 5.23 奈良地裁 平成11(行ウ)6 平成11年(行ウ)第6号損害賠償請求事件

H13. 5.23 奈良地裁 平成11(行ウ)6 平成11年(行ウ)第6号損害賠償請求事件(以下「甲事件」という。) 同年(行ウ)第8号工事代金支払差止等請求事件(以下「乙事件」という。)

 主文
(甲事件について)
1 被告らは,奈良県に対し,各自金735万円及びこれに対する平成10年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
(乙事件について)
1 被告らは,奈良県に対し,各自金735万円を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
 事実及び理由
(甲事件について)
第一 請求
一 主位的請求
1 被告らは奈良県に対し,各自金4578万円及びこれに対する平成10年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行の宣言
二 予備的請求
1 被告らは奈良県に対し,各自金872万円及びこれに対する平成10年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行の宣言
第二 事案の概要
一 訴訟物
1 奈良県は,県営農業用河川工作物応急対策事業臨時県単河川改良事業α地区下部工工事(以下「本件工事」という。)に関して平成10年11月17日,奈良県β土地改良事務所会議室で指名競争入札を実施し(以下「本件入札」という。),本件入札の結果,指名業者である被告株式会社寺澤組が,請負代金2億1315万円で落札し,同月18日,奈良県と工事請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という。)。
2 本件は,奈良県の住民である原告らが,本件入札は,被告株式会社寺澤組,同吉村建設株式会社,同株式会社ヤマト興業,同株式会社浦谷組,同三共建設株式会社,同株式会社堤野組,同山口土木株式会社,同中和開発株式会社,同山口建設株式会社,同新川畑建設株式会社,同株式会社小西組,同株式会社中尾組ら(以下「被告指名業者ら」という。なお,会社を個別に摘示するときは,適宜「株式会社」を省略する。)が談合を行い,その結果本命業者(落札する業者)とされていた被告寺澤組が違法に本件工事を落札し,奈良県と本件請負契約を締結して本件請負契約上の前記請負代金全額を受領したものであり,上記事実は,本来的契約締結権者である奈良県知事である被告A及び本件請負契約の専決権者である被告Bが違法な本件請負契約を締結したことによるばかりでなく,本件請負契約締結後において,本件入札が談合によるものであり,かつ違法な手続によって執行されたものであることが判明したにもかかわらず,上記
被告らは本件請負契約上の工事代金を支払い,また,被告Cは本件入札に際し,被告ヤマト興業が入札書を差し替えることを認め,それぞれ談合という不法行為に加担したものであると主張し,上記事実を前提に,本件請負契約により,奈良県が損害を受けたことは,被告らの奈良県に対する不法行為によるものであるとして地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告らに対し損害賠償請求をしている事案である。
二 前提事実(争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
1 当事者
 原告らは奈良県の住民であり,被告Aは奈良県知事,同Bは奈良県農林部長,同Cは奈良県農林部耕地課長で本件工事の入札の執行者であり,被告指名業者らは奈良県の建設業者であり,本件入札の指名業者である。
2 本件入札の執行経緯等
(一) 奈良県は奈良県β土地改良事務所会議室において平成10年11月17日本件入札を実施し,被告指名業者らが入札に参加した。
(二) 本件入札が執行された当日及び本件請負契約締結までの経緯は次のとおりである(甲事件の甲4,10,13の1ないし5,25,乙1,乙事件の甲2ないし4,6)。
(1) 本件入札当日,入札書を被告指名業者らが投函した後,開札録に入札金額を記載途中または記載終了後に,入札参加者の中から入札書に「間違いがある」との声があがり,入札会場が混乱し,「ヤマト興業が間違っている。」とのことであった。
 入札担当者はこの状況にどう対応してよいかと耕地課長である被告Cに電話で指示を仰いだところ,同被告は被告ヤマト興業に対して間違いを確認し,その上で入札参加者全員の同意があれば入札書の差し替えを認める旨,上記担当者に指示をした。
(2) 上記担当者は同被告の指示を受け,引き続き入札事務の執行に当たり,入札参加者全員の同意を得て,被告ヤマト興業の入札書の差し替えを認め,同被告は改めて入札書を差し入れた。
 その結果,本件工事は被告寺澤組が2億0300万円で落札し,翌日の平成10年11月18日,奈良県は同被告を請負者として,本件工事について請負金額を2億1315万円(消費税込み)として本件請負契約を締結した。
(3) 被告ヤマト興業の入札書を差し替える前の当初の入札金額は1億9600万円(消費税込みでは2億0580万円)であり(調査嘱託の結果),本件請負契約上の工事代金との差額は735万円である

3 本件請負契約による工事代金の支払
 奈良県は,本件請負契約に基づき,被告寺澤組に対し,次のとおり工事代金全額を支払った。
(一) 平成10年12月22日に4400万円(前払金)
(二) 平成11年5月31日に6021万5000円(部分払金)
(三) 平成12年4月26日に1億0893万5000円(精算払金)
4 地方自治方施行令167条の13,167条の8第2項によれば,「入札者は,その提出した入札書の書換え又は撤回をすることができない。」と規定されており,また,本件入札が執行された会議室にも「すでに投函した入札書の引き替え,変更または取り消しは認めない」との記載事項のある入札心得が掲示され,入札事務担当者が入札業者に対し,当該入札心得を遵守するよう注意していた(甲事件甲10,乙事件甲2)。さらに「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で,談合した者」は,2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられるところでもある(刑法96条の3)。
三 争点
1 本件入札において,被告指名業者らが談合して被告寺澤組に本件工事を落札させたものと認められるか。
(一) 原告らの主張
 本件入札について被告指名業者ら間で談合が行われたことは,次の事実から明らかである。
(1) 前記前提事実記載の本件入札当時の状況,すなわち,本件入札において,いったん最低価格で入札した被告ヤマト興業の入札書が間違っているとしてその差し替えが行われ,その結果本来は2番目に低い入札価格であった被告寺澤組が本件工事を落札した。
(2) 本件入札での被告寺澤組の入札価格は予定価格の直下であり,かつ,落札率(予定価格に対する落札価格の比率)は,98.5パーセントという高率であった。
(3) 落札者である被告寺澤組だけが予定価格を下回る価格で入札し,同被告以外の被告指名業者らはすべて予定価格を上回る価格で入札した。
(4) 落札者である被告寺澤組以外の被告指名業者らは,すべて50万円ずつの差額で入札していること,被告ヤマト興業が当初入札しようとした価格は1億9600万円であったが,他から強制されて差し替えた価格は,上記50万円ずつの差額にそのまま収まる価格であった。
(二) 被告A,同B,同Cらの主張
本件入札において,談合が行われたとの事実は否認する。平成11年の奈良県による調査結果報告によっても,入札参加者12社中の一部,すなわ
ち被告寺澤組,同ヤマト興業,同吉村建設の3社の間で,被告ヤマト興業が落札辞退の意向を示し,被告寺澤組のD部長が被告ヤマト興業と被告吉村建設の担当者に金額メモを渡したとの事実が認められたに過ぎず,入札者全体による談合は無かったことが確認された。
(三) 被告指名業者らの主張
(1) 本件入札において,談合が行われたという事実は否認する。
(2) 原告らが指摘する事由は,いずれも本件入札が談合の結果であるとする根拠にはからない(被告寺澤組)。
(3) 原告らの主張する「談合」については,その具体的内容が明らかではない(被告浦谷組,同三共建設,同堤野組,同山口土木,同山口建設,同新川畑建設,同小西組,同中尾組)。
2 本件入札の手続は違法であって,本件請負契約は違法であり,したがって,本件請負契約に基づく支出は違法と認められるか。
(一) 原告らの主張
(1) 本件請負契約は,地方自治法施行令167条の13,167条の8第2項に明らかに違反し,本件請負契約は違法であり,したがって,本件請負契約に基づく支出は違法である。
(2) 被告A,同B,同Cらの主張
① 前記のとおり,平成11年の奈良県による調査結果報告によると,入札者の一部の3社間に受注調整を疑わせる行為があった(それとても希薄な調整結果に過ぎない。)ものの,入札者全体による談合はなかったことが確認されている。したがって,このような事実をもとに,本件請負契約が「談合による違法無効な契約」と評価することはできない。
② 本件工事は,河川工作物応急対策事業の一環であって,雨量の多い時期に間に合わせるように工期が設定されているのであり,工期の遅延を招くような事態は絶対に避けなければならなかった。そのため,本件入札の事務担当者らは,手続の厳格性を一部犠牲にすることになっても,入札者全員の同意という公平さが維持される限りは入札書の差し替えを認め,錯誤により入札した業者の不利益を回避するとともに契約締結の遅滞等の危険性を回避するのがより良い選択であろうと考えたのである。
③ 本件入札の手続に前記前提事実記載の手続的瑕疵があったことは事実であるが,その結果入札の公平さが阻害されたものではなく,手続的瑕疵としては軽微なものである。
 したがって,奈良県と被告寺澤組との間の本件請負契約は有効である。ましてや,本件請負契約については,既に工事が全部完了してお
り,契約の法的安定性及び本件工事の高度な公共性の観点にてらしても,前記手続上の軽微な瑕疵は本件請負契約の法的効力に影響を及ぼさない。
3 被告らの責任
(一) 原告らの主張
(1) 被告A,同Bについて
① 被告Aは,本件請負契約に関し,県知事として奈良県の本来的契約締結権者であり,被告Bは本件請負契約の専決権者であるところ,本件入札は,被告指名業者らの談合による違法なものであるにもかかわらず,同被告らは被告寺澤組との間に本件請負契約を締結し,談合という不法行為に加担した責任がある。
② 仮に被告A,同Bにおいて,本件請負契約締結当時,本件入札が談合による違法なものであることを知らなかったとしても,同被告らは,本件請負契約締結後,奈良県議会での質疑応答や奈良県の調査等によって,本件請負契約が談合による違法な契約であることが判明したにもかかわらず,被告寺澤組に本件工事を続行させ,奈良県をして,平成11年5月31日に6021万5000円を,平成12年4月26日に1億0893万5000円を支払わせ,結局本件請負契約にかかる工事代金全額の支払を完了させたことにより,奈良県に対する不法行為責任を免れない。
(2) 被告Cについて
 被告Cは本件入札において,被告ヤマト興業が入札書の差し替えをすることを認め,違法な本件請負契約の締結に加担した不法行為責任がある。
(3) 被告指名業者らについて
 被告指名業者らは,入札参加者として,落札価格を引き上げるために、入札前に談合により被告寺澤組を本命と決め,同被告の指示に従い,同被告の入札額より高い入札額で入札し,同被告が予定価格直下の価格で落札することに協力したもので,被告指名業者らの行った談合は違法である。被告指名業者らは,民法709条によって,前記談合によって奈良県の被った損害を賠償する責任がある。
(二) 被告A,同B,同Cらの主張
(1) 本件請負契約が違法無効な契約と評価することができないことは前記のとおりである。そして,本件入札に当たり,被告指名業者らの全部又は一部で談合又は談合的話合いがされていたという認識は全くなかったし,それに類する事前の風評の類も一切なかったもので,被告A,同B,同Cらは,本件談合に一切加功,荷担していない。
(2) 本件入札の手続に,前記前提事実記載の手続的瑕疵があったことは事実であるが,その結果入札の公平さが阻害され
たものではなく,瑕疵としては軽微なものである。したがって,奈良県と被告寺澤組との間の本件請負契約は有効であるし,本件請負契約の法定解除事由は存在しない。
 まして,本件請負契約については,平成11年5月末日時点における工事執行済割合は89パーセントに達していた(同年4月末時点でも69パーセントに達していた。)。この段階で,契約の失効を主張して工事遂行と代金支払を停止したとすれば,却ってそれまでの出来高の確定,残工事の執行計画作成,設計図書の作成,工事費積算,入札等の作業が新たに必要となり,出水期の現場維持管理者も新たに必要となるなど,多大の損失を生じることになる。その上,何よりも,河川工事の遅滞は県民の生命及び財産への危険に関わる重大問題である。
 このように,契約の失効には厳しい社会的制約が伴い,契約の安定性が蔑ろにされてはならない。したがって,奈良県の調査結果が出された平成11年5月以降,被告寺澤組に工事を完遂させ,同被告に工事代金全額を支払ったことをもって,違法又は不当な行政判断と評価することはできない。
(三) 被告寺澤組の予備的主張(過失相殺)
 仮に被告寺澤組について奈良県に対し不法行為に基づく損害賠償義務があるとしても,本件入札は,前記前提事実記載のとおり,奈良県職員の不適切違法な指示により入札書差し替えが実行されたのであるから,奈良県職員の過失は奈良県側の過失として過失相殺の法理が適用されるべきである。そうして,過失割合は奈良県4,被告寺澤組が1として損害の負担をさせるのが相当である。
3 奈良県の受けた損害
(原告らの主張)
(一) 主位的主張
(1) 本件入札の被告寺澤組の落札額は2億1315万円(消費税込み)であるところ,最低制限価格は1億7304万円(消費税込み)であるから,その差額である4011万円が本件談合により奈良県が受けた直接の損害である(なお,他の地方公共団体の公共事業にかかる談合刑事事件の捜査結果から検討すると,談合による発注者の損害は,控えめにみても請負工事代金の20パーセントとしてもよいと考えられるところ,どんなに損害を低くみても,請負工事代金の10パーセントは下らない。)。
(2) 弁護士費用としては,日弁連の報酬規程による567万円が相当である。
(二) 予備的主張
(1) 仮に主位的主張に理由がないとしても,本件入札にあたり,入札書差替え前の
被告ヤマト興業の入札額であった2億0580万円(消費税込み)と前記被告寺澤組の落札額である2億1315万円(消費税込み)との差額735万円が本件談合により奈良県が受けた直接の損害である。
(2) 弁護士費用としては,日弁連の報酬規程による137万円が相当である。
第三 争点に対する判断
一 争点1について(被告指名業者らの談合の事実)
1 本件入札に関し,被告指名業者らが談合を行ったことを個々に直接立証する証拠はなく,談合の具体的な日時,場所,方法等は明らかではない。しかしながら,本件事案においては,以下の諸事実に照らし,被告指名業者らが自らは談合に参加(共謀)していないとの積極的,合理的な反証がないかぎり,被告指名業者らが談合して被告寺澤組に本件工事を落札させたものと認めるのが相当であり,本件においては上記反証はない(甲事件甲10,13の1ないし5,25の1,乙1,乙事件甲2,6)。すなわち,
(一) 前記第2の2の2の(一)及び(二)記載の争いがない事実のとおりの本件入札の異例な執行経緯の状況に加え,本件入札において,いったん最低価格で入札した被告ヤマト興業の入札書の差し替えが行われた結果,本来は上記差し替えがなければ落札しえなかった被告寺澤組が本件工事を落札した。
(二) 本件入札の被告寺澤組の落札率(予定価格に対する落札価格の比率)が98.5パーセントという高率であり,かつ,落札者である被告寺澤組だけが予定価格の直下であり,他の被告指名業者らの入札価格は全て予定価格以上の入札価格であった。
(三) 次のとおり,落札者である被告寺澤組以外の被告指名業者らの入札金額は,2億2800万円から2億3300万円までの間に50万円ずつの差額で均等,一直線に並んでいることが明らかであり,しかも,被告ヤマト興業が当初入札しようとした価格は1億9600万円であったが,差し替えた後の価格は,上記一直線上に並ぶ価格に収まっているものであって,被告指名業者らの事前の協定なしにこのような事態が生じることを偶然によって説明することは困難である。
(1) 被告寺澤組 2億0300万円
(2) 被告中尾組 2億2800万円
(3) 被告吉村建設 2億2850万円
(4) 被告ヤマト興業 2億2900万円
(5) 被告新川畑建設 2億2950万円
(6) 被告堤野組 2億3000万円
(7) 被告山口土木 2億3050
万円
(8) 被告小西組 2億3100万円
(9) 被告浦谷組 2億3150万円
(10) 被告山口建設 2億3200万円
(11) 被告中和開発 2億3250万円
(12) 被告三共建設 2億3300万円
 以上(一)ないし(三)の事実を総合すれば,本件入札は,被告指名業者ら全員によって,被告寺澤組を本件入札の落札者とするために協定(談合)を行ったことが強く推認されるものといわざるを得ず,上記推認を動かすに足りる証拠はない。
二 争点2について(本件入札手続の違法性)
1 地方自治法施行令167条の13,167条の8第2項によれば,指名競争入札に関しては「入札者は,その提出した入札書の書換え,引換え又は撤回をすることができない。」と規定されているところ,上記規定は,入札に関しての談合を防止する方策の1つとして重要な手続を定めているものである。本件入札の執行経緯は前記のとおりであって,上記事実によれば,本件入札は,上記手続規定に明らかに違反するものであり,その手続的瑕疵は重大かつ明白である。したがって,本件請負契約は違法と言わざるをえない。
2 被告A,同B,同Cらは,本件工事の遅延防止と本件入札の公平性の維持とを考慮した結果,手続の厳格性を一部犠牲にしてでも入札書の差し換えを認め,錯誤により入札した業者の不利益を回避するとともに契約締結の遅滞等の危険性を回避するのが妥当であると考えたのであるから,本件入札に違法はないこと及び本件入札の手続的瑕疵によっては入札の公平さが阻害されておらず瑕疵としては軽微なものである旨を主張して,本件入札手続の違法性及び本件請負契約とこれによる支出の違法性を争っている。
 しかし,前記のとおり,入札書の差し替えということによって犠牲にされた手続は,到底軽微な瑕疵などといえるものでなく,本来公正さを担保すべき入札手続のなかでも特に重要な部分の瑕疵であり,また,入札者全員の同意とは正に談合にほかならない。本件では,前記のとおり,結果的にも入札の公平性が阻害されたことは明らかである。そうすると,同被告らが主張する本件工事の緊急性,工期の遅延防止,本件請負契約について既に工事が全部完了していること及び本件工事の高度の公共性といった事実を斟酌するとしても,これらの事情は上記違法性の判断を左右する理由足りえない。同被告らの上記主張は採用の限りではない。
3 本件請負契約
の効力
(一) 一般に,地方公共団体と私人間の契約において,契約締結過程に手続的瑕疵があるからといって当該契約が当然に無効となると解すべきではない。なぜならば,当該契約の有効無効を単なる手続的瑕疵の有無にかからしめることは,当該契約について手続的瑕疵がないものであってこれを有効な契約と信じた契約当事者の地位を不当に不安定にすることとなり,取引の安全を害するからである。
(二) しかしながら,本件事案においては,本件入札に際し,被告指名業者らが談合をし,予定価格直下で本件工事を被告寺澤組に落札させるという違法行為を共謀し,かつ,本件入札手続自体にも重大かつ明白な違法があったことは明らかであるものであって,このような場合においても,本件請負契約を有効なものとして被告寺澤組の利益を保護する必要はなく,奈良県においても本件請負契約を有効なものとして必ず維持しなければならない理由,利益がないものである(本件工事の緊急性,工期の遅延防止,本件請負契約について既に工事が全部完了していること及び本件工事の高度の公共性といった事実を斟酌するとしても変わりはないことは前判示のとおりである。)。
 そうすると,本件請負契約は前示1及び2の事実に照らし,違法な契約であって,私法上も無効な契約といわねばならない。したがって,本件請負契約に基づく前記支出は,客観的には違法なものである。
四 争点3について(被告らの責任)
1 被告Aについて
(一) 被告Aは,奈良県知事として奈良県の本来的契約締結権者であり,被告寺澤組に本件工事を発注し,本件請負契約を締結したものである(甲事件甲4)。
 もっとも,本件請負契約は,平成10年11月17日に執行された本件入札の結果に基づき,本件請負契約の専決権者である被告Bの決裁に則り,翌18日に締結されたものであって,被告Aが,本件入札の手続が違法なものであることを知りながらあえて本件請負契約を締結したものと認めるに足りる証拠はない。したがって,同被告が本件請負契約の本来的契約締結権者であるからといって,本件請負契約を締結したこと自体をもって同被告に対し,直ちに奈良県に対する不法行為責任を問うことは困難である。
(二) しかしながら,証拠(甲事件甲5ないし12,13の1ないし5,14の1ないし14,25の1,乙1,乙事件甲1ないし6,7の1ないし3,8ないし10)及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1) 本件入札が客観的にみて談合による違法な手続によって執行されたものであること,しかもその手続的瑕疵は重大かつ明白であることは前記のとおりであるところ,奈良県においては,平成11年3月4日の定例県議会において県議会議員の知事に対する一般質問の中で,前記違法な本件入札の執行経緯が詳細に述べられ,併せて知事の所見を問われ,知事である被告Aは,奈良県農林部における調査の結果をふまえ,上記質問中の事実経過をほぼ認めた上,本件入札が手続において適切さを欠いていたことは指摘のとおりであり,誠に遺憾である旨答弁しているところである。
 したがって,遅くとも被告Aは,平成11年3月までには,農林部農地課長である被告Cの指示に基づく入札書の差し替えという違法な手続で本件入札が執行され,その開札結果(甲事件甲25の1)も談合が行われたと理解するのが自然であることを充分に知悉していたものといわざるをえないし,上記のように知悉していなかったとすれば,そのこと自体が知事の職務上の義務に違反する重大な過失である。
(2) 上記事実は同日の夕刊や翌日の朝刊によって,広く新聞報道され,さらに同月10日の奈良県議会の予算審査特別委員会における農林部関係の審議の中で,本件入札経緯が重ねて取り上げられ,被告B及び同Cは本件入札の前記経緯を認め,被告Bは上記委員会において再調査する旨答弁している。
(3) さらに奈良県は,上記県議会での質問や新聞報道等で,本件入札の経緯が明らかになったことを受け,「県営農業用河川工作物応急対策事業臨時県単河川改良事業α地区下部工工事入札談合疑惑に係る調査委員会」を設置し,同委員会は,本件入札の入札事務担当職員や被告C,被告指名業者らに対する事情聴取等の調査を進め,同年4月,前記のとおりの本件違法な入札経緯に係る事実関係を「耕地課のα地区下部工工事入札に係る調査報告書」として作成した。
(4) 原告らは,同年3月24日に,乙事件原告らは同年4月5日に,それぞれ本件入札に関し,違法な談合による入札が行われたとして住民監査請求をし,これら監査請求を受けた奈良県監査委員は,同年5月19日,「住民監査請求に関する監査の結果について(通知)」を発した。上記通知の中で,奈良県監査委員は,ほぼ前記本件入札の経緯を認め,本件入札は,地方自治法施行令1
67条の13,167条の8第2項の規定に明らかに違反したものと判断し,知事に対し,本件(入札)について厳正な措置を講ずるとともに,今後かかる事態の再発を防止するため,入札制度における公正かつ自由な競争を確保するための改善などの必要な措置を講ずる必要があるとの一般的な勧告をするとともに,こと本件入札に関しては,「本件については,公正な競争を阻害する疑いのある反社会的な行為があり,また,法令に違反する入札の結果をもとに締結された契約であると認められるので,本件工事の中断も考慮に入れながら,信頼回復のため,厳正な措置を講ずること。」と特に具体的な勧告をし,上記勧告に基づく措置期限を平成11年7月21日と定めたところである。
(5) 平成11年6月4日,当庁に本件甲事件が提起され,同月25日,被告Aに上記訴状が送達され,さらに同年7月22日には本件乙事件も提起され,同年8月13日には乙事件被告らに上記訴状が送達された。
(6) しかしながら,奈良県知事である被告Aは,奈良県監査委員の前記勧告を受けていながら,本件請負契約そのものについては上記勧告に沿う何らの措置を講ぜず,奈良県は本件請負契約に基づき,同年5月31日に被告寺澤組に対し,本件工事の代金の部分払いとして6021万5000円を支払い,さらに平成12年4月26日には1億0893万5000円を支払い,既に平成10年12月22日に支払われていた前払金4400万円と合わせて,本件請負契約上の請負代金全額の支払を完了したものである。
(7) 上記平成11年5月31日の部分払の後の同年6月4日,奈良県知事である被告Aは,本件入札に関し,内部的処分として,地方公務員法29条1項1号等により,農地部耕地課長である被告Cを3月間給料減給10分の1に,耕地課副主幹兼管理用地係長を戒告に,γ広域農道整備事務所次長(元β土地改良事務所次長)を特別文書訓告に,耕地課主査を厳重注意に,農林部長である被告Bを戒告に,耕地課参事を特別文書訓告にそれぞれ処分した。
(8) 被告Aは,奈良県知事として,平成11年7月21日,奈良県監査委員の前記是正勧告に関し,同委員に対し,「不正又は不誠実な行為をなした建設業者の処分について」として,被告寺澤組を指名停止3か月,被告ヤマト興業及び被告吉村建設を指名停止2か月とする措置を行った旨通知しているが,前記のとおり,被
告寺澤組との関係においては,本件請負契約そのものについて,何らの是正措置を講ずることはなかった。
(三) 以上の事実関係に照らすと,被告Aにおいては,本件請負契約締結時においては本件入札について被告指名業者らによって談合が行われたことや本件入札の手続に重大かつ明白な違法があるとは知らなかったとしても,前記平成11年3月4日の県議会での一般質問での本件入札に関する質疑応答,予算審査特別委員会における農林部関係の審議の経過,農林部の調査結果,住民監査請求を受けた奈良県監査委員の本件請負契約に関し厳正な是正措置を求める勧告等の一連の経過の中で,本件請負契約が,被告指名業者らの談合によるものであるのみならず,奈良県農林部耕地課長の指示に基づく違法な入札手続の結果であることを充分に知悉し,あるいは知悉しえたものである。
 そうすると,奈良県知事である被告Aとしては,本件請負契約を当該契約どおり遂行してはならず,本件工事請負契約を見直すとともに就中工事代金の支払に関しては,被告指名業者らの談合による奈良県の被る損害を防止すべく適切な手段を講ずるべきであったといわねばならない。
 しかるに,被告Aは,前記のごとく被告Cらを処分し,被告寺澤組ほか2業者を指名停止3か月ないし2か月とする措置をとったのみで,前記奈良県監査委員によって指摘を受けた本件請負契約そのもの是正に関しては何らの措置を講ずることはなかった。そして,既に本件甲事件及び本件乙事件が提起されているにもかかわらず,奈良県をして,平成12年4月26日には被告寺澤組に対し1億0893万5000円を支払わせ,本件請負契約上の工事代金全額の支払を完了させたものである。
 このように,同被告の上記行為は,明らかに知事としての職員に対する指揮監督権の不行使による職務義務違反に止まらず,知事として本件請負契約に関し,奈良県が損失を被ることのないようにするための是正措置を講じないまま,奈良県をして,違法な本件請負契約上の工事代金全額を被告寺澤組に支払わせたものであって,同被告の上記行為は,知事としての職務上の義務に著しく反する違法な行為である。同被告は民法709条によって奈良県に対する不法行為責任を負うものと認めざるを得ない。同被告は,本件請負契約によって奈良県が被った損害を賠償する責任がある。
2 被告Bの責任被告Bは本件請負契約の専決権者であ
るところ,本件入札の開札録(甲事件甲25の1)は,耕地課長である被告Cの決裁を受け,平成10年11月17日あるいは翌18日に農林部長である被告Bの閲読に供されたもので,上記開札録には,本件入札が指名競争入札であること,予定価格が2億1630万円であること,最低制限価格が1億7304万円であることが明記され,かつ,被告らの入札金額が,被告寺澤組のみが予定価格を下回り,さらに他の指名業者らが一律に予定価格を上回る50万円刻みの入札価格であるという,およそ偶然とは考え難い奇異な入札結果であったのであるから(もっとも,上記開札録の入札金額は一見したところでは上記50万円刻みの入札金額であるとは分からないように記載されているが,各金額を並べ替えてみれば50万円刻みの不自然極まる入札であることは瞭然としており,上記はわずかな注意を払えば当然に気付くことであった。),本件請負契約の専決権者である被告Bとしては,本件入札結果の不自然さを疑い,直前の決裁者である耕地課長の被告Cに入札経過を確認するなどして本件入札の経緯を確認すべき職務上の注意義務があったものというべきである。しかるに同被告はそのような義務を尽くすことなく,自らの専決権を行使して奈良県知事をして本件請負契約を締結させるに至ったもので,同被告は本件請負契約によって奈良県が被った損害に対し不法行為に基づく賠償責任を負うものといわねばならない。
3 被告Cの責任
 本件入札が,被告指名業者らの談合に基礎を置いているものであったことは前記のとおりであり,被告Cが上記談合に直接かかわっていたとの証拠はない。
 しかしながら,本件入札は,前記のとおり,明らかに地方自治法施行令167条の13,167条の8第2項の規定に違反するものであり,そのような事態を招来させたのは,もとより被告指名業者らの談合に基づくものではあるが,本件入札当日,談合に従わない被告ヤマト興業の入札書の差し替えということがなければ談合が成功することはなかったのであって,上記入札書の差し替えによって本件談合が完結したものであるところ,本件入札の事務担当職員に対し上記入札書の差し替えを認める指示をした被告Cは,談合に荷担し完結させた直接の責任者といわざるを得ない。同被告は,奈良県に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。
4 なお,被告A,同B,同Cらは,本件工事の進捗
状況や契約の失効がもたらす奈良県の損失や県民の生命財産への危険性を挙げ,本件請負契約を何ら見直すことなく完結させたことに違法,不当はない旨主張するが,前記のとおり,本件入札が明白かつ重大な手続違反による違法なものであった事実にかんがみれば,上記主張は採用の限りでないばかりでなく,上記主張にかかる損失や危険性についての具体的な立証はない。
5 被告指名業者らの責任
(1) 本件入札が被告指名業者らの談合に基づくものと認めるべきであることは前記のとおりであるところ,被告指名業者らは,被告寺澤組が予定価格ぎりぎりの価格で落札することに協力したもので,上記談合は被告指名業者らの奈良県に対する明らかな不法行為であり,被告指名業者らは民法709条によって本件請負契約によって奈良県が被った損害を賠償する責任がある。
(2) 被告寺澤組の予備的主張について(過失相殺)
被告寺澤組は,本件入札がなされたのは,奈良県職員の不適切違法な指示により入札書差し替えが実行されたためであるから,奈良県職員の過失は奈良県側の過失として過失相殺の法理が適用されるべきであると主張する。
 しかしながら,本件入札書の差し替えが,県職員である被告Cの指示によったことは前記のとおりであり,上記措置が違法な県職員の指示であることは明らかであるが,上記Cの違法な行為は,これによって被告寺澤組の奈良県に対する不法行為責任を軽減させる要素と評価すべきではなく,むしろ被告指名業者らによる談合を完結させ,被告寺澤組に違法,不当な利益を発生させるという奈良県に対する共同不法行為者として奈良県に損害を与えたという関係にあるものである。したがって,奈良県側の過失によって被告寺澤組に損害を与えたことを前提とする過失相殺の主張は理由がない。
五 争点4について(奈良県の受けた損害)
1 本件入札による本件請負契約上の請負代金(被告寺澤組の落札額)は2億1315万円(消費税込み)であり,最低制限価格は1億7304万円(消費税込み)であることは前記のとおりであり,その差額は4011万円である。しかしながら,談合による奈良県の損害を認定するについては,本件入札に見られる談合がなく,本件工事が,本来の自由競争によって入札されていたとした場合の最低制限価格を上回る最低入札者の入札金額との差額がその損害と認めるべきものであるところ,上記自由競争により得ら
れる価格を認定,確定することはもはや不可能である。他方,本来損害賠償責任の範囲は,能うる限り,その実際の損害によるべきものであるから,原告らが主張するように,本件請負契約上の工事代金と最低制限価格との差額の4011万円をそのまま奈良県の損害とみなすこともできない。また,原告らが主張するように,過去の談合事例を基に統計的手法によって落札価格を認定することも俄かには左袒し難い。自由競争による入札価格は,その時々の経済情勢や各工事ごとの個別の事情によって変化することを考慮せざるを得ないからである。
2 ところで,前記のとおり,本件で入札書の差し替えが行われなかったとすれば,本来であれば,被告ヤマト興業が本件工事を2億0580万円(消費税込み)で落札したはずであった。そうして,被告寺澤組の落札額は2億1315万円(消費税込み)であったことは前記のとおりであり,その価格差は735万円である。
 したがって,本件事案において奈良県の損害の額を認定するについては,上記価格差である735万円をもって本件の談合による奈良県の損害とみるのが相当である(なお,原告らは,奈良県の損害につき「主位的請求」,「予備的請求」と区別して主張,請求しているが,主位的請求及び予備的請求も,結局のところ,本件請負契約が談合に基づき違法な入札手続を経由しているものであるとして不法行為責任を根拠に,奈良県に代位して被告らに対し損害賠償請求権を行使しているのであるから,両請求をあえて訴訟物が異なるものとして扱い,判断することはしない。)。
3 弁護士費用について
 原告らは,本件訴訟において,弁護士報酬(原告ら代理人に対するものと解される)をも請求しているが,上記請求は理由がない。
 すなわち,地方自治法242条の2第7項によれば,同法同条の2第1項4号の住民訴訟を提起した者が,勝訴(一部勝訴を含む)した場合において,弁護士に報酬を支払うべきときは,普通地方公共団体に対し,その報酬額の範囲内で相当と認める額の支払を請求することができるとされているところ,上記にいう「勝訴した場合」とは,上記住民訴訟が確定した場合と解すべきは当然である。そうすると,普通地方公共団体に弁護士費用相当額の損害が発生したというためには,当該住民訴訟を提起した住民から,確定した勝訴判決をうけた同項に基づく弁護士報酬の請求に対し,当該普通地方公共団
体が相当な弁護士報酬を支払うかあるいはその支払を約束することによって,初めて当該普通地方公共団体に上記弁護士報酬相当額の損害が発生し,これを当該住民訴訟の被告に請求しうることになるものである。
 したがって,奈良県には,原告らが主張するような弁護士報酬相当額の損害は未だ発生していないものであり,弁護士報酬に関する原告らの請求は理由がない。
第四 結論
 被告らは,奈良県に対し,各自本件入札によって奈良県が被った前記第三の五(争点4について)の2で認定した損害金735万円及びこれに対する不法行為の後である平成10年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払う義務があり,原告らの請求は上記限度で理由がある(なお,仮執行の宣言は相当でないのでこれを付さない。)。
(乙事件について)
第一 請求
一 乙事件についての主文と同旨
二 仮執行宣言
第二 事案の概要
一訴訟物
1 甲事件の「第二事案の概要」一の1記載のとおり。
2 本件は,奈良県の住民である原告らが,本件入札は,甲事件被告指名業者らの談合によって行われ,かつ入札手続は,地方自治法施行令167条の13,167条の8第2項に違反する違法なものであるから,本件請負契約は適法な入札を経ないものであり,地方自治法234条3項に違反し無効であるとして,上記無効な契約に基づく支出が違法であることを知りつつ,あるいは重大な過失により違法であることを確認しないまま職務権限を行使し,本件工事代金を支払ったもので,上記事実を前提に,乙事件被告らが支払った本件請負契約上の工事代金の内,735万円について,奈良県に損害が生じていると主張し,上記損害を受けたことは,被告らの奈良県に対する不法行為であるとして地方自治法242条の第1項4号に基づき,被告らに対し損害賠償の請求をしている事案である。
二 前提事実(争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
1 当事者
 原告らは奈良県の住民であり,乙事件被告Eは本件入札当時から平成12年3月31日までは奈良県農林部農政課長の地位にあり,本件工事予算の内,耕地課に関する支出命令の専決権を行使していた者であり,同Fは本件入札当時から今日まで奈良県土木部監理課長の地位にあり本件工事予算のうち河川課に関する支出命令の専決権を行使している者であり,同Gは本件入札当時から平成12年3月31日ま
で奈良県出納長の地位にあり本件工事に関する支出権限を行使していた者である。
2 本件入札の執行経緯等
(一) 甲事件についての「第二事案の概要」二の1ないし3記載のとおりである。
(二)(1) 奈良県会計規則(平成7年3月31日奈良県規則第67号・乙事件甲11)26条によれば,支出命令者は,支出しようとするときは,支出命令書に次に掲げる書類を添えて出納長又は出納員に支出を命令しなければならないとされている。
 請求書,支出の原因及び計算の基礎等を明らかにした書類,(略)。
(2) さらに,同規則27条によれば,出納長は,当該支出が,地方自治法232条の4第2項に規定する確認をすることになっている。そうして,同法同条同項によれば,「出納長又は収入役は,前項の命令を受けた場合においても,当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでなければ,支出をすることができない。」とされている。
三 争点
1 甲事件「第二事案の概要」三の1及び2記載のとおり。
2 被告らの責任
3 奈良県の損害
第三 争点に対する判断
一 争点1について(談合と本件入札手続の違法)
1 本件入札において,被告指名業者らが談合して被告寺澤組に本件工事を落札させたものと認められ,かつ,本件入札手続が地方自治法施行令167条の13,167条の8第2項に明らかに違反するものであり,本件入札の手続的瑕疵は重大かつ明白であることは甲事件についての判断記載のとおりである。
2 また,本件請負契約が違法な契約であって,私法上も無効な契約といわねばならず,本件請負契約に基づく前記支出は,客観的には違法なものであることも前記甲事件での判断記載のとおりである。
二 争点2について(被告らの責任)
1 本件工事代金については,平成10年12月22日と平成11年5月31日の支払分はすべて執行機関を耕地課とし,それぞれの時に農林部農政課長であった被告Eが支出命令を専決決裁し,それぞれの時に出納長の地位にあった同Gが支出したものであり,平成12年4月26日の支払分(精算払金)は耕地課を執行機関とするもの9879万4850円,河川課を執行機関とするもの1014万0150円の合計であり,耕地課関係分は被告Eの後任の林洋農林部農政課長が支出命令を専決決裁し,河川課関係分は被告Fが土木部監理部長と
して支出命令を専決決裁し,そのいずれについても同Gの後任であるH出納長が支出したものであって,以上の事実は争いがない。
2 ところで,地方自治法232条の4によれば,その1項において,「出納長又は収入役は,普通地方公共団体の長の命令がなければ,支出をすることができない。」とされていることから,被告らの上記各権限による本件請負契約上の工事代金の支出への関与は,奈良県知事の命令に基づくものであって,本件請負契約が客観的に違法であるとしても,被告らの本件工事代金の支払を奈良県に対する不法行為を構成するとは直ちには肯認することはできない。
3 しかしながら,前記のとおり,奈良県会計規則26条によれば,支出命令者は,支出しようとするときは,支出命令書に,請求書,支出の原因及び計算の基礎等を明らかにした書類を添えて出納長又は出納員に支出を命令しなければならないものであるから,支出命令者において,当該支出が談合に基づいた違法な入札手続による本件請負契約上の支出に関するものであることは当然知ることができたものであり,さらに,同規則27条によれば,出納長は,たとえ当該支出が普通地方公共団体の長の命令があったとしても,地方自治法232条の4第2項に規定する確認(適法な支出であることの確認)をする義務があり,同法同条同項によれば,「出納長又は収入役は,前項の命令を受けた場合においても,当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでなければ,支出をすることができない。」とされているところである。
4 そして,甲事件についての判示のとおり,平成11年3月4日の県議会での一般質問での本件入札に関する質疑応答,予算審査特別委員会における農林部関係の審議の経過,農林部の調査結果,住民監査請求を受けた奈良県監査委員の本件請負契約に関し厳正な是正措置を求める勧告,奈良県知事による関係職員や業者への処分等の一連の経過の中で,本件請負契約が,被告指名業者らの談合によるものであるのみならず,奈良県農林部耕地課長の指示に基づく違法な入札手続の結果であることは十分に知られていたもので,被告らも上記のような経過は知っていたかあるいは当然知りうべき状況にあったものと認められる。
 そうすると,少なくとも,平成11年5月31日の6021万5000円の支出(部
分払)については,耕地課長として専決決裁をした被告E及び出納長として支出した被告Gにはその重大な過失によって職務義務に違反し,違法な公金の支出をしたものであり,平成12年4月26日の1億0893万5000円の支出(精算払分)については,その内河川課を執行機関とする分1014万0150円の支出については土木部監理課長として専決決裁をした被告Fにおいてその重大な過失によって職務義務に違反し違法な公金支出の専決決裁をしたもので,上記各支払は,甲事件についての認定の本件請負契約による奈良県の損害である735万円をいずれも上回るものである。
 したがって,被告らが関係する上記各支出は奈良県に対する不法行為を構成し,被告らはそれぞれ奈良県に対し与えた損害を賠償する責任がある。
三 争点3について(奈良県の損害)
 甲事件についての判示のとおり,奈良県は,本件請負契約が被告指名業者らの談合に基づくものであり,かつ,本件入札が重大かつ明白な違法な手続によって執行された結果,735万円の損害を被ったものである。
四 なお,乙事件被告らは,乙事件は甲事件と訴訟物を同一にするから,地方自治法242条の2第4項の別訴の禁止規定に違反し不適法である旨主張するが,甲事件と乙事件とは被告らを異にし,したがって,当然のことながら訴訟物を異にするものであるから,乙事件の提起が地方自治法242条の2第4項の別訴の禁止規定に違反するものではない。
第四 結論
 原告らの請求は全部理由がある(なお,仮執行の宣言は相当でないのでこれを付さない。)。
奈良地方裁判所民事部
裁判長裁判官 永井ユタカ
裁判官 島川勝
裁判官 松阿弥隆

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